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演目40 決着

 

 さぁ、俺の――私、皇ネロのマジカルマジックをお見せしよう!


 黒い布に覆い被さる俺の体が消えてぺたりと布が平らになる。

 だが誰も気付かない。俺が復活して玉座に脚を組んで座っているのに。

 ジャンヌとバルバラは自分の為すべきことに気付いたのか、ミラだろうリリスと戦い始めていた。

 カエサルは杖を掲げ、頭上に太陽みたいな熱くて眩しい巨大な魔力玉を作り出して、今まさに魔王に投げつけようとしていた。

 マシロは頑張って時間を稼いだ結果なのか、右腕と左脚を負傷しつつも攻撃に巻き込まれない位置でカエサルと魔王を見守っていた。


 あー……まずは防御だな。


 魔法陣のバリアを展開して防御する。

 魔王は魔力玉を堂々と正面から受け止めたが、その魔力玉が大爆発を起こし、視界が一瞬で真っ白になった。


「けほっ、けほっ……どうなった?」


 バリアで衝撃波や爆発は防げたが、煙や埃までは防げず咳き込んでしまう。袖をマスク代わりにして視界が戻って煙が晴れるのを待っていると、まだ何も見えないのに金属がぶつかり合う音が聞こえ始めた。

 探知魔法を使えば、魔力の動きで三人が視界不良の中で戦いを再開しており、魔王とカエサルも戦っているのが分かった。


 見えない中でよくやる。これが新人と実力者の差か。


 このままでは座っているだけになってしまう。

 仕方なく立ち上がり、失くしてしまったハットとステッキを新たに生成して装備し直し、準備完了。


 ハットを手に持って内側を前に向け、魔法で煙と埃を一気に吸引して綺麗にした。丁度光で眩んでいた目も戻ってよく見えるようになった。

 ハットを被り、優雅な様を見せつけるように玉座の段差を降り、戦っている三人にゆっくり近づく。

 場違いで頭のおかしな行動だとは分かっている。けれど奇術師としてお道化たいから仕方ない。相手の油断や挑発を誘う意味もあるが。

 最初に気付いたのはたまたま視界に入って目が合ったジャンヌ。普通に参戦するでもない俺を見て疑うように目を見開き、すぐに戦いに戻りながら口を開いた。


「ネロ、邪魔だ引っ込んでろ!」


 おぉう、普通の対応。

 でも引き下がるわけにはいかない。魔力をかなり消耗しているが、俺だってまだ戦える。


 だからハットに左手を添えてステッキを構え、ポーズを取った。


「そういうわけにはいかない。私だって魔法少女。ナイトメアであるリリスを――」

「ネロ、邪魔」


 ミラだろうリリスが俺を狙って背後に転移して現れ突き刺そうとしたところを、バルバラが素早く横から割り込んで短剣で防ぎ、庇われてしまった。


 ……俺、カッコわるっ! 


 惨めさと恥ずかしさでハットに添えている左手が少し震え、顔も少し熱いが今は我慢。ここで感情的になって闇雲に攻撃に加わろうなんてことはしない。

 ジャンヌとバルバラは長年連れ添った関係なのか巧みに連携していて、ミラだろうリリスの空間転移や、複製して空中に設置した剣を互いにカバーしながら対処していた。

 自分は戦力外と言われたので警戒しながら下がり始めると、周辺の空間が歪み始めた。


 まだ、本気を出していなかった?


 逃げ場所が見当たらない。何かしようとする前に空間が幾つも割れ、そこから剣が何本も飛んで来た。


 指パッチン――しようとしたところで気付く。


「――止まった?」


 空間から出て来た剣が空中で制止していた。よく見れば霜が付いて冷気を発している。


「どうやら間に合ったみたいですね」


 聞き覚えのある声がして振り返ると、魔法少女が一人傍に立っていた。

 動きやすく、雪と氷をイメージした美しいデザインの冷気を纏う純白のドレスを着ている。頭には雪結晶のようなティアラを載せていて、足はヒールのロングブーツ、手には氷の長い杖がある。


「もしかして、副支部長?」

「はい。完璧で瀟洒しょうしゃなメイドであり、魔法少女協会日本支部の副支部長をしている氷室リッカです。それよりネロ様、私の呼び方、間違っていますよ?」


 呼び方?


「……リッカちゃん?」

「はい♪」

「どうしてここに?」


 っていうか、今戦闘中!


 いつの間にか小さな結界が張られていて、俺とリッカちゃんは大丈夫だけど。

 外ではジャンヌとバルバラとミラだろうリリスが以前よりも激しく戦っている。


「ネロ様とマシロ様が東京の夢境に入ったきり戻って来ないとマコト様から連絡があり、急遽きゅうきょ捜索隊を編成して助けに来ました」

「あぁ、なんかごめんなさい」


 全面的に俺が悪いので頭を下げておく。


「ウフフ。お二人の処遇については帰ってから決めるとしましょう。今は、リリスを倒すことが先決ですから。ネロ様はまだ戦えますか?」

「正直いっぱいいっぱいだけど、一応は」

「では、私は攻撃に集中しますので警戒をお願いします」

「了解」


 結界が解かれ、リッカちゃんが杖を振るうと大量の氷柱が生成されて発射される。剣と氷柱がぶつかり合って消滅する中で、一部の剣は凍結したのか空中で制止。その間を抜けて氷柱の一部がホーミングしてミラだろうリリスを襲う。だがそれは別の空間から出た剣によって迎撃された。

 ジャンヌとバルバラが別方向から斬り掛かるが空間転移で逃げられ、俺とリッカちゃんの頭上に出て来た。

 ちゃんと探知魔法を使って警戒していたので、その動きは読めていた。ステッキを真上に向けて指パッチン――というところで相手が何かに反応し、目の前でまた転移した。

 直後、横から斬撃が通り過ぎて壁の一部を斬った。


「避けんなや!」


 いや避けるでしょ!


 思わず心の中でツッコミを入れてしまう。

 副支部長が来たのならもしかしたら――と予感はしていた。関西弁で覚えのある支部長の逢坂カナタが、少し離れたところに立っていた。

 和服とブレザー制服を合わせた魔法少女衣装を着ていて、上着が彼岸花柄の黒い羽織りで、スカート代わりの袴が短い。腰の左側には二本の刀の鞘がベルトで提げられ、手には長さの少し違う刀が握られていた。


 ミラだろうリリスがどこに転移したのかと気配を探せば、魔王の後ろにいた。

 カエサルが杖の先端に光の大剣を生成して振るい、それを魔王が易々と受け止め、拳や蹴りをカエサルは確実に躱し、受け流していた。

 俺たちが移動して魔王を囲もうとしていると、聞き慣れた音が聞こえた。


 シャキンッ!


 ミラだろうリリスは反応して即座に回避に動いたが、狙われたのはカエサルと戦闘中の魔王だった。

 俺の再現ではあっさりと受け止められて手傷すら追わせられなかったのに、超高速で飛んで来たマコトは大きな断ち切りバサミで魔王の左腕を切り落とした。 

 これには流石の魔王も効いたようで、数歩後ろに下がった。

 その間に俺たち魔法少女は全員で取り囲み、逃げられないようにした。

 けれども魔王の戦意は薄れておらず、むしろこの状況を楽しむかのように笑った。


「これはこれは……日本の支部長の逢坂カナタに、副支部長の氷室リッカ、最強の魔法少女、霧崎マコトじゃないか」


 魔王の言葉に、支部長が一歩前に出た。


「そーいうあんたは、魔法少女協会本部、本部長のマリア・パナギアやん。そこのミラ・ヴァレンタインともども、なんでリリスになっとんねん? 今ここで説明しーや。冥途の土産に聞いたるで」


 ドスの利いた声と共に魔力を放出し、刃物のような威圧を感じさせた。


「フッフッフッフッフ……今の我は魔王。魔王ティアマト。世界を滅ぼし新たに創造する者。予言しよう。我は復活し、再び世界を滅ぼしに掛かる。その時が現人類の最期であり、新人類の始まりとなる」

「……なにいっとんねん?」

「いずれ分かる」

「あっそ。じゃあ死ねや! その魂ごと斬り刻まれて消滅せぇッ!!」


 支部長が動いた。

 だが、その直前にミラ・ヴァレンタインだと確定したリリスが空間転移で逃げた。

 指示はなく、支部長が両手に持つ刀に妖しいオーラを纏わせると魔王に向かって超高速の連撃で斬り刻み始めた。魔法少女の視力をもってしても手元の動きが分からない。あれだけ硬かったオーラと一緒に肉体が紙のようにスパスパと切れていき、ものの数秒ほどで細切れになった。

 魔王の体は霧散するが、その粒子は消えずに一塊となってその場に留まった。


「我は滅びぬ。現人類が存在する限り何度でも蘇る」

「ああ? 魂斬ったのに死なへんのか。はよ逝けやクソが!」

「カナデ、私がやる」


 マコトが大きな断ち切りバサミを地面に突き刺して前に出た。それから手を前に出すと上から一本の刀が降って来て、手の中に納まった。

 それはどこにでもあるような、黒鞘の刀だ。柄の模様も地味で、鍔だって紋様が無く四角いだけ。


「『神切丸かみきりまる』――奴を斬れ」


 マコトはそう言って鞘から刀を引き抜くと、軽く素振りしてすぐに鞘に仕舞った。

 直後、一塊になっていた粒子が素振りした向きにパックリと切れ、形を保てずに消え始めた。


「……此度はお前たちに勝利を譲ろう。だが全てが遅すぎる。我の計画は既に完遂した。最後に、お前たちに絶望をくれてやろう。信徒よ――“殉教じゅんきょう”せよ」


「――はい。この命を捧げます」

「――はい。この命を捧げます」


 えっ?


 ジャンヌとバルバラが同時に返事をし、手に持っている剣と短剣で躊躇ちゅうちょなく自分の首に当てがってしっかりと引き裂き、首を自ら落として倒れた。

 二人の体は変身が解けてシスター服に戻った。

 あまりのことに俺も含めてこの場にいる全員が呆気に取られて立ち尽くす。


 催眠の魔法は消した筈――ああ、そうか。深層意識に刷り込まれていたのか!


「フッフッフッフッ……フフフフ……アーッハッハッハッハッハ……――――」


 そんな俺たちを嘲笑うかのように、魔王は高笑いしながら消えていった。


「ジャンヌ、バルバラ……!」


 カエサルが倒れた二人に駆け寄り、膝を着き杖を置いて二人に手を伸ばし――すぐに手を戻した。

 それから胸の前で十字を切ってラテン語でブツブツと祈りを捧げると、再び杖を持って立ち上がり、走って玉座の背後に未だに存在する大きな空間の穴へと飛び込んでいった。

 気になったので俺も走って追い掛ける。

 誰も止めないどころか、支部長とマコトは付いて来た。




 空間の穴に飛び込んだ先は、石柱が取り囲む円形の大きな広場だった。どっかのヨーロッパの観光地っぽい。

 だがしかし、ツンと鼻に突くのは血の臭いで、目に入るのは大量に死んだ人間たち。中には法衣を着た人や、魔法少女たちが着用しているシスター服の姿もある。

 少し歩いた先にカエサルが膝から崩れ落ちて呆然としていた。


「うわっ、なんやここ! 魔法少女協会本部の派出所があるバチカンかいな?」

「だな。遅すぎるというのはこういうことか」

「戦える魔法少女の居留守を狙われたってか? 笑えんなぁ」

「それに最後の殉教が気になる。もしかしたら操られていた魔法少女や信徒が全員、自殺したかもしれない」

「うへぇ、書類の山が見えるわ」


 支部長はめんどくさそうな表情で漠然と辺りを見渡し、マコトはハーブシガーに火を点けて大きく吸って吐いた。

 一息吐いたところで、マコトが俺に言った。


「ネロ、帰るぞ。ここのことは向こうの問題だ。私たちには私たちの守るべき場所がある。この空間の穴だっていつ閉じるか分からないからな」

「分かった。でもその前に」


 俺はカエサルの傍に駆け寄り、前に来ると膝を着いて視線を合わせた。


「カエサル、今こんなことを言ってもダメかもしれないけど。言わせてほしい。奇跡も魔法もあるんだ。まだ終わりじゃない。なんなら、私が奇術で奇跡を起こして見せてもいい」


 流石に死者の復活は宗教的にダメそうだからやらんけど。


 俺の言葉が納得のいくものだったのか、カエサルは小さく頷くとキリッと表情を戻した。


「……そうだな。まだ終わりじゃない。人類はあらゆる災厄に遭おうとも必ず立ち上がって来た。神であり魔法少女である私が希望とならずして、誰がなるか!」


 立ち上がって高らかに言ったカエサルは、杖を掲げて魔力を先端に収束し、新東京市でやった時と同じように光りの玉を空高く打ち上げた。

 明るく温かい光が降り注ぐ。

 魔法少女が健在であると周辺に示されただろう。


 ……これなら大丈夫かな?

 でも、そうだな……お守りぐらいは渡しておこう。


 魔力が少ない俺は魔力収束剣――略して魔剣を出し、そこから魔力を捻出してレプリカードを一枚生成した。魔力をたっぷり含んだこれは単独で使える。描かれているのはセシリア。信仰ビームを撃つ奴だ。


「カエサル、これを」

「これは――レプリカードか。いいのか?」

「今完成させた。お守りに使ってくれ」

「そういうことなら、有難く受け取ろう」


 カードを渡した後に握手を交わす。

 それが終わると俺たちは空間の穴を通って戻り、ジャンヌとバルバラの死体を担ぐとマコトの縮地でさっさと新東京市へと帰還した。




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