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まほろばー流転奇譚ー  作者: 雨音かえる
曼珠沙華之段

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29/35

【幕間】色恋沙汰はババをも喰わぬ。

 ――これは、 里に来てしばらく経った、ある夜の男たちの話である。



 夕飯も済ませ、仮家の大広間の灯りの下、皆が輪になって座っていた。

 

 題目はただひとつ――「色恋」について。

 

 皆も、思春期真っただ中のお年頃。気にならないわけがない。

 だが、あいにく、この里には老婆の紅梅しか女子(おなご)はいない。

 紅梅など、女として眼中すら値しない。論外。

 皆は「色恋」というものが全く持ってわからなかったのである。

 火緒が、いつになく真剣な声音で切り出した。


 「なぁ……お前ら。恋って、しっとるか?」


 普段のお調子者ぶりからは想像もつかぬ口調に、一同の視線が集まる。

 皆、一斉に首を横に振る。


「俺ら、女言うたらばあちゃんしか知らへんやん」

「いや、あれは女やない」


 火弦が的確にツッコミを入れる。

 

「おい、薬問屋の結さんもいるぞ?……いでっ!」


 刹の"結"発言に、梓が思わず刹の足をつねる。


「あの女は、空間が読めないから嫌いだ……」


 梓がそっぽを向く。


「確かに、あの人は天然だからな。女……としては、どうかな?」


 刹のその発言に、梓は機嫌を直してにんまりする。


「あかん……。俺らの周りには、圧倒的に女子がおらなさすぎや……。野郎ばっかで、恋愛話……」

「辛すぎやろ」


 ふと気づいてしまった絶望感に、双子は打ちひしがれる。


「刹兄と梓は、すでに出来上がっとる(?)からいいとして、朔はまだまだお子ちゃまや」

「やっぱ、俺ら……虚しすぎんか?」

 

 再び双子は、絶望感に打ちひしがれる。


「見てみいや、揃いの組紐とか……」

「あー、やってられへん」


 刹と梓は互いに背を向け、顔をあからめる。

  

「あかん! 気ぃ取り直して! ええか? 恋っちゅーんはな、胸が無駄にどきどきして、顔が()こうなるらしい。恋人になったらな――手を繋いで……」


 息を呑むように皆が耳を傾ける。

 火緒は声をひそめた。

 

「くっ……口吸いするんやと!」


 きゃーっと声を上げ、手で顔を隠す火緒。


 朔はぽかんと口を開けたまま、頭の中でその光景を想像していた。

 

 (――お互いに口を吸い合う……?……痛いのだろうか?)


 火弦は「ふふん」と、興味深そうに少しニヤついただけだった。


 その隣で、梓が刹に体を寄せ腰をつつく。

 腰をつつかれた刹は、うつむいて肩を震わせた。

 すでに“毒事件”の折に唇を重ねたことがある二人。思い出すだけで血が頭に上り、刹はまともに目を合わせられなかった。


「いやいや、お前らのは口吸いやのうて、ただの人助けやから。ゲロつきの口吸いらーてっ」

 

 火緒が、「ちゃうちゃう」と鼻で笑いながら、ツッコミを入れると、梓の冷めきった目が火緒を捕らえ、刹のただならぬ殺気が襲いかかる。

 と、その時。

 

 ガラッ。

 勢いよく仮家の戸口が開かれた。

 

「野郎ども……アホな話ばっかしてないで、はよ寝ろ」


 玄瑞が大あくびをしながら、戸口にもたれる。


「うっさいな玄瑞っ! 今、めっちゃええとこなんやっ! 邪魔せんといてやっ!」


 火緒が玄瑞に食って掛かる。

 皆も「そーだそーだ」と言わんばかりに、玄瑞に睨みを効かせる。

 「しゃーねーなー」と頭をぼりぼりとかきながら、広間に上がってきた。

 

「じゃぁ、俺がもっとちゃんと、"恋愛"についてすごいこと教えてやんよ」

「玄瑞、経験あんの?」


 火緒がバカにした口調で、玄瑞を茶化す。


「お前なぁ。俺を幾つだと思ってやがる! 恋愛はないが、"経験"はあるっ!」


 『経験……?』


 皆が一斉に首を傾げる。


「おうよ。花街に行ったらな、気に入った女と座敷をとる。そして、そのあと……」


 玄瑞師の講義は、事細かく、それは詳細に伝えられた。

 時は静かに経ち、夜も更けてゆく。


◇ ◇ ◇

 

「いやぁぁぁぁぁぁ」


 悲鳴にも似た声が上がり、皆が一斉に顔を赤らめ、顔を手で覆い、あちこちに転げ、のたうち回った。

 

 玄瑞の説明が、あまりに現実的(リアル)で、尚且つ懐から春画まで持ち出し説明を始めたので、皆、思わず呼吸が荒くなる。

 その破壊力たるや、思春期のお子ちゃまたちには幾分か刺激が強すぎた。

 

 ただ、一人。朔だけは、どこか、別の世界へ飛んで行った。


「あかん。やっぱ、実戦経験のある師匠(げんずい)は違うわ……」


 火弦は、はぁはぁと息を荒らげる。


「っというか、玄瑞。いつもそんな本、懐に持ち歩いてるわけ?」


 梓が刹の腕にしがみつき、玄瑞を睨む。


「おうよ! これは俺の聖典だからな!」

「自慢になんねーだろ」


 無駄に自慢する色欲魔・玄瑞に対し、刹が庇うように梓の肩を抱く。

 

「なぁなぁ! じゃあさ、こないだから話題にちょいちょい出とる、ばあちゃんと久造っちゅー爺さんは、どないやったんやろか?」


 火緒の発言に、全員一瞬で熱が冷め、冷たい風が吹く。


「ばあさんなぁ……。アレでいて、意外と乙女だからなぁ。あんま、想像したくねぇが……」


 玄瑞は「うぇ」っと、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「あんま、気色悪い事聞きなや。せっかくの気分が台無しやわ……」


 火弦は急に冷静になり、「あーあ」とその場で興醒めしたように寝転がる。

 

「いやいや。やっぱ、人生の大先輩やん? 百戦錬磨かもしれへんやんっ!」


 火緒は、どこかタガが外れたように、明らかに暴走していた。


「だけどよ。ばあさん、ずっと独身貫いてんだぞ? あれ? ……てぇ、事は……しょ……」

 

 皆がごくりと唾を飲みこんだその瞬間。

 

 ドカッ!

 

 玄瑞の鼻先を掠め、杖が柱に突き刺さる。


 しん、と静まる一同。


「……はよ、寝ろや」

 

 紅梅が戸口で鬼の形相をしていた。

 

 チッ。

 

 全員が小さく舌打ちしてそっぽを向く。


 こうして「恋バナ(?)座談会」は、紅梅の釘(杖)刺しで幕を閉じたのであった。


 そして、朔は……未だ、あさっての方向から、戻らない。

【あとがき】

圧倒的に女子がいない骸衆の里。思春期男子にとっては、もはや絶望しかありません(笑)

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