code02:vision02 スラム倉庫
――同4月19日 午前9時――
三朝は、吸い寄せられるように近づいた。
遺体に。
高桐や奈守が、きっと見ている。
それも意識の外だった。
すぐ横に膝をついて。
遺体を見たまま、動けなくなった。
三朝の、JPOではじめての現着。
「いやあ、今朝たまたま管理者が来たからよかったものの。
発見が遅れたら大変なことになる所でした。腐敗してねえ」
刑事課長の声がする。
最初に臨場したのは霧海南署。
異動から10日後に起きた事件だった。
「通報は9時3分でしたね」
高桐が訊いている。
「そうです。この倉庫の管理会社からね」
内装ごと取り払われた廃倉庫。
割れた、湿ったコンクリート。
そこに広がる血の海に。
女性の遺体が横たわっている。
まだ、あどけない――。
現場写真で見たのと同じ。
別人だが、同じ光景が、目の前にあった。
「月一度ほど、点検に来てたみたいですな。
ふだんは放ったらかしだそうで、鍵もしてなかったみたいです」
「誰でも入れたと」
「事実、ほら。落書きだらけです、壁中」
たしかに廃倉庫は荒れ果てている。
盗るものだって何もないが。
今回のように悪用される。
その可能性は考えなかったのか。
「身元はね、えーと……スマホのアプリで判明してますね。
立名大学のアプリです。学生証までデジタルなんですな、最近は。
秋葉美波、19歳。東京都米城市出身、杉並区在住。
被害者の指でロックが解除できました。
本体は、すでにお渡ししたと聞いてますが」
19歳――。
あどけなさが残るはずだ。
まだ高校生でも通用するだろう。
自分がこんな姿になるなんて。
「遺体はごらんのとおり、ウチは触っていません。
司法解剖手続きなどはお任せします」
こんな姿……。
三朝はそこで目を止めていた。
被害者の顔を見て、気づく。
差し込んだ、ごくわずかな違和感。
なに?
薄い膜のようだった。
なんだろう……。
目を凝らしても分からなかった。
「両親、友人共に連絡手配済みです。
そちらへ行くよう伝えてありますから」
「ありがとうございます。ほか何かありますか」
「いえいえ。着いてすぐ出動をお願いしましたから。
こんなとこです」
「わかりました。あとはこちらで受け取ります」
霧海南署が撤収をはじめた。
今後は三係が現場を仕切っていく。
三朝はまだ動けずにいた。
違和感の正体。
――遺体の、何が――?
「立樹」
頭上から高桐の声が降ってきて。
三朝は、ゆっくり顔を上げた。
「ここは奈守に任せて本部へ戻るぞ。
被害者の友人から聞き取りだ」
三朝は女性対応要員でもある。
当然、女性の参考人聴取も、
自分の担当になる、ということだろう。
もう一度だけ、被害者を見た。
「……わかりました」
立ち上がると、近づく人影が見えた。
どちらも黒い医療着を羽織っている。
身長差のある、ふたりの男女。
初日に挨拶をした医局の早瀬と椿だった。
「今日は司令長さんもお出でですね」
笑顔を見せた早瀬に、高桐が頭を下げた。
「先日は留守にして申し訳ありませんでした」
第一事件のことを言っているのだろうか。
早瀬の背後の椿と、一瞬だけ目が合った。
「いや、奈守さんがいましたからね。問題なかったですよ」
奈守が視線を上にあげる。
遺体に目を落として、高桐は言った。
「また同様の事件のようです。
今日も奈守を残すので、お願いします」
「夕方には報告書を出しますよ。
今朝は、はじめて椿先生にお願いしようと思っているんでね」
もう一度、椿と目が合った。
感情のない表情に見えた。
三朝より小柄で可愛らしいが。
わずかに苛烈なものを見た気がした。
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