code02:vision10 シャドウストリート
三朝を抱きとめた人物。
驚いて見上げると。
いかにも”ホストです”と言わんばかりの。
茶髪ぎみの男が、両腕をつかんでいた。
「あ、大丈夫?」
すぐには答えられず、見つめていた。
どこから来たのか分からなかった。
「もしかして1人? 飲もうよ、俺と」
うっすい笑顔で見下ろしてくる。
戸惑いながら、言った。
「私、お金持ってないですよ」
男は、一瞬、きょとんとし。
あきれたように、笑って返した。
「ちがうよ、どっかで飲み語ろうって言ってんの。
客引きじゃないよ」
「そうですか……じゃあ」
三朝はスマホを出して、男に見せた。
「このバン」
「え?」
「ゆうべ、そこの裏路地に停まっているところ、見たりしてませんか」
「裏路地?」
今度は男が戸惑っている。
「裏路地には行ってないな」
「見たっていう人は? 知らないですか」
「ストレートだな……何? 探し物?」
「仕事中です」
三朝は画面を切りかえ、
今度は被害者の写真を見せた。
「じゃあ、この子は? 知ってます?」
「……え、ホントに? 刑事とか?」
驚いた風に男は言ったが。
目は意外な色に見えなかった。
「見てないですか。昨日0時ごろ、
クラブ・エージェントを出て裏路地へ歩いたはずなんだけど」
スマホを一瞬、見た茶髪風の男は、
すばやく三朝の”手ごと"スマホを握って。
自分の顔に近づけた。
ためらいのない、自然な動作だった。
「うーん、よくは見る子かなあ」
おいおいその手……と思ったが、
振りほどくわけにもいかず、返事を待つ。
じわっと熱が伝わった。
「1回くらいは飲んだかも……あ。
ネットニュースで見たの、この子だ……」
男は手を離さない。
思案顔でスマホを覗き込んでいる。
「昨夜は見ました? 見てないですか?」
男は、視線を三朝に向けて。
じいっと見つめて、また画面に戻る。
「なんか似てない? 気のせいか。
昨日だろ? 酔ってたけどな……うん、見てないな」
「そうですか」
三朝が下ろそうとした手を、
男は離さなかった。
むしろ握りなおすように引き寄せて。
片眉を上げて、薄ら笑いを深くした。
「刑事さんにしては、えらく可愛いよね」
「そうでもないです」
それよりその手を。
離して欲しい、と言えずにいたら。
「いいよ」
男は、意外なことを言いだした。
「目撃情報だろ? この子と裏路地の」
「え? 聞いてくれるの?」
「これだけ撮らせて」
男は、三朝の手ごとスマホを持ち上げた。
だから近いって――。
片手で出したスマホで画像を撮影し。
「もし情報あったら連絡するよ。名刺とかないの?」
「あ、えと」
三朝はバッグから名刺を出した。
受け取った男が、まじまじと見る。
「へえ。”みささ”ちゃん」
「もしものときは、ご協力お願いします」
「いいよ。そしたら俺と飲んでよね。
女の刑事と飲める機会なんてそうそうないし」
スマホのケースを外して、名刺を入れる。
顔を上げて、ほほ笑んだ。
「カゲって言うから、俺。連絡する。じゃあね」
不敵にも見える表情で。
男は、融け入るように雑踏に消えた。
幻じゃないよな……と見送っていた。
『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。




