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まほろばー流転奇譚ー  作者: 雨音かえる
曼珠沙華之段

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3/35

弐 よすがと連れて帰るもの

 刹が無造作に掴みあげると、そいつは指に思い切り噛み付いた。


 「いってぇーッ!」


 刹は思わず投げ出すと、そいつは宙を舞って、再び朔へ目掛けて飛んできた。 


 「うわっ」


 朔は反射的に後ろへ倒れ込み、避けようとする。次の瞬間、頭の上に軽い重みが乗った。小さな爪が髪に絡みつき、ジタバタとしている。


「いたたたたたっ!」


 爪に絡まった髪が引っ張られ、朔は痛さに悶絶した。 

 半泣きになりながら恐る恐る手を伸ばすと、それはモチモチとしていて、柔らかくて暖かかった。


「え? なに!? 動物っ!?」


 その言葉に、双子が朔に群がる。


「なんなん? そのちっこいの! めっちゃ可愛いやん!」

「ももんがの子供やな。やけど、白いももんがなんて珍しいんとちゃう?」


 火緒ははしゃぎながら、爪に絡まった朔の髪を解き、火弦はじっくりと観察する。


「こんの小動物がぁッ! 鍋に入れて食ってやろうかッ!」

「はいはい。じっとして」


 指を噛まれた怒りで荒らげまくる刹が、腰の小太刀に手をかけるも、梓がその指に布を巻きながら宥める。


「あれ?」

 

 朔はももんがが身体を丸め、震えているのに気づいた。よく見ると、片方の後ろ足が垂れ、毛の間に赤い色が滲んでいる。


「……怪我してる」

「どれ? どれ?」

「あ、ほんまや。血ぃ出とるな?」


 火緒がももんがの足を触ろうとすると、痛いのか「ギコギコ」と小さく鳴き、威嚇する。

 朔はももんがを見つめた。


「痛くないよ」

 

 黒い大きな目がじっと朔の顔を見上げたかと思うと、「しゅー、しゅー」とか細い声を漏らした。

 朔は思わず息を詰め、それから、そっと笑った。


「……怒ってない、よね?」


 指先でそっと背中をなぞると、ももんがは小さく身をすくめ、それからまた「しゅー、しゅー」と喉を鳴らした。


「怖かったんだよね……」


 朔は優しく手のひらを体に当てると、小さな心臓がドクドクしているのがわかった。

 

「なぁ、梓。このももんが怪我しとるわ。見たって?」

「わかった。庵に帰ったら見るよ」


 梓の言葉に、朔は耳を疑った。


「連れて帰っても……いいの?」

「仕方ないだろ? ねぇ? 刹」


 刹は噛まれた指に巻かれた布を見ながら、あからさまに不機嫌な顔をする。だが、梓に脇腹をつつかれ、渋々頷いた。

 

「お前が……自分で世話しろよ」

「うん」

「最後までだぞ」


 不貞腐れながら言う刹に、朔は強く頷いた。


「あ、そうだ!」

 

 梓が、両手をパンと合わせ、わざとらしく思いついたかのように言う。


「名前、決めないとねっ」


 朔は、ももんがを見下ろした。

 ももんがはキョトンとした顔をしている。


「えっと、えっと……。じゃぁ、(よすが)があって出会ったから……よすが。よすがにする!」

 

 よすがは意味もわからず、ただ「しゅー」と鳴き、どうやらお気に召したようだった。朔はよすがを懐に入れると、大切そうに抱えて連れて帰った。


◇ ◇ ◇

 ――森の奥は、木々の騒めきと虫の声で、皆の足取りを消し去る。

 街道を抜け、獣道に入りしばらく行くと、森の中にひっそりと隠されたように佇む庵が現れた。


 庵には窓から灯りが漏れ、沸かした湯気が立ち登る。


「ただいまー」


 刹が戸口を開けると、囲炉裏端で|玄瑞が寝転がりながら酒を飲んでいた。その横では、紅梅が囲炉裏にかかる鍋で雑炊を作る。

 上がり(かまち)に皆が順番に腰を掛け、革足袋を脱いでいると、刹の所にふらふらと玄瑞が這いずってきた。


「刹ー、お前もちっと強くなれよー」


 玄瑞は刹にまとわりつき、抱きつきながら頭をわしゃわしゃと撫でまくる。


「やめろよ! 酒臭いっ!」


 刹は、必死に抵抗するも、如何せん玄瑞の腕力に絡み取られ逃げられない。


「出たよ。玄瑞の刹絡み」

「なんであのオッサンは、刹にだけああやって絡むんやろな?」

「気色悪っ。玄瑞は刹みたいなんが好みなんやで」

「ばれたかーっ」


 朔と双子の言い様に、刹は「うえっ」と舌を出すも、隣で玄瑞に冷ややかな目を向ける梓に顔を青ざめた。

 玄瑞が刹にベッタリと引っ付いていると、ふと刹の指に巻かれた布に気がつく。


「お前、それどうした? 怪我したのか?」


 心配そうにする玄瑞の間に梓が割って入る。


「朔が拾った"ももんが"に噛まれたんだよ」

「ももんが?」


 刹を玄瑞から引き離し、キッと睨みながら、つっけんどんに返した。

 朔は懐から小さな白いももんがを取り出すと、玄瑞に見せた。


「あれ? こいつ怪我してねぇか? 梓、見てやれよ」

「うるさいな! いちいち言われなくても、わかってるよ。それより、刹が先! まだちゃんと薬塗ってないんだから!」

 

 玄瑞の言葉に余計イライラしたのか、刹は首根っこを掴まれると、引きずるように奥の部屋へと連れて行かれた。……かと、思いきや、襖から顔を覗かせ、朔も部屋へよすがを連れて来るよう呼びつける。


「まったく あの酒臭いオヤジが刹にまとわり着くと、刹まで酒臭くなるみたいで気分が悪くなる!」


 梓がブツブツと小言を言いながら、刹の指に薬を塗り、手際よく綺麗な布を巻き直す。


「玄瑞もさみしいんだろうよ。あいつ、ずっと義兄弟探してんだろ? 俺がその変わりみてぇなもんなんじゃね?」

「刹は、そいつじゃない! 混同しないで欲しいよ!」

「でもな? 俺らはそのお陰で玄瑞に拾って貰えたんだからな? そこは感謝だ」

「わかってるよ……」


 刹が梓を窘めると、少ししょんぼりと肩を落とした。


「あの……。梓。次、いいかな?」 


 朔がおずおずと言い出し、梓の顔色を伺っている。よっぽど梓が怖いと見える。


「あぁ、ごめん。見せて」


 朔がよすがを差し出すと、よすがは嫌なのかジタバタと暴れた。


「これじゃ、ちゃんと見れないな。朔が抱えててよ」


 朔がよすがを抱き、梓が足に薬を塗ると、よすがは怖いのか痛いのか、「ぎっぎっ」と鳴いて威嚇する。


「だめだよ。大人しくして」


 朔がよすがに言うと、途端に大人しくなる。

 それを見た梓は、感心しながらも治療の手は止めない。


「へー、朔の言うことが分かるのか。案外こいつ、賢いかも。可愛いじゃない」

「いーや、そいつは俺の指に噛みつきやがったからな! 可愛くねぇ!」


 刹がよすがを見て、「いー」っと威嚇すると、よすがも負けじと「ぎっぎっ」と威嚇し返す。


「刹もよすがもやめなよ。よすがだって、悪気があった訳じゃないんだよ。あんなに乱暴に掴まれたらビックリするって。ねぇ? よすが?」


 朔がよすがに話しかけると、よすがは朔に擦り寄り「しゅーしゅー」と甘えたような声を出す。


「けっ!」

 

 刹は面白くないと言わんばかりに、胡座に頬杖をついて悪態をついた。


「はい。できたよ。何回か薬を塗ればよくなるよ」

「ありがとう、梓」

「しゅー!」

「どういたしまして」

「このっ! 小動物めっ!」


 梓とよすがが仲よさそうにする姿に、刹は憎たれ口を吐き、囲炉裏端へ戻って行った。

 そんな刹の後ろ姿を見て、朔と梓は笑い合った。


  

 囲炉裏端では、既に双子が雑炊をがっついていた。

 紅梅は煙管(きせる)を嗜んでいる。煙管の灰を落とし、また新しい草を詰める。煙草に火をつけると、「ふぅ」っと天井めがけて煙を吐き出す。

 紅梅は、一息つくと煙管を咥えたまま麻袋を広げ、中から欠けた茶碗や端だけ焦げた布を出した。

 紅梅はそれらを手に取ると、一つ一つじっくり品定めをする。


「欠けた部分は接げば使えるじゃろ。布も焦げた部分は切ればよい。縫ってしまえば分かりゃーせん」

「そんなんで買取してもらえんのか? 今回はちぃと邪魔が入ったからさ。良いもの選べなかったんだよ」

 

 刹は、雑炊をよそいながら、紅梅に村でのことを話し始めた。

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― 新着の感想 ―
こんにちは! 読ませていただきました! 零話から村の崩壊具合がよく伝わってきました。 それにしてもよすが可愛いですね。 動物好きなんで癒されました。 もしよろしければ僕の作品も覗いてみてくだ…
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