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セーブ&ロードで繰り広げられるヤンデレ女ちゃんの恋愛譚  作者: Rabbi


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桐谷まどか

――桐谷まどか


高校二年生。図書委員会所属。身長152センチ、黒髪ボブカット。一見すると地味で大人しい印象だが、よく見ると整った顔立ちに白い肌、少し垂れた目元が庇護欲をそそる。本人はまったく自覚していないが、学年でも密かにファンが多いタイプの女子だった。「隠れ巨乳」という情報は男子の間でまことしやかに囁かれているが、当の本人の前では誰も口にしない。


性格は温厚で控えめ。自己主張が苦手で、いつも一歩引いた位置から周りを見ている。ただし芯は強く、一度決めたことは曲げない頑固さも持ち合わせている。好きな作家は村上春樹。放課後は決まって図書室のカウンターに座り、返却された本を黙々と棚に戻す。趣味は読書と紅茶。休日は古本屋巡り。派手さはないが、生活の隅々まで丁寧に整えられた文学少女。


一年生の頃から真斗を意識していたが、自分から声をかけられずにいた。きっかけは些細なこと——図書委員の仕事で重い資料箱を運んでいた時に、通りがかった真斗が何も言わず手伝ってくれた、ただそれだけ。以来、貸出カードの真斗の名前をこっそり目で追う日々が続いた。四月二十八日に屋上で告白するまで、実に一年以上の片想い。



――何十回、いや百回を超えるループの中、一つだけ変えられない運命があった。



四月二十八日、木曜日。その日の放課後、桐谷まどかが真斗を屋上に呼び出し、告白する。黒髪のボブカットに眼鏡、大人しいが芯の強い少女だ。



「ずっと……好きでした。付き合ってください。」



そして真斗は、その告白を受け入れてしまう。理由は様々だった。いずれにせよ、結末はいつも同じ。


ループがリセットされる度、四月二十八日は必ずやってくる。そして真斗が他の女と手を繋いで帰る姿を見届ける。その翌日、愛莉は笑顔のまま再ロードを押す。


あるループで愛莉はまどかに直接接触したことがあった。事故に見せかけて怪我をさせ、告白イベントそのものを潰そうとした。しかし因果は捻じれ、別の女子が現れただけだった。「運命」は愛莉ではなく真斗側に味方している。書き換えられるのは愛莉自身の行動だけ。


あるループの夕方、人気のない非常階段で一人、日記帳にペンを走らせていた。文字は震え、インクが滲む。


「まただめだった」


「どうして」


「あの女さえいなければ」


びりびりとページを破り、握り潰す。そして顔を上げ、狂気じみた笑みを浮かべた。


「……大丈夫。まだ、やり直せるから。」



――最初の2011年4月28日木曜日

運命が捻じ曲げられる事のない真実のあの日



告白の日の朝、まどかは三時間早く起きた。


鏡の前で髪を整える。いつものボブに少しだけアイロンを当てた。眼鏡を外そうかと迷って結局かけたままにした。「素の自分を見てほしいから」と自分に言い聞かせて。用意した手紙は三回書き直した。一回目は便箋三枚、想いが溢れすぎてラブレターというより論文になった。二回目はシンプルにしすぎて味気なく、丸めて捨てた。三回目、短いけれど正直な言葉だけを並べた。「好きです。よかったら、私と付き合ってください」。たったそれだけの文を書くのに二時間かかった。


屋上の踊り場で待つ間、心臓が喉から飛び出しそうだった。来てくれないかもしれない。そう思うと足が震えた。でも逃げなかった。



真斗が現れた瞬間、一度深く息を吸った。目が赤いのは泣いたからじゃない。緊張で充血していた。手紙を両手で差し出して、声は震えていたけれど、まっすぐ真斗の顔を見た。



「ずっと……好きでした。付き合ってください。」



頭を下げた。耳まで真っ赤だったが、下げた頭の向こうで、まどかの拳は白くなるほど握りしめられていた。


真斗は少し驚いた顔をしていた。まどかとは図書室で何度か顔を合わせる程度の関係でしかなかったからだ。頭を掻きながら、少し間があった。



下げた頭の中で、秒針の音を数えていた。一、二、三——返事が来ない時間が永遠に感じられた。



やがて真斗は口を開いた。「正直びっくりした」と前置きして。それから——頷いた。「俺でよければ」と。飾り気のない、素朴な返答だった。


顔を上げた瞬間、涙がぼろりとこぼれた。笑おうとして失敗して、口元がぐしゃぐしゃになった。


「ほんと、ですか……?取り消さないでくださいね……?」


差し出した手紙がくしゃりと潰れるほど、胸に抱きしめた。



夕日に染まる屋上で二人はぎこちなく並んで歩き出した。「じゃあ帰るか」「はい」——そんな短いやり取りすら、まどかにとっては宝物だった。帰り道、三歩分の距離を保って歩いた。触れたいのに怖くて触れられなかった。それでも時折肩がかすれるだけで、耳の先まで熱くなった。



——それが、あの日の全てだった。



校舎裏のベンチで、愛莉は膝を抱えて座っていた。()()の前髪が顔を覆い隠す。制服のリボンは曲がったまま、直す気力もない。


手の中のスマートフォンには、SNSのストーリーが表示されていた。まどかに肩を寄せられて照れくさそうに笑う真斗。いいねの数。ハートの絵文字。世界が祝福している。自分以外の全員が。



涙はもう枯れていた。代わりに胸の内を焼いていたのは、煮えたぎるような嫉妬と、どうしようもない無力感だった。声をかけることすらできなかった自分。友達のふりすらできなかった自分。そんな人間が選ばれるはずがなかったのだ。



スマホを地面に叩きつけようとして、寸前で止めた。割れた画面に映る自分の顔が醜くて、すぐに伏せた。



その時だった。


ヴン……


空気が震えた。愛莉が顔を上げると、目の前に半透明の青白いウインドウが浮かんでいた。SF映画のインターフェースのような、無機質で冷たい光。



そこにはこう表示されていた。


『ロードしますか?』



目を見開いたまま固まった。指先が小刻みに震える。文字が読めている。理解できる。なぜかは分からないが、これが何を意味するのか本能的に理解できた。


「……ロード?」


掠れた声が夕闇に溶けた。ウインドウは静かに点滅を続けている。



沈黙が降りた。夕日が校舎の影に飲まれ、空が紫に変わり始めていた。どこかでカラスが一声鳴いた。愛莉の指がウインドウに触れた——というより、吸い込まれるように画面へ伸びた。



『はい◀』という文字を押した瞬間、視界がホワイトアウトした。



次に目を開けた時、愛莉は自室のベッドの上にいた。カーテンの隙間から朝日が差している。スマホの日付を確認した。四月六日。始業式の前日。



跳ね起きた。夢じゃない。記憶がある。真斗がまだ誰とも付き合っていない、あの日だ。



そして愛莉の中で、何かのスイッチが入った音がした——少なくとも、本人にはそう聞こえた。



震える手で日記帳を開いた。「真斗くんと話したい」「目を見ておはようって言いたい」——かつて書き連ねていた弱音の文字列をぐしゃりと握り潰し、新しいページに一行だけ書いた。



「変わる」



その日から、月島愛莉の「攻略」が始まった。

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