演目38 地下探索
ピザパーティーを終え、三人一緒にトイレを済ませて事務室に戻ったところで向かい合う。
「カエサル、本当に地下へ行くつもり?」
「そのつもりだ。お前たちは戻れるなら戻るといい。ここから先は地獄だからな」
「……」
言われた通りに戻るのが本当は正しいのだろう。俺もマシロもまだまだ新人であり、こんな危険地帯にいるべきではない。
でも、今ここでカエサルと別れたら、二度と会えない気がする。
だから俺はこう言う。
「付いて行くよ。覚悟は出来てる」
「ご主人が行くなら、マシロも!」
マシロ……すまん。
「……いいのか? 生きて帰れる保証はどこにもないぞ」
「構わない。それよりカエサルを一人には出来ない」
「うん! なんか、放っておけない」
「……ありがとう。助かる」
「お礼は帰ってから受け取るよ。それはそうと、マシロの紹介を忘れていた。彼女は犬塚マシロ。ちょっと訳あって思考に制限を掛けている」
「マシロはマシロだよ! よろしく!」
「カエサル・アウルムだ。よろしく」
握手を交わし、マシロが耳を横に向けて尻尾をブンブン振っているからか、カエサルは自然と手をマシロの頭に載せて優しく撫でた。
「えへへ」
「……行こうか」
一瞬だけ優しい微笑を浮かべたカエサルは表情を戻して気を引き締め、事務室のドアを開けて出た。俺たちも後に続いて部屋を出て、不自然に存在している階段を降りてさらなる地下へ進みだした。
階段を降りた先は、なんてことない地下鉄の通路だった。
電気が止まっている筈なのに照明が点いていて明るく照らされており、壁には広告が貼り付けられていたり、案内掲示板が天井や壁にある。床は開業したばかりのように綺麗で点字ブロックには汚れ一つない。パッと見はいい場所だ。
だが違和感しかない。放棄された街なのにここまで綺麗なのはおかしい。
警戒しつつ無言で歩いて通路を過ぎると、また通路に来た。
同じ構造、同じ配置、同じ掲示物。
……ふむ。
これはもしかしたら、もしかするかも。
通り過ぎるとまた同じ通路に来た。
「ご主人、ここ、変だよ」
「だろうね。カエサルはどう思う?」
「ナイトメア――『フロアゴブリン』の仕業だろう」
フロアゴブリン、小さな醜い妖精型のナイトメア。魔法少女ですらほぼ感知できない結界を展開して閉じ込め、同じ場所、同じ時間を延々と繰り返しながら怪異を起こし、焦りと絶望を味わわせる。かくれんぼに真面目に付き合うと苦労するが、結界を覆い尽くすほどの広範囲攻撃で楽に倒せる。討伐ランクはC。
「誰が倒す?」
「マシロが倒すよ! ――ここだッ!」
俺が問い掛けたらマシロが即座に答えて動き、掲示物の一つを豪快に殴りつけた。
壁に大穴が開いてしまったが、フロアゴブリンがぐちゃぐちゃになった状態で姿を見せ、そのまま霧散して消えた。
同時に綺麗な通路が、明かりも無いのに何故かよく見える薄汚れた通路に変化した。
「わお、お見事!」
「えへへ、マシロ凄い?」
「凄い凄い。よくやった」
ほんと、動物の直感マジ凄い。
戻って来たマシロを撫でてやる。横を見ればカエサルも手を出して撫でたそうにしていたので、代わってやるとほっこりした表情を浮かべた。
通路の先にある階段を降りると、短い間隔で十字路が延々と続く――非効率極まりない碁盤状になっていた。
それと、探知魔法を使わずともナイトメアの気配が感じれた。
「マシロ、なんかいるっぽいけど、どう?」
「こいつ危ない。逃げた方がいい」
「カエサルは?」
「私も賛成だ。ダンジョン経験者として語らせてもらうが、このような地形は大抵、強力なナイトメアがいる」
「来るよ!」
マシロが言った直後、地形を無視して壁の中からぬるりと姿を見せたのは死神だった。
黒いボロ布を纏い、下半身が存在せず上半身が透けた骸骨で、禍々しい大鎌を持っている。名前は見た目そのまんまな『リーパー』。明かりの無い場所で活動する、死の恐怖を具現化したナイトメアで、霊体で特殊な攻撃以外が無効。倒すには隠れている本体を叩くしかないが、本体も強い。討伐ランクはA。
試しに魔力を込めて纏わせたハットを投げつけてみるが、当たった部分が煙のように歪んですり抜けた。
「うん、これ無理」
あっさり諦め、ハットを手元に戻して被り直しつつ逃走を選択。カエサルとマシロも続いた。
背後では大鎌を振り回しながらリーパーが追って来る。
追い掛けるのを止めたかと思えば壁の中を移動して先回りし、襲い掛かって来た。
大鎌を躱してまた逃げる。
ちょくちょく後ろを振り返っていると、その時に嫌なものを見てしまった。
うわぁ、増えたー。
一体から三体へと増え、二体が左右から先回りを試みている。
「カエサル、フラッシュとかで目くらましできない?」
「無理だ。リーパーはあらゆる方法で我々を知覚している。目を潰しても意味がない」
「なら一時的に動きを止める方法は?」
「アンデッドに効く聖水や聖なる光なら、足止めにはなる」
「じゃあ頼んだ!」
「……あまり消耗はしたくないのだがな。――聖なる光よッ!」
カエサルが杖を掲げれば、ただの明かりが太陽のような温かく眩しいものへと変わった。壁から出て来たリーパーは逃げるように引っ込み、後ろから追い掛けていたリーパーも追い掛けるのを止め、眩しさに手をかざす動作を取った。
「言っておくが、そう何度も同じ攻撃は通じない」
「大丈夫。マシロ、敵の本体がどこにいるか分かるか? 大体の位置でいい」
「わかるよ。あっち!」
指さした方角は真正面の奥にある壁。
「よし。二人とも後ろに下がってくれ」
俺の言葉に従って後ろに下がってくれたのを確認した俺は、ハットの中から一枚のカードを取り出した。
魔法少女衣装を着た、天使のセシリアが描かれている。
私の魔法は直接的な火力は無い。
でも自分の認識でそれが奇術であるならば……出せないこともない!
「レプリカード:セシリア」
魔力をカードに込めて発動。
実際に見て攻撃を受けた彼女の信仰ビームを再現し、展開した複数の魔法陣から極太ビームを発射した。
うおっ、すっごい魔力減る!!
「その魔法、セシリアの……!!」
「すごーい!!」
――やべっ、観客がいるのに苦しそうな顔をしてたら奇術師魔法少女としての面子が立たん! 不敵な笑み、不敵な笑み……。
再現した極太ビームが消えると、前方の通路は凄まじい破壊力によって綺麗に十字路が削れており、熱で周りがドロドロに溶けていた。本体がいるであろう奥の壁には大穴が開いており、リーパーの気配も完全に消えていた。
俺は振り返り、ドヤ顔を決めつつ言う。
「どうだい? 私の魔法は」
「凄いよご主人! マシロもやりたい!」
「可能なら、そのカードを一枚貰えないだろうか。いざという時の切り札になる」
おぉう、予想以上に好評……。
「……ごめん、まだ試作段階で自分以外には使えないんだ」
嘘だ。
条件付けさえすれば他人でも使える。多分。
あとは魔力を込めておいて、消費アイテムとして手軽に使えるようにしてから渡したいだけだ。
「なら仕方ない。が、完成したら是非欲しい」
「マシロも!」
「うん、約束しよう」
安全なのでゆっくりと階段を探し出し、いざ降りようというところでふと思った。
これ、一気に一番下まで降りられないかな? と。
「なぁカエサル」
「なんだ?」
「これ、一気に一番下まで降りられない?」
「……」
お前は何を言ってるんだ? って感じの怪訝な顔をされた。
「で、どうなの?」
「……空間系の魔法を専門に扱う魔法少女なら或いは、といったところだ。そもそも未知の場所に座標も特定せずに行こうとするのは、無謀もいいところだぞ」
「なるほど。じゃあ次の階までだったら?」
「……出来なくはない」
「ふむ。ならこれだな」
髪の中から取り出したるは、なんの変哲もないフラフープ。
それを足元に設置し、《《次の階への通路》》として魔法を付与すれば、あら不思議。内側が別空間へと繋がった。
安全であることを示す為に俺は躊躇わずに飛び込んだ。
次の階へとちゃんと繋がっていて華麗に着地。
遅れてマシロとカエサルもフラフープを抜けて降りて来た。
「それじゃあ、一気に行こうか」
俺はさらにフラフープを取り出して目の前に設置。ナイトメアが来る前にさっさと次の階へと降りた。




