第6話 再戦
階段を駆け上がる。
一段飛ばし、二段飛ばす。ブーツの底がコンクリートを蹴るたびに、身体が信じられないほど軽く跳ね上がった。今の私の身体は、明らかにこれまでとは違う。
男だった頃から身長もかなり縮んでいる。目算で二十センチ以上だろうか。
手すりの位置が高い。天井が遠い。しかし、跳躍力も速度も段違いだった。八年前、文字通り空を駆けていた頃を思い出す。
地上階に出た。
体育館のロビーを突っ切り、外に出る。
灰色の風が頬を打った。
思念空間の冷たい空気。匂いのない、色のない風。羽織の袖と裾が大きくはためいた。銀白の髪が背中で踊る。狐耳が風を捉えて動いた。
走り出す。
走りながら、身体の動きを確かめていく。
重心の位置、腕の長さ、脚の長さ、一歩あたりの間合い。
左手で刀の鞘を押さえる。腰の位置にしっかり収まっている。重心が低くなった分、刀の取り回しは以前より楽なはずだ。
次に魔法を確かめる。
八年ぶりの感覚。けれど魔力の動かし方は迷わなかった。
開いた右の掌の上で風が渦を巻いた。
魔法は「属性魔法」と「概念魔法」に大別される。属性魔法は火、水、風、土、氷、雷、光、闇といった自然やエネルギー的な力になる。概念魔法は個人の心や生い立ちを象徴するモノに基づく「形あるイメージ」が魔法となる。
魔法少女は2つの魔法を契約時に得る。そして、基本的にそれらの魔法は変化しない。最も多いパターンは「属性魔法×概念魔法」、次いで「属性魔法×属性魔法」だ。そして、ほとんどいないパターンが「概念魔法×概念魔法」だ。
私の場合、契約時は属性魔法×概念魔法というオーソドックスな組み合わせであり、「風魔法」と「守護魔法」が発現した。そして、その後妖狐を身体に封印したことで、疑似的な火魔法が使えるようになっている。かなり例外的なパターンだ。
今使うのは——風魔法。
風を足元に薄く敷いて、地面との摩擦を制御する。加速。戦闘音がする方へ向かう速度が一段跳ね上がった。
シンプルが故に当時も数えきれないほど使ってきた。ここまでは問題ない。
次に知識を魔法へと昇華させる。
風を足元から身体の周囲にまで広げていく。空気の鎧——ではなく、流れだ。流体力学で学んだ境界層制御の応用。身体表面に沿った気流を整えることで、空気抵抗が激減し、身体の負担が減るのと同時に更に移動速度が向上する。
八年前は大雑把な制御しかできなかったが、今は理論に基づいて空気の流れを制御することで当時よりも効率的に魔法を発動できている。
さらに——風魔法を並列化して発動する。
今は一つの魔法を、風の向きを足元と身体で使い分けているだけだ。足元と身体の風を別々の魔法として独立させたい。
二つの魔法を同時に維持するのは簡単じゃない。それぞれに意識を割く必要があり、難易度は単独発動とは比べものにならない。普通は一つの魔法でやりくりし、多少の効率低下には目を瞑る。それが魔法少女の常識だった。
しかし、先ほど風魔法を発動したとき、気づいたことがある。
八年ぶりだったからこそ、魔力の起こりから、魔法に変質し、発動するまでの過程を一つ一つ丁寧に意識した。八年前は無意識で流していた内部処理を、今ははっきりと手触りのあるものとして感じ取った。
そしてそれは——プログラミングと近い構造をしていた。
言語も記法もまるで違う。けれど、近しいルールがある。入力があり、処理があり、出力がある。変数を持ち、条件分岐があり、繰り返しがある。
ならば、二つの魔法を並列処理の要領で独立したプロセスとして走らせることができるはずだ。変数を分離して干渉を防ぎ、身体の動きに連動するループ処理を組み込めば、意識しなくても自動で維持される。
自分で内部処理を書き換える。
足元の加速。身体の抵抗低減。二つの魔法が、干渉なく並走する。
——上手くいった。
八年前にはできなかったことだ。
これまで学んだ知識が、魔法少女の力と噛み合い始めている。
身体が馴染んでいく。一歩ごとに、足の運び方、重心の取り方、呼吸のリズムが戻ってくる。八年のブランクを、身体が急速に埋めていく。
正門通りの方角から、轟音が聞こえた。
* * *
芝生の広場を越え、並木道の終わりに差しかかった瞬間、視界が開けた。
あのドラゴンがいた。
もう半透明ではなかった。完全に実体化している。
八年前に付けられた呼称は"イグニス・ニグラ"。鱗の色とブレスから付けられたその名の意味は"黒き炎"。
六階建てのマンションほどの巨躯。漆黒の鱗が灰色の光を鈍く反射している。両翼を広げた幅はそれ以上。長い首の先にある頭部には、右側の角だけがまっすぐに天を突いていた。左側は根本から少し上で折れたまま、ぎざぎざの断面を晒している。
そして——その足元で、一人の少女が戦っていた。
身長よりも長い槍を振るい、イグニスの前脚に斬りかかっている。槍の穂先に赤い炎が纏わりついて、振るうたびに火花が散った。
動きは速い。踏み込みも鋭い。だが、イグニスの鱗には傷ひとつついていない。
少女の服は土に汚れ、ところどころから出血している様子も見て取れた。
——あの子が、エルナ。
あの子が一人で、この状況を凌いでいたのか。
だが、イグニスの動きが緩い。
尾の振り、前脚の薙ぎ、首の旋回。どれも遅い。本気で少女を仕留めようとしていない。猫が小動物をいたぶるような、余裕を持った動きだった。
エルナが今まで耐えられていたのは、あの子の実力もあるだろうがそれだけではないだろう。イグニスが本気を出していなかっただけだ。
随伴のリザードマン型ノクサが二体。少女を挟み込むように左右から迫っている。少女は槍を回して一体の爪を弾き、身体を半回転させてもう一体の突進を躱した。けれど、二体を相手にしながらイグニス本体にも注意を払うのは明らかに無理があった。
右のリザードマンが、少女の背後に回り込んだ。エルナはまだ気づいていない。イグニスと前方のリザードマン一体に意識を取られている。
背後から、鉤爪が振り下ろされる——
私は一気に走る速度を上げた。
走る、というより飛んだ。
風魔法で足元を弾き、一息で距離を詰める。まず最優先はイグニスを抑えること。
左手を前方に突き出した。守護魔法と風魔法を同時に叩きつける。
守護魔法は安易に言ってしまえば、障壁の魔法だ。けど、それも解釈の仕方次第だ。
イグニスの頭部に向かって、圧縮した空気の壁を展開。防御ではなく拘束だ。風圧で首の動きを制限し、守護魔法で周りを囲い込み、身体の自由を制限する。
これだけであいつを止められるわけがない。せいぜい少しの間、動きを鈍らせるだけだ。
だが、その少しがあれば十分だった。
右手から、圧縮した風の塊をこちらに背を向けているリザードマンに向けて撃ち出した。
繊細な制御は要らない。イグニスを抑えながらでは複雑な魔法は使えない。ただの風の砲弾。それでも、至近距離から叩きつければリザードマンを吹き飛ばすには十分だった。
風がリザードマンの胴体を直撃した。鉤爪が少女の頭上を空振りし、巨体が三メートルほど横に弾け飛んだ。
「——!?」
少女が振り返った。
琥珀色の瞳が私を捉えた。
一瞬、その目が大きく見開かれた。
「あなた——」
「話はあとで」
もう一体のリザードマンが体勢を立て直して向かってくる。
風を圧縮して、もう一発。
正面から突っ込んでくるリザードマンの顔面に、風の砲弾を叩き込んだ。頭部が後ろに跳ね上がり、一瞬だけ動きが止まる。
エルナはその隙を見逃さなかった。
炎を纏った槍で、怯んだリザードマンの胴体を貫いた。穂先が鱗の隙間を突き破り、黒い靄が噴き出す。リザードマンが崩れ落ち、靄になって消えていく。
速い。
リザードマンはノクサの中では決して弱い部類ではない。
単体ならA級に相当する。太い尾でバランスを取りながら低い姿勢で突っ込んでくる。鉤爪は鋼鉄より硬く、顎の力は車のドアを噛み砕ける。しかし、身体能力が高いだけで、魔法の部類の力を持っていないので比較的やりやすい相手ではある。
エルナはA級のリザードマン単体なら十分に突破できる火力を持っているようだ。
最初に吹き飛ばした方のリザードマンが、よろめきながら立ち上がろうとしている。
イグニスを抑えている魔法は限界が近い。
風魔法で今度は自分の足元を弾き、一息で距離を詰めた。左腰の鞘から刀を抜く。相手が反応しきる前に、抜刀。
リザードマンの首が地面に転がり、倒れた身体と共にそのまま黒い靄になって消えていく。
ブランクを考慮すれば、悪くない動きができた。そして、今の一撃で刀の間合いも調整することができた。
そろそろイグニスの拘束が解けそうだ。
私はエルナに近寄りながら、呼吸を整えた。
数秒とはいえ、テネブラ級を抑えながらリザードマンを片付ける。風魔法と守護魔法の掛け合わせ、並列処理のおかげで抑えきれたが、魔力の消耗は小さくない。だが、どちらか片方の魔法だけではすぐに破られただろう。
少女が——エルナが、私の隣に駆け寄ってきた。
「あなたは——まさか、アリア…さん、ですか」
名前で呼ばれ、驚いた。その名前を、この子は知っているのか。
「……うん。もう引退した身だけどね」
「組織のデータベースにまだ登録されています。Sランク。唯一、風と守護、そして炎の3つの魔法を扱う妖狐の封印者。文字通り伝説の魔法少女として語られています」
「伝説って」
「八年前、テネブラ級のイグニス・ニグラと戦って生き残った魔法少女の1人。それが、魔法少女アリア」
そこまで伝えたエルナの表情が急に固くなる。エルナの声には若干の緊張と、それ以外の何かが混ざっていた。
「私の魔法少女名はエルナと言います。——本名は天野芽衣」
「天野——」
その姓が、胸を貫いた。
天野。
天野咲良。
咲良の、姓。
「魔法少女ステラ、天野咲良は私の姉です」
芽衣の声は静かだった。
けれど、その静かさの中に、押し殺した何かがあった。
私は言葉を失った。
咲良の妹。妹がいることは聞いていた。しかし、魔法少女になっていたとは思いもしなかった。一人で、姉の仇のドラゴンに挑みに来た。
「……君が」
「はい」
「……一人で来たの? 組織の命令?」
「独断です」
やはり。
「今日は朝から高ランク帯のノクサが頻出していて、かなりの魔法少女が出払っています。そこにとどめのようにS級のノクサが現れました。組織は大騒ぎで、すぐには戦える魔法少女の十分な頭数を揃えられませんでした」
「私はA級の上位には位置していますが、正直、S級と戦えるほど強くないと自覚しています。おそらく討伐メンバーには選ばれない。それでも、八年前のS級と同じ反応、姉の仇だと耳にして——いてもたってもいられなかった」
エルナの手が槍の柄を握りしめていた。関節が白くなるほど強く。
「……死ぬ覚悟です。それでもここに来ないという選択肢はなかった」
私はその言葉を聞きながら、自分がさっき仲間たちの前で言ったことを思い出していた。
——僕は、僕のために戦いたい。
エルナもきっと同じだ。
止められない理由で、ここにいる。
「……分かった」
私は頷いた。
「一緒に戦おう。ただ、私がメインで前に出る。エルナはサポートに回って」
「でも——」
「エルナの攻撃は見た。鱗さえ何とかできれば、あいつにも通じる可能性は高い。でも今のコンディションで前に出たら長くは持たない」
私の見立てでは、全身に切り傷、下手をしたら骨にまでひびがいっているかもしれない。それに魔力もかなり減っているだろう。
「……分かりました」
「ありがとう。それと、使える魔法を教えてほしい。」
「私の魔法は火魔法と槍の概念魔法です。火は槍に纏わせて使うのが基本です。遠距離で火球を飛ばすこともできますけど、精度は落ちます。あとは——魔封印が一枚」
「魔封印?」
聞き慣れない言葉だった。八年前にはなかった技術だろうか。
「アリアさんの時代にはまだなかったかもしれません。魔法を封じ込めた使い切りの道具です。あらかじめ札に魔法を書き込んでおいて、発動すると一回だけその魔法が使える。製造コストが高くて量産はできないんですけど、自分の属性にない魔法を使えるのが強みです」
「なるほど——何の魔法を込めてるの?」
「氷の魔法、"エル・グラキエス"を込めています。炎のテネブラが相手だって分かってたから、対策として用意しました」
"エル・グラキエス"。聞き覚えのある魔法だった。確か氷の魔法の中では最上級に位置する魔法だ。
「規模はどれくらい?」
「半径五メートルくらいの範囲を凍結させるのが限界だと思います」
「分かった。大事に使おう」
* * *
意識合わせを終えた直後だった。
イグニスの拘束が解けた。押さえつけていた首がゆっくりと持ち上がる。
——こっちを見ている。
随伴を片付けた私たちを、初めて「敵」として認識したのか。それとも、私の魔力に八年前の記憶を重ねたのか。
どちらにしても——遊びの時間は終わったらしい。
「来る。気をつけて」
言い終わる前に、イグニスの前脚が地面を蹴った。
六階建て相当の巨体が、信じられない速度で突っ込んできた。
前脚の鉤爪が私めがけて振り下ろされる。跳躍で横に逃れた。爪が地面に突き刺さり、アスファルトが蜘蛛の巣状に割れた。
衝撃波だけで体勢が崩れかけた。
——速い。さっきのエルナのときとはまるで違う。
すぐに尾が横薙ぎに振られた。
「"スクード"!」
今度は回避する間もなく、咄嗟に障壁魔法を展開。尾が障壁に激突した。衝撃が腕から肩まで駆け上がり、足が地面を滑った。障壁にひびが走る。
それでも、尾の振り回しは一撃は防げる。
私は冷静に現状を分析する。肉体と精神が成長したからか、妖狐の力が馴染んだからか。八年前よりも魔法の効力が強まっている。
それでも、物理攻撃は受けるよりも避ける方が望ましいだろう。
「エルナ、離れて! イグニスの間合いの外から牽制して!」
「はい!」
エルナが後方に下がり、火球をイグニスの顔面に向けて撃った。火球は鱗に弾かれて散ったが、一瞬だけイグニスの注意がそちらに向いた。
その隙に、私はイグニスの懐から脱出した。
風で加速しながら側面に回り込む。後脚の付け根——鱗が比較的薄い場所を見つけて、刀で斬りつけた。
硬い。
手首に衝撃が走ったが、今度はほんの少しだけ手応えがあった。鱗の表面に薄い白い線が走った。傷、というには浅すぎる。
(八年前よりも身体能力も上がっているはずなのに…化け物め!)
イグニスが身体を捻った。後脚で地面を蹴り、私を踏みつけようとする。
風で横に飛ぶ。
着地した瞬間、イグニスの喉がかすかに光った。
——ブレス!
だが、光の強さが違う。全力のブレスとは違う。喉の発光が弱い——軽い方だ。
守護の障壁を前面に張った。
炎の奔流が来た。全力のブレスに比べれば細く短いが、それでも人間を焼き尽くすには十分すぎる。障壁がギリギリで受け止め、炎が左右に散った。
障壁を維持したまま横に動き、射線から逃れた。
——軽いブレスは障壁で防ぎつつ回避できる。けれど、全力のブレスが来たら防ぎきれないと考えた方がいい。
八年前と攻撃パターンは同じだ。溜めが短い分、障壁で受けきれる軽いブレスか、若干の溜めがかかる分、障壁でも受けきれない重いブレスか。
(あの溜めの瞬間を絶対に見逃すな。それだけが生命線だ)
イグニスが再び前脚を振り上げた。私は距離を取り、体勢を立て直す。
エルナが側面から炎の槍を投擲した。槍が回転しながらかなりのスピードでイグニスの首筋に突き進む——しかし、刺さらない。鱗に弾かれて地面に転がった。だが、イグニスの注意が一瞬そちらに逸れた。
その隙を狙って私は跳躍し、ドラゴンの首筋に接近した。
角のすぐ下まで——あと五メートル。
右の角。あれを折れば、力の核が揺らぐ。
あと少し——
イグニスの首が振られた。巨大な頭部が横殴りに迫ってくる。
間に合わない。
障壁を張り直す。頭部が障壁に激突し、私の身体が吹き飛ばされた。空中で風を使って姿勢を制御し、地面を転がりながら着地。右腕が痺れている。
——近づいても、最後の数メートルで弾かれる。
そして、角の根元を覆っている硬い鱗を突破する手段もない。
エルナが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!」
「平気。でも——正直、まずい」
私は立ち上がりながら、イグニスを見上げた。
本気を出したイグニス・ニグラは、八年前と変わらず圧倒的だった。角が一本折れている分、当時よりは弱いはず。それでも戦力差は大きい。
角を狙うのは分かっている。氷の魔封印も温存してある。けれど、角に到達するためのルートがなく、決め手にかける。近づいても弾かれ、鱗を貫通できない。
この状況を打開する何かが必要だ。
私は荒い呼吸を整えながら、イグニスの気流を読み続けた。体表の温度分布。鱗の配列。ブレスの予兆となる喉の発光パターン。風魔法で周囲の風を動かし、分析し、感じるものすべてを頭の中に叩き込んでいく。
氷の魔封印と、私の魔法と、まだ——何かが要る。
イグニスが二度目のブレスの体勢に入った。
今度は——喉の発光が、強い。
溜めが入っている。全力の方だ。
「エルナ! 全力で高いところへ!」
二人で建物の高所へ避難し、同時に私は両手を前へ突き出す。
「"ダウン・バースト"!」
魔法には3種類の発動方法がある。
①詠唱+魔法名
②魔法名
③無詠唱
前者ほど発動までの手間はかかり、威力は高くなる。逆に後者ほど発動までの手間は減り、威力は弱くなりやすい。しかし、実際の戦闘で詠唱までしている暇は無いに等しい。それが高ランク帯のノクサならばなおさらだ。
そのため、強い魔法少女ほど魔法名のみ、もしくは無詠唱が基本であり、詠唱を加えたときと比べてどれだけ魔法の威力を下げずに発動できるかが魔法少女としての強さの指標にもなる。
"ダウン・バースト"は標的の上から下に高い圧力をかける魔法だ。あいつの全力のブレス——"煉獄砲"は射程距離が長い。しかし、上方向には射程に限りがある。
だから私はエルナに高所へ逃げるように指示し、イグニスの首が上を向けないように魔法を発動した。
結果、灼熱の奔流が、さっきまで私たちがいた場所を丸ごと焼き払った。地面が溶け、空気そのものが燃えているようだ。後ろや横方向への回避は間に合っていなかっただろう。
熱波が遠くからでも肌を灼く。
煉獄砲は、やはり防御不能だ。溜めの隙を見逃さないこと、回避方向を誤らないこと。それが命綱だ。
ドラゴンがゆっくりと首を巡らせ、私たちを探している。
戦いは、まだ始まったばかりだった。




