拾玖 ご褒美
「ほーれ! 起きんかぇ!」
紅梅の声で、双子と朔が目を覚ました。
「うぅ……。あともうちょっとだけ……」
「火緒ぉ~、起きなぁ~……」
双子は起きようと踏ん張るも、眠りの沼に沈んでゆく。
朔は、すんなり起きると、よすがを連れて囲炉裏端へと向かう。
よすがもまだ大きなあくびをし、眠たそうだ。
「ほれ。米は少ないが、野草入の粥じゃ。体も温まろう」
朔は、紅梅から粥の入った椀を受け取ると、その温もりで暖を取る。
冷えきった手に、ゆっくりと温もりが広がる。
「さぁ! 今日から里を復興させるぞい! まず、お前たち三人は、草引きじゃ。そのあとは、焼けた家だの、納屋だの木材を片付ける」
「俺らだけじゃ、無理やから……」
「せやわ……。考えてみぃや。刹兄と梓もおらんのに、俺らだけて……」
寝床から這いずりながら、双子が囲炉裏端へやってきた。
「玄瑞がおろう」
「その玄瑞かて、まだ来てへんやん」
火弦は文句を垂れ、火緒は「眠い」とその場に伏せる。
「とにかくじゃ! まずは、整地をせねば! 後のことは……後で考えればよいっ!」
「「んなぁー!」」
双子は、力尽きた。
◇ ◇ ◇
貧相な朝飯を食らい、三人は必死に草を引く。
まずは拠点の家周りから綺麗に整え、次第に範囲を広げてゆく。
「力でーへん」、「眠い……」と、双子の口からは愚痴しか出ない。
よすがは、刹の首元にいた。どうやら、あの場所が気に入ったようで、"刹を温める"という口実に寝ていた。
それを横目に双子はぶー垂れる。
「ええよなぁ。よすがはっ!」
「ほんまやなぁ。しかし……、玄瑞遅ない?」
「確かに。もうとっくに来てもええ頃やんな? どこで道草食っとるんやろ?」
朔は、「そうだね」と軽く相槌を打つと、一人草むしりを続けた。
草の間に時々、骨と化した骸が横たわる。
「ばあちゃーん! この骨どないするー?」
火緒が紅梅に向かって大声で叫ぶ。
紅梅が家から顔を出す。草履を履くと小走りで火緒に近寄ってきた。
「なんじゃい。どうした?」
「いや、やから、骨になった骸、どないしたらええん?」
紅梅は、骨と化した骸をじっと見つめた。
かつては仲間であった者が、そこに骨となって横たわる。
「この衣は……」
紅梅は目を細め、骸の衣服だったであろう朽ちた布を手に取った。
「こやつも、優秀な忍びであった……。それが、こんな事になろうとは……。静かに眠れ。田吾作」
真剣な眼差しを向けた紅梅から出た名に、三人は思わず吹き出してしまった。
(あかんっ! ワロタらあかんっ!)
(せやけど、田吾作てっ! 今時、田吾作てっ!)
(ダメだよっ! ぷっ……、くくく。笑っちゃ田吾作さんに失礼だよっ!)
三人は、必死に笑いを堪えるが、どうしても声が漏れてしまう。
「だぁーっははははっ!」
「あかんっ! 腹痛いっ!」
「もう、無理っ!」
三人は堪えきれず大笑いすると、紅梅から一人一ゲンコツ食らった。
「骨は、あの森の手前辺りに穴掘って埋めておけっ! 後でまとめて弔う!」
「「へーい」」
「はーい」
双子と朔は、頭を擦りながら森の近くに大きな穴を掘り始める。
鋤や鍬などという便利な物は、もちろん無い。
その辺にある木の棒で穴を掘り、土を手で掘り出す地道な作業だ。
「これ、大変やで」
「はぁ……。腹減った……」
双子が「休憩!」と、小川に顔を洗いに行く。
朔も行こうとするが、その前によすがの様子が気になり、刹の寝床に顔を出した。
だが、そこによすがの姿は見当たらない。
「あれ? よすが?」
辺りを見回しても、何処にもいない。
「梓、よすが知らない?」
「いや? さっきまでそこで寝てたと思ったけど?」
梓も、よすがは見ていないと首を振る。
「ねぇ、よすが知らない?」
「さぁ? その辺で遊んどるんどちゃう?」
双子も見ていない。
朔は、なんだか胸がざわめいた。
(よすが……。今までいなくなった事なんてなかったのにっ)
「よすがー! よすがー!」
朔は、森へと入っていく。
それを見ていた双子が後に続く。
「朔、危ないで!」
「森ん中一人で入って迷子にでもなったらっ!」
「ごめんっ! でも、よすががっ!」
(いなくなっちゃったら、どうしようっ)
朔の鼓動が早くなり、気が早る。
すると、朔の顔目掛けて黒い物体が張り付いた。
「ぎゃああああ!」
朔は大声をあげて、その場にひっくり返った。
「なんか、前にもこんなんあったな?」
「あったわ」
双子は落ち着いて、朔の顔に張り付いた物体をひっぺがした。
「よすが。朔の顔に飛びかかるんやめーや」
火緒がよすがをつまみ上げると、「しゅー」と上機嫌に鳴いた。
「げっ! よすがっ! なんやその口!?」
よすがを見た火弦が、驚いて声を上げた。
「どうした……の? うわっ!」
朔が見たよすがの口の周りは、真っ赤に染まっていた。
真っ白な毛が、あたかも血を啜ったように、真っ赤になっている。
朔は、火緒からよすがを受け取ると、頭をこちょこちょと撫でながら、恐る恐る尋ねる。
「よすが? なに……してきたのかな?」
よすがは、満足気な顔を見せ、真っ黒い大きな目を瞬きして見せた。
よすがは、朔の手からふわりと飛び降りると、木の上に駆け上り、木から木へ飛び移ってゆく。
「あ、待ってよ! よすが!」
慌てて三人はよすがの後を追う。
深い茂みを抜けると、そこには一面の真っ赤なコケモモ。
よすがは、コケモモを両手で掴むと、むしゃむしゃと口に頬張った。
「うわっ! すごい!」
「やったね! よすが!」
「火緒、朔! こっちには、アケビとグミの実があんで!」
三人は、目の前にたわわに成る木の実にはしゃいだ。
「うわっ、これまだ酸っぱ!」
「こっちの、甘いで?」
その日、三人は久々、腹いっぱい食べた。
「探したら、キノコとか栗とかあらへんかな?」
「その辺は、ばあちゃんに聞いてみよ? 多分、知ってる気がする。お手柄だったね! よすが!」
「しゅー」
朔はよすがの頭を優しく撫でると、嬉しそうに目を細めた。
「これは、俺らが普段頑張っとるから、神様からのご褒美やな!」
「せやなぁ。まぁ、それはいいとして……」
火弦が珍しく、真面目な顔つきになる。
「俺ら、なんか流されるまま、この里に連れてこられたやん?」
火緒と朔が頷く。
「やけど、最初も玄瑞に拾われて庵に連れてこられただけで、俺ら、あの二人の事ほとんど何も知らんよなぁ?」
「そういえば、そうやなぁ?」
「さっきも、田吾作っ……ぷっ。さんの話出たし、今晩あたり聞いてみる?」
朔の提案に双子が頷く。
「やっぱ、これからも一緒に暮らすんなら、知っときたいしな!」
火緒は、座っていた木の上からぴょいっと飛び降りると、皆で服を籠代わりに、いっぱいの山の実を持って帰った。
◇ ◇ ◇
「ぎゃああああああっ!」
紅梅は、帰りついた三人と一匹の、赤く染った手と口を見て、腰を抜かす。
何事かと、慌てて近寄ってきた梓も、三人の顔を見て口元を引き攣らせた。




