表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まほろばー流転奇譚ー  作者: 雨音かえる
曼珠沙華之段

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/33

拾玖 ご褒美

「ほーれ! 起きんかぇ!」


 紅梅の声で、双子と朔が目を覚ました。


「うぅ……。あともうちょっとだけ……」

「火緒ぉ~、起きなぁ~……」


 双子は起きようと踏ん張るも、眠りの沼に沈んでゆく。

 朔は、すんなり起きると、よすがを連れて囲炉裏端へと向かう。

 よすがもまだ大きなあくびをし、眠たそうだ。


「ほれ。米は少ないが、野草入の粥じゃ。体も温まろう」


 朔は、紅梅から粥の入った椀を受け取ると、その温もりで暖を取る。

 冷えきった手に、ゆっくりと温もりが広がる。


「さぁ! 今日から里を復興させるぞい! まず、お前たち三人は、草引きじゃ。そのあとは、焼けた家だの、納屋だの木材を片付ける」

「俺らだけじゃ、無理やから……」

「せやわ……。考えてみぃや。刹兄と梓もおらんのに、俺らだけて……」


 寝床から這いずりながら、双子が囲炉裏端へやってきた。


「玄瑞がおろう」

「その玄瑞かて、まだ来てへんやん」


 火弦は文句を垂れ、火緒は「眠い」とその場に伏せる。


「とにかくじゃ! まずは、整地をせねば! 後のことは……後で考えればよいっ!」

「「んなぁー!」」


 双子は、力尽きた。


◇ ◇ ◇


 貧相な朝飯を食らい、三人は必死に草を引く。

 まずは拠点の家周りから綺麗に整え、次第に範囲を広げてゆく。

「力でーへん」、「眠い……」と、双子の口からは愚痴しか出ない。

 

 よすがは、刹の首元にいた。どうやら、あの場所が気に入ったようで、"刹を温める"という口実に寝ていた。

 それを横目に双子はぶー垂れる。


「ええよなぁ。よすがはっ!」

「ほんまやなぁ。しかし……、玄瑞遅ない?」

「確かに。もうとっくに来てもええ頃やんな? どこで道草食っとるんやろ?」


 朔は、「そうだね」と軽く相槌を打つと、一人草むしりを続けた。

 草の間に時々、骨と化した骸が横たわる。


「ばあちゃーん! この骨どないするー?」


 火緒が紅梅に向かって大声で叫ぶ。

 紅梅が家から顔を出す。草履を履くと小走りで火緒に近寄ってきた。


「なんじゃい。どうした?」

「いや、やから、骨になった骸、どないしたらええん?」


 紅梅は、骨と化した骸をじっと見つめた。

 かつては仲間であった者が、そこに骨となって横たわる。


「この衣は……」

 

 紅梅は目を細め、骸の衣服だったであろう朽ちた布を手に取った。


「こやつも、優秀な忍びであった……。それが、こんな事になろうとは……。静かに眠れ。田吾作」


 真剣な眼差しを向けた紅梅から出た名に、三人は思わず吹き出してしまった。


(あかんっ! ワロタらあかんっ!)

(せやけど、田吾作てっ! 今時、田吾作てっ!)

(ダメだよっ! ぷっ……、くくく。笑っちゃ田吾作さんに失礼だよっ!)


 三人は、必死に笑いを堪えるが、どうしても声が漏れてしまう。


「だぁーっははははっ!」

「あかんっ! 腹痛いっ!」

「もう、無理っ!」


 三人は堪えきれず大笑いすると、紅梅から一人一ゲンコツ食らった。


「骨は、あの森の手前辺りに穴掘って埋めておけっ! 後でまとめて弔う!」

「「へーい」」

「はーい」


 双子と朔は、頭を擦りながら森の近くに大きな穴を掘り始める。

 (すき)(くわ)などという便利な物は、もちろん無い。

 その辺にある木の棒で穴を掘り、土を手で掘り出す地道な作業だ。


「これ、大変やで」

「はぁ……。腹減った……」


 双子が「休憩!」と、小川に顔を洗いに行く。

 朔も行こうとするが、その前によすがの様子が気になり、刹の寝床に顔を出した。

 だが、そこによすがの姿は見当たらない。


「あれ? よすが?」


 辺りを見回しても、何処にもいない。


「梓、よすが知らない?」

「いや? さっきまでそこで寝てたと思ったけど?」


 梓も、よすがは見ていないと首を振る。


「ねぇ、よすが知らない?」

「さぁ? その辺で遊んどるんどちゃう?」


 双子も見ていない。

 朔は、なんだか胸がざわめいた。


(よすが……。今までいなくなった事なんてなかったのにっ)

「よすがー! よすがー!」

 

 朔は、森へと入っていく。

 それを見ていた双子が後に続く。


「朔、危ないで!」

「森ん中一人で入って迷子にでもなったらっ!」

「ごめんっ! でも、よすががっ!」

(いなくなっちゃったら、どうしようっ)


 朔の鼓動が早くなり、気が早る。

 すると、朔の顔目掛けて黒い物体が張り付いた。


「ぎゃああああ!」


 朔は大声をあげて、その場にひっくり返った。


「なんか、前にもこんなんあったな?」

「あったわ」


 双子は落ち着いて、朔の顔に張り付いた物体をひっぺがした。


「よすが。朔の顔に飛びかかるんやめーや」


 火緒がよすがをつまみ上げると、「しゅー」と上機嫌に鳴いた。


「げっ! よすがっ! なんやその口!?」


 よすがを見た火弦が、驚いて声を上げた。


「どうした……の? うわっ!」


 朔が見たよすがの口の周りは、真っ赤に染まっていた。

 真っ白な毛が、あたかも血を啜ったように、真っ赤になっている。

 朔は、火緒からよすがを受け取ると、頭をこちょこちょと撫でながら、恐る恐る尋ねる。


「よすが? なに……してきたのかな?」


 よすがは、満足気な顔を見せ、真っ黒い大きな目を瞬きして見せた。

 よすがは、朔の手からふわりと飛び降りると、木の上に駆け上り、木から木へ飛び移ってゆく。


「あ、待ってよ! よすが!」


 慌てて三人はよすがの後を追う。

 深い茂みを抜けると、そこには一面の真っ赤なコケモモ。

 よすがは、コケモモを両手で掴むと、むしゃむしゃと口に頬張った。


「うわっ! すごい!」

「やったね! よすが!」

「火緒、朔! こっちには、アケビとグミの実があんで!」


 三人は、目の前にたわわに成る木の実にはしゃいだ。


「うわっ、これまだ酸っぱ!」

「こっちの、甘いで?」

 

 その日、三人は久々、腹いっぱい食べた。


「探したら、キノコとか栗とかあらへんかな?」

「その辺は、ばあちゃんに聞いてみよ? 多分、知ってる気がする。お手柄だったね! よすが!」

「しゅー」


 朔はよすがの頭を優しく撫でると、嬉しそうに目を細めた。 

 

「これは、俺らが普段頑張っとるから、神様からのご褒美やな!」

「せやなぁ。まぁ、それはいいとして……」


 火弦が珍しく、真面目な顔つきになる。


「俺ら、なんか流されるまま、この里に連れてこられたやん?」


 火緒と朔が頷く。


「やけど、最初も玄瑞に拾われて庵に連れてこられただけで、俺ら、あの二人の事ほとんど何も知らんよなぁ?」

「そういえば、そうやなぁ?」

「さっきも、田吾作っ……ぷっ。さんの話出たし、今晩あたり聞いてみる?」


 朔の提案に双子が頷く。


「やっぱ、これからも一緒に暮らすんなら、知っときたいしな!」


 火緒は、座っていた木の上からぴょいっと飛び降りると、皆で服を籠代わりに、いっぱいの山の実を持って帰った。


◇ ◇ ◇

 

「ぎゃああああああっ!」


 紅梅は、帰りついた三人と一匹の、赤く染った手と口を見て、腰を抜かす。

 何事かと、慌てて近寄ってきた梓も、三人の顔を見て口元を引き攣らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ