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まほろばー流転奇譚ー  作者: 雨音かえる
曼珠沙華之段

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19/35

拾捌 廃墟の里

 夕暮れに庵を出発し、夜通し歩き続けた。

 明け方、ようやく空が白みはじめるころ、紅梅から「ここじゃ!」と歓喜の声があがる。

 小川沿いに歩くと、その先に、大きな洞窟があった。

 

 皆は紅梅の後について、暗い洞窟を進む。

 次第に光が差し込み、里が姿を表した。

 洞窟の先は庵の何倍も開けてはいたが、草は生え放題になり、焼け落ちて炭だか木だか分からない家もある。そこいら中に、骨と化した骸が散乱している。見る限り、人の物だか獣の物だか、わからない。


「うへぇ……。これが、里? ほんまにこないなとこに住む気なん?」


 火緒の顔が引き攣り、火弦はただ呆けた。

 朔とよすがも、なんと言ったらいいか分からず、周りを眺めた。

 立ち尽くす皆を他所に、梓だけは全く動じず、すかさず休める場所を探しに走る。


「梓。ほんま感心するわ……」

「刹が絡んどるからな。あの根性の逞しさには、ほんま惚れ惚れするで」

「うん。僕も普通に凄いと思う」

「しゅー」


 しばらくすると、梓が小走りで戻ってきた。


「あの向こうに、まだ使えそうな家があった。とりあえず、そこに刹を運ぼう」


 皆は梓の後につき、案内された家へ向かう。

 辛うじて建ってはいるものの、壁は所々剥がれ、家の中にも草が侵入している。

 だが、床も抜けておらず、囲炉裏もある。


「暫くは、ここを拠点に里を整えていくしかないの」


 火緒が家に片足を乗せると、床がギシっと音を立てた。


「床、抜けへんやろなぁ……。寝とる時に床が抜けるとか嫌やわ」


 火緒が注意深く床を探る中、梓は床など気にもとめず、黙々と刹の寝床を作りはじめる。

 紅梅も、囲炉裏周りの準備をはじめた。

 双子と朔は、上がっても誰も床が抜けていない事を確認する。


「大丈夫みたいやな! 二人とも落ちとらん!」


 火緒が登った途端、床が抜け落ち、三人とも芋づる式に派手に転んだ。


「ほらみぃ! やっぱり腐っとるやないかいッ!」

「こないなとこ、絶対嫌や……」

「右に同じ」

「しゅー」


 その様子をみて、紅梅は大声で笑いを上げた。


「ついとらんのぉ。今日はゆっくり休んで、明日から里の復興開始じゃ!」

「ほんまかいな。復興て……」


 三人と一匹は激しく肩を落とし、愕然とした。


「なにやってんの。お前ら、上がる前に刹を運んで」

「へーい」


 梓の呼び掛けに、火緒が気のない返事をし、火弦と朔が「いたた」と起き上がる。

 刹の足元に、所狭しと乗せられた荷物を先に中へ運び込み、皆で刹の布団を掴む。


「せーのっ!」


 梓の掛け声と共に、ゆっくりと刹を家の中へ。


「はぁ……疲れたぁ」

「もう無理やて……」

「死ぬ……」

「しゅ……」


 双子と朔は、這いずりながら囲炉裏端まで来ると、その場に力尽きた。



  

 梓と紅梅で、交代しながら刹を診る。

 刹は時折目を覚まし、補液を少し体に入れ、また眠る。

 その日は、腹の足しに、少しの乾飯(ほしいい)と水で凌いだ。


「団子食べたいー!」

「鍋食べたい」

「よすがは少しの量でもお腹いっぱいになるから、こういう時は羨ましいよね」

「しゅー、しゅー」


 皆は干し芋の欠片を口いっぱいに頬張るよすがを、よだれを垂らしながら見ていた。

 よすがはお腹いっぱいで、上機嫌だ。

 

 そして、腹をすかせた三人とお腹いっぱいの一匹は、身を寄せ合いながら眠りについた。


◇ ◇ ◇

 

 梓は紅梅を寝かし、一人、囲炉裏端で眠る刹の傍にいた。

 囲炉裏の火をじっと見つめ、先日紅梅から聞かされた刹の話を思い出す。


(刹……。どうして話してくれなかったの)


 手を組む指が、行き場なく交差する。


(俺、信用されてないのかな……。違うよね。俺だって、刹に言ってないことがある)


 梓は後ろめたさを感じながら、虚ろな目を刹に向けた。


「梓……」


 刹が目を覚まし、か細い声で、梓を呼ぶ。

 

「ん? どした?」

「梓。……その。ごめん。ずっと言おうと思っていたんだ。昔のこと」


 刹は、暗がりの中、天井を見つめながら梓に謝る。


「急にどうしたの。何を謝ってるの? 俺こそ、ごめん。勝手に刹の思い出したくないこと聞いてしまって……」


 刹が手を伸ばし、梓の手を取る。


「言おう、言おうと思ってたんだ。……でも、なかなか言い出せなくて。言ってしまえば、お前にどんな顔されるか。どんな風に思われるか。……怖かった」


 刹は、涙を堪えながら、言葉を噛み締めるように告げる。


「俺は。……人殺しだ」

 

 梓は、刹の手を両手でしっかりと掴んだ。


「刹、俺はね。刹が好きなんだ。子供の頃からずっと。それはね、刹だからなんだよ」


 刹は、梓の告白に驚いて体を起こそうとする。

 それを梓が支え、抱き起こす。


「今になって、刹の過去を知ったところで、何も変わらない。だって、俺と出会った頃の刹は、既に辛い経験をした後だったんだから。その刹が好きなんだ。だから、これからも。……変わらない」


 梓が刹を、真っ直ぐに見つめる。

 刹は、堰を切ったように涙が溢れた。

 梓が、刹の背中を優しくさすった。


「軽蔑されるかと……思ってた」

「そんなわけないだろ?」


 梓が刹の肩を抱く。

 

「ありがとう、梓。変わらないでいてくれて」

「ううん。変われないよ。変わるわけない。俺の方こそ……ごめん」

「梓が謝ること、ないだろ?」

「うん。でも、なんか、……ごめん」

「おかしな奴」


 刹は、泣きながら笑った。

 ひとしきり泣き、鼻を啜りながら、梓に身を委ねる。

 

「梓。もう、隠し事ねぇから。これからも、絶ってぇしねぇから」

「うん。大丈夫だよ。もう、休みな」


 梓がゆっくりと、刹を横にさせる。

 刹は、安心しきったように眠りにつく。

 その顔は、まるで出会った頃の子供の時のようだった。

 それとは裏腹に、梓の胸がズキリと痛む。


 (刹。ありがとう。でも、ごめん。まだ、話せないや……)


 刹の肩を擦りながら、囲炉裏の火を見つめる。


 高いびきをかく双子のその傍らで、静かに二人の話を朔が聞いていた。

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