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セーブ&ロードで繰り広げられるヤンデレ女ちゃんの恋愛譚  作者: Rabbi


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セーブ&ロード③

「この展開は初?」


涙の跡が残った顔でぶんぶんと首を縦に振った。


「初だよ!初中の初!大初!」


興奮のあまり語彙が崩壊している。



メモ帳をぱらぱらとめくって確認する。過去のループ記録がびっしりと書き連ねてある。


「えっと……真斗くんに能力を打ち明けたのは二十七回目なんだけど、こんな展開になったのは初めて。「覚えていたい」なんて言われたの……」


メモ帳を胸に抱きしめてぎゅうっと目を閉じた。


いつもは怒られるか逃げられるかだったのに……



時刻は午後五時十二分。風は止まり、世界は正常に呼吸を再開している。校門の向こうでは下校する生徒たちの喧騒が微かに聞こえた。


「ふーんそうなんだ、やったじゃん」


ぼふん、と顔から湯気が出そうなほど赤くなった。


「やったじゃんって!他人事みたいに言わないでよ!」


だがその口調には棘がなかった。むしろ嬉しくて仕方がないのを必死に抑えようとしているのが丸わかりだった。足元がそわそわと落ち着かない。



深呼吸を一つして、居住まいを正した。それからぺこりと頭を下げる。綺麗なお辞儀だった。


「改めまして。月島愛莉、十七歳です。趣味は真斗くんの観察と日記です。特技は……えっと、運命の改変?よろしくお願いします!」


まるで初めての自己紹介のように初々しかった。実際、まともに会話が成立するのはこれが初めてなのだろう。


顔を上げて、おずおずと右手を差し出した。


「あの……握手、してもらってもいいかな。」



夕日に照らされたその手は小さく震えている。ストーキングも盗撮も能力行使もやりたい放題のくせに、たかが握手ひとつにこれほど緊張する少女だった。



真斗が手を伸ばした瞬間、愛莉はびくっと肩を震わせた。


そっと、壊れ物に触れるように真斗の手に指先を重ねる。そのまま両手で包み込んだ。


「あったかい……」


ぽろっとまた一粒涙がこぼれた。今度は本人も気づいていない。



世界改変能力を持つ少女が、ただの握手で泣いていた。なんとも奇妙な光景だった。廊下の奥から下校を促すチャイムが鳴り響く。午後五時半。いつもならここでロードされていた時間だ。だが今日は違う。今日は終わらない。



はっと我に返って手を離した。名残惜しそうに指が離れていく。


「ご、ごめんね!べたべたしちゃって!真斗くんそういうの嫌いだよね!」



距離感の取り方が分からないらしい。数千日を一人でループし続けた弊害が如実に表れていた。近づきすぎたかと焦りながらも、さっき触れた手の温もりを確かめるように、もう片方の手で右手をそっと包んでいた。


「逆に何をしてそんなに嫌われたの?」


真斗はくすりと笑った。



ぎくっと全身が硬直した。笑顔が引きつる。


「え、えぇーっと……それは……」



目が泳いでいる。明らかに心当たりがありすぎて絞れない顔だった。



指折り数え始めた。


「家に……忍び込んだのは五十回目くらいからで……盗聴器は七十回目で設置完了して……八十回目に真斗くんの体操服の匂い嗅いでたらバレて……」



どんどん出てくる。



「あと九十回目くらいで真斗くんに告白してきた女の子をちょっと……その……転校してもらったりとか……」


てへっと舌を出した。反省の色はゼロだった。



嫌われる要素のバーゲンセールだった。むしろ今こうして会話できていること自体が奇跡に近い。完全に調子に乗っていた。


「百回目くらいの時なんか真斗くんの寝顔スケッチして美術の課題に出しちゃったりとか!先生には好評だったよ!」


もはや武勇伝のように語り始めていた。「こんなこともした」「あんなこともした」と次から次へと出てくる犯罪歴の数々。本人は一切悪いと思っていない。むしろ真斗が笑ってくれていることが嬉しくてたまらない様子だった。


「そ、そんなに俺のこと好きなの?」


「……好きなの?」


一歩踏み出して真斗との距離を詰めた。茜色の瞳が夕日を反射してぬらりと光った。


「好きなんて言葉じゃ足りないんだよ、私の全部が真斗くんで出来てるの。朝起きたら真斗くんのこと考えて、授業中も真斗くんのこと見て、夜寝る前も真斗くんで頭いっぱいで。」


とん、と真斗の胸と自分の胸が触れ合う距離まで近づく。


「心臓動いてるのも真斗くんのせいだから。」



冗談ではなかった。ふざけた空気を作ろうとしても無駄だった。この少女にだけは「好きなの?」などと軽々しく投げていい問ではなかったのだ。


「で、でも!全部愛ゆえだからね!」



真斗が一歩下がった。


「お、お前おかしいよ!怖い!もう近づくな!」


さっきの重たい空気が嘘のように霧散した。張り詰めた糸がぷつんと切れたように愛莉はけらけらと笑い始めた。


自分で殺気じみた空気を出しておいて自分で笑っている。完全に情緒が迷子だった。しかしこれがこの少女の素なのかもしれなかった。重くて軽くて暗くて明るい。全てがごちゃ混ぜの十七歳。



ようやく笑いを収めて、ふぅと息を整える。目尻に浮いた涙を指で拭った。


「でも覚えといてね、今言ったこと全部本当だから。怖がってもいい。引いてもいい。でも私は絶対諦めない。」


すっと手を差し出してきた。今度は握手ではなく、手のひらを上に向けて。


「さあ、帰りましょ、一緒に。」



「ひ、ひいぃ!」


情けない声を上げて真斗は走り去っていった。



――世界に亀裂が走った。比喩ではない。文字通り、夕焼けの空にガラスのようなひび割れが一筋走ったのだ。世界が巻き戻りを開始する。



差し出した手が宙に止まったまま固まっている。



愛莉の顔から一切の表情が消えた。笑みも怒りも悲しみも、何もかもが剥がれ落ちて能面のようになる。数秒の静寂。それから愛莉は静かに手を下ろした。



虚ろな声。


「……だよね。」



パチン、と指を鳴らす音が響いた瞬間——世界は巻き戻った。教室の夕日は消え、黒板にはチョークの文字が浮かび、校庭からは部活動の掛け声が聞こえてくる。時間は昼休みの終わりまで巻き戻されていた。



セーブポイントは昼休み終了五分前。愛莉が「放課後空いてる?」と聞いた直後に戻っている。つまり今日の放課後のやり取りは全て無かったことになった。



何事もなかったように笑顔を貼り付けて。



「真斗くん、放課後空いてる?」

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