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演目35 東京ダンジョン

 

 夢境に覆われた東京は夜そのものだった。何もかもが薄暗いが、明かりが無いのによく見える不思議な空間。ナイトメアの気配が非常に強く、圧迫感のあるピリピリした空気で、あまり長居したくないと思わせる場所だ。


「ご主人、こっち」


 マシロがカエサルの下まで案内してくれるが、その声は心なしか元気がない。尻尾も不安なのか垂れ下がっており、耳を立てて警戒していた。

 俺もその警戒心に倣って探知魔法を探知能力重視で範囲を狭めて常時発動し、奇襲に備えつつ目や耳を活用して警戒に当たった。

 歩いていると当時の東京の様子がよく分かる。

 全員が逃げ出したように沢山の車が放棄されており、火事場泥棒で店のガラスは割られ、一部の建物は魔法少女とナイトメアの壮絶な戦いの為か完全に崩れてしまっている。

 警察や自衛隊の車両や戦車もあり、空薬莢やアサルトライフルが落ちていたりもしている。

 だが、死体が全く見当たらない。

 それについてはナイトメア図鑑を熟読したから心当たりがある。

 マシロが耳をピクリと動かし、立ち止まった。


「ご主人、敵、来るよ!」


 向いている方向に探知魔法を飛ばせば、ぞろぞろと何かが近づいて来ているのが分かった。

 目視で確認――ゾンビだ。数百はくだらない大量のゾンビがフラフラと歩いて行進している。一般人の他に警察や救急や消防、自衛隊員の姿もある。また、少数だが車両や戦車、宙に浮いた銃器などもある。

 その大軍の中に一際背の高い木偶人形が歩いていて、手から大量の糸を伸ばしてゾンビたちを操っていた。

 ナイトメア『ドールパペッター』だ。大きな木偶人形で顔が無く、糸に繋いだものをなんでも自在に操る。拘りがあるのか人型を率先して操ろうとする。例え魔法少女でも、糸に繋がれると抵抗は難しい。討伐難易度A。Cランク以下は接触禁止指定されている。


「マシロ、こいつは私がやる。君は下がれ」

「うん」


 相性が悪そうなマシロは相手から目を離さずに俺の後ろについてくれた。

 こいつの倒し方は分かっている。ちまちま操っているものを倒しても意味がないので、広範囲最大火力をぶつけて本体を倒せ、だ。


 指パッチン。


「裏切りの人間爆弾」


 操り人形にしている死体全てに爆弾を装着。顔が無い木偶人形がきょとんとして操っているゾンビの一体を調べようとしたところで、手に生成した起爆スイッチをポチッと押した。

 すると爆弾が一気に起爆し、前方でそれなりの大きさのキノコ雲が発生した。

 ドールパペッターの気配は消えた。

 だが、油断はできない。爆風と煙を浴びつつ晴れるのを待ち、視界がよくなって前が見えるようになってようやく一息吐いた。


「よし。やれたな」

「ご主人、すごい!」

「フフ……引き続き案内頼むよ」


 笑って言うが、それなりに魔力を消耗したのは内緒だ。


「……ごめんなさい。難しいかも」

「えっ?」


 予想外の返答に間の抜けた声が出てしまった。

 マシロは東京の奥地を睨みつけるとぐるると唸り、いつでも動けるように身構えた。


「ご主人、来るよ。沢山来る!」


 言われて一瞬だけ探知魔法の範囲を広げれば、ナイトメアが大量にこっちに来ているのが分かった。


「――っ、これは、マズい」


 しまったな。後先考えず爆弾なんて使うんじゃなかった。


「逃げようマシロ。出来れば案内しつつで」

「ならこっち!」


 マシロが走りだし、俺は付いて行く。

 こういう時は野生の勘が働き、五感も鋭いマシロに任せた方がいい。

 その判断は間違っていなかったようで、出会わないように道を頻繁に変え、隠れるべき時はちゃんと隠れてナイトメアたちをやり過ごせた。


「よしマシロ、今度からは静かに素早く行こう」

「うん、静かに素早く」


 小声になったマシロが案内を再開し、周辺をうろつくようになったナイトメアを避ける為に狭い路地を通って行く。


 ――と、運が悪いことに気配の全くしないナイトメアの一体が、正面から路地裏に入って来た。


 こいつは――倒せる!


 一定の速度で浮いたまま飛んで来たのは、真っ黒な液体の大玉。『ダークマター』と呼ばれるナイトメアだ。スライム系の最上位種で、ナイトメアとしての気配が一切無く、触れた物質をなんでも瞬時に溶解させるヤバイ奴。魔力も吸収するので生半可な攻撃は一切通じない。接近戦なんて以ての外。倒すには強烈な貫通力や切断力、粘性の高い液体を吹き飛ばすだけの衝撃波が必要で、攻撃が溶かされたり吸収される前に内部の核を破壊する威力が求められる。討伐ランクはA。


「こんな奴――」

「マシロ、躱せ!」


 手の爪で攻撃しようとしたマシロに指示を出し、突っ込んでくるダークマターを共に躱せば、そいつは旋回しようとして建物にべちゃっと当たった。建物は付着した部分から一瞬で溶けて無くなっており、また浮いて突っ込んで来る。


 もう一度躱したところで俺は頭に被っているハットを手に持ち、ハットをステッキで軽く叩いた。

 するとダークマーの中にあった丸くて赤い宝石のような核が、ぽとんと地面に落ちる。それをヒールで踏みつけて砕けば、浮いていたダークマターの黒い液体は霧散して消えた。

 ハットを被り直す。


「ふぅ。魔法の相性が良くて助かった」

「ご主人、ごめんなさい」


 危うく死ぬところだったのが分かったからか、マシロがしょんぼりしていた。

 思考を鈍化させる首輪さえしていなければ確かに迂闊な攻撃をしようとは思わなかっただろうが、今はその状態でないといられないのは知っている。

 だから俺は頭を撫でてやった。


「いいさ。今度からは慎重にな。でないとここは死ぬぞ」

「うん、今度から慎重に動く」

「……さて、どうしようか。なぁマシロ」

「マシロは指示に従うだけだよ」


 ちょっと戦っただけで、近くのナイトメアが反応して動きが活発になっている。隠れても見つかるのは時間の問題だし、かといって飛んだり走ったりしても追いつかれそうだ。瞬間移動したり転移という手もあるが、その場の状況が分からない以上、危険な賭けになる。


 ……走って行くのがマシか。


 消去法だが、墜落や転移先のリスクを考えるとそれしか無さそうだ。


「走ろうか」

「わかった」


 マシロが走りだし、その後を付いて行く。流石は犬といった具合に足が速く、物や瓦礫なんかもひょいひょい避けて行くので追いつくのに一苦労。挙句の果てには突然立ち止まって振り返り、俺が追いつくのを待ってもらう始末。


「ご主人遅い」

「うっ、ごめん」


 まさかダメだしされるとは……これが願いによる能力差か。


「もういいよご主人。マシロが運ぶ。乗って」


 マシロが四つん這いになったかと思うと魔法で体が変化し、人が乗るのに充分な大きさの白い狼になった。首輪も一緒に大きくなっている。


「おぉ……カッコイイやら可愛いやら……」


 いやちょっとおっかないかも。特に牙が鋭くてでかい。

 こんなのに襲われたら怖いし、噛まれたら普通に死ねる。


「ご主人、早く乗って」

「あっはい」


 観察していたら急かされたのでさっさと乗り、振り落とされないようにがっしり捕まる。


 あぁ、ふわっふわだ~~。


 最高級の毛皮だ。癖になる。今はゆったりできないが、これが終わったら絶対にこの状態のマシロと寝よう。


「ご主人行くよ。しっかり捕まってて」

「ああ、頼む」


 マシロが走り出す。筋肉の力強い躍動を感じ、景色が次々と変わっていく。物はぴょんぴょんと跳んで避け、俺たちに気付いたナイトメアの攻撃も軽快に躱していく。数が増えても動きを速めることでしっかりと躱し、建物の壁を走ったり街灯を足場にしたりと三次元的な動きをしてすり抜け、突破した。


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