表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まほろばー流転奇譚ー  作者: 雨音かえる
曼珠沙華之段

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/35

拾陸 狂鬼の宴 前(まえ)

 刹は、俵ぐるまの荷台に布団ごと寝かされ、双子に縄でしっかりと固定された。


「よし! これで大丈夫や!」

「刹兄、ごめんな。少しの辛抱やからな」


 双子が寝ている刹に語りかけ、梓は荷物を背負うと、刹の傍についた。

 刹の足元にはみっちりと荷物が置かれ、足を圧迫しないか心配する。

 

 西の空が茜色に染まるころ、各々荷物を担ぎ、名残惜しそうに庵に最後の別れを告げる。


「いつまでもこうしとる訳にもいかん。ゆくぞ」


 紅梅に促され、皆は仕方なくトボトボと歩き出す。


「おりゃっ!」

「ぐぅっ!」

 

 双子が俵ぐるまをゆっくりと引き進める。

 刹と荷物を乗せた俵ぐるまは、重さに軋んだ。

 皆は歩みを進める中、玄瑞だけは庵の縁側に腰をかけ、悠長に足をフラフラとしていた。

 それに気づいた朔が、玄瑞に駆け寄った。


「玄瑞っ! 何やってんの? 行くよ?」


 すると玄瑞は、はにかみながら、「わりぃ」と朔に手を合わせる。


「俺、後片付けしてから追っかけるわ。ほら、見られたくないもんとかあるわけよ。大人の事情ってやつだ」


 玄瑞は、チラリと懐から本を見せる。

 そこには、女性の顕な姿が描き出されていた。

 朔は思わず、顔を赤らめ、皆の所に駆け寄る。


「朔。玄瑞、あーゆー本どっさり溜め込んでんねん。どれ持っていくか、選ぶのに時間かかるんやで」

「ほっといたり。名残惜しい別れには、時間がかかるもんや。人には、色々あんねん」


 双子が朔を宥めるも、梓は玄瑞を横目で流し、紅梅は振り向きもせず、皆とその場を立ち去った。


◇ ◇ ◇ 


 辺りが夕闇に包まれ、いつもなら賑やかな庵も、今ではただの空虚な家でしかなかった。

 玄瑞は小さな灯りを頼りに、先ほどの春画を見ては鼻の下を伸ばす。


 どのぐらい時が経ったのだろうか。

 玄瑞は春画すら見飽きた様子で、本を投げ出し、縁側に寝転がった。


 夜空は晴れ、無数の星が瞬く。


 (あー、なんか嫌な事思い出しちまったな……)


 玄瑞は夜空を見ながら、ムスッとした顔を浮かべる。


(なーんで、こんな時に思い出すかなぁ)


 縁側でゴロゴロと寝返りを打ちながら、何度もため息をついた。

 頭の中を、かつての自分の姿がチラつく。

 思い出しては、頭を叩き、忘れるように首を振る。


(それもこれも、野盗たち(あいつら)のせいだっ!あいつらが……)


 必死に鴉たちのせいにしようとするも、やはり自分自身が許せなかった。


 (刹、すまねぇ。俺たちのせいだ……)


 玄瑞は心の奥底に押し込めていた何かを、出さないように自分を言い聞かせた。


(俺は遊んで暮らしてぇんだ。刹たちにはまだ隠し通せる。見せたくねぇ。嫌われたくねぇ……。離れたくねぇ。でも……)


 玄瑞は体を丸め、縮こまる。


「もう、勘弁してくれよ……」

 

 玄瑞の呟きは容赦なく裏切られ、遠くから足音が聞こえてきた。

 獣の鳴き声も聞こえる。

 一人……二人、いや、数人はいる。


(はぁ……。)


 玄瑞は体を起こし、縁側に腰掛けた。

 森の奥から、いくつかの揺らめく灯が、庵に向かって近づいてくる。

 

(これで絶ってぇ最期だかんなっ。ばあさんの(めい)だろうが、二度とやんねぇっ! 俺は普通の人として、あいつらと生きるんだッ!)


 玄瑞は自分に言い聞かせると、気合いを入れるため、自分の頬を二度叩いた。


「誰だっ! そこにいる奴ぁ!」


 暗がりの中、玄瑞の気配に気づいた手下が怒鳴り声を上げる。


「自分の家にいちゃいけねぇのかよ」


 玄瑞は不貞腐れながら応えた。

  

「その声。 これは、これは。この間の。えらく静かだが……。坊ちゃんたちは? お前が逃がしたのか?」


 辺りを見回しながら、相変わらず下卑た笑いで鴉が姿を現した。犬を数頭、手下を数人引き連れ、入口を塞いでいる。


「まぁなぁ。刹たち(あいつら)をお前みたいな汚い奴に、汚させたくねぇんでな」


 玄瑞がニッと笑う。


「そいつぁ許せねぇなぁ。せっかく、()()()を迎えに来たのによぉ。(あいつ)には野盗としての才能があるんだ。俺だけが、あいつを分かってやれる」

()()()……だと?」

 

その言葉を聞き、玄瑞の顔がピクリとわずかに引き攣る。


「それに、俺はあいつの親父だしな。(あいつ)には、俺しか()()はいねぇんだよ」


 ブチンッ。


 玄瑞の中で何かが切れた。


「家族……」

 

 ゆっくりと立ち上がり、玄瑞は鴉に近づく。


「一つ、尋ねる。お前らの狙いは、刹か? それとも……朔、か?」


 それを聞いた鴉は高らかと笑いを上げた。

 夜の森に響き渡り、驚いた鳥が一斉に飛び立つ。


「ひゃーっはっは! お前、おもしれぇな? いつ気づいた?」

「ふん。お前の視線は、馬鹿みたいにわかりやすいんだよ」


 玄瑞は懐から、般若のような牙のついた面頬を静かに取り出す。


「もう一つだけ。お前の後ろについてるのは、赤坂か?」

「お前、一つだけって言っただろ? 答える義務はねぇな」

「そうか」


 玄瑞は面頬を取り出すと、耳に掛ける。


「なんだぁ? やる気かぁ? お前一人に、こっちは多勢。まさに、多勢に無勢とはこの事だなぁ!」

「まぁ、落ち着けって」


 いきり立つ手下を宥めながら、鴉が一歩前に出る。


「いいだろう。冥土の土産に一つだけ教えてやろう。あの、刹に使った毒。あれはな、赤坂から賜ったものだ」


 玄瑞の中で、刹が倒れ、苦しみ、死の淵を彷徨う姿が脳裏を掠める。血管が切れそうなほど、拳を握りしめる。


「やはり、そうか」

(刹……。終わらせてやるからな)


 玄瑞は、「しゅー」っと長く息を吐く。規則正しい呼吸を続けながら、懐から角手(かくて)を取り出し、指に嵌める。


「コイツはな、手のひら側に刃が着いてんだ。掴まれると、痛ぇぞ?」

「そんなもんで何ができるんだ? こっちの刃の方が何倍も痛ぇに決まってる」

 

 鴉は腰から刀を抜き、玄瑞に見せつける。

 

「しかし、お前。さっきから"しゅー、しゅー"うるせぇぞ」


 鴉は玄瑞が規則正しく吐く、変な呼吸に文句を垂れた。


「すまねぇな。これはな。まぁ、準備運動みてぇなもんだ。お前ら見てぇな奴には、一生かかっても理解できねぇと思うがな」

「うるせぇ!」


 笑う玄瑞に、イキった手下が斬りかかるも、その首を掴み、刃を喉に食い込ませ、首をへし折る。

 手下の足元には断末魔の叫びと共に、赤黒い血が滴り落ち、血溜まりが出来上がる。

 鴉は手に持った松明を掲げ、目を凝らして玄瑞の姿を確かめた。

 その姿を見た鴉は、途端に顔を強ばらせ、喉の奥から言葉にならない声を漏らす。


「頭、どうしたんで?」

 

 鴉は一歩、また一歩と後ずさり、冷や汗をかいている。


「あ……っ、お前、その面頬……。その武器。まさか……、"常葉(つねは)狂鬼(きょうき)"ッ!」

「あー、俺の事知ってたんだ。戦にも出ねぇ野盗如きが」

「骸の下には、血溜りが出来上がる……。それは、"鬼が人を貪り食った残骸のように見える"。だから、狂った鬼、狂鬼ッ! た、確かに、"彤様(とうさま)"があの時葬ったと……」


 鴉はつい名前が口をついてしまい、慌てて口を塞ぐ。


「ほぅ。"彤様"ねぇ? そいつは、"赤坂彤"で間違いないな」


 鴉は口を抑えたまま、首を横に振る。


「まぁ、いいか」


 玄瑞は、ゆっくりと鴉に歩寄り、鴉の目の前に顔を突きだす。


「ばあさんには、足止めしとけって言われたけどよ。狂鬼(その名)を出された以上、生かして返せねぇわ。俺、死んだことになってっから」

 

 面頬の奥で、ニッと歯をむき出しにして笑う。


「さぁ、遊びの時間だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ