演目34 道中
「はい着地!」
結界から出た俺は放物線を描いて落下し、綺麗に着地した。もし審査員がいたら全員10点をくれるだろう。
「さて、東京はどっちだ?」
スマホを出して地図を開き、方角を確認。
「あっちか」
位置的に隣とはいえ、少し距離がある。
ただ慌ててはいけない。東京内部はダンジョン化していると聞いているし、中がどうなっているかの情報が無く、カエサルがどこにいるかも分からない。
「……犬の嗅覚、どこまで頼りになるかな」
望みは薄いが、マシロにトコトーク。
『マシロー、ちょっと手伝ってー』
『わかったそこだねすぐいく』
あの、まだ場所教えてないんだけど?
そう思いながら探知魔法を使えば、ちょっと離れたところから猛スピードでピョンピョン跳んで来るマシロが感じ取れた。
ものの十数秒で、建物の屋根の上を跳ぶ変身した姿のマシロが見え、目の前で豪快に着地するとちょこんとお座りし、尻尾をブンブン、耳が横を向いて撫でられ待ちになった。
「来たよご主人! 早かった?」
「そうだねー。よしよし」
ひとしきり撫でたところで、俺はカエサルの名刺を差し出した。
「マシロ、無理かもしれないけど、これの持ち主がどこにいるか分かる?」
彼女は名刺に鼻を近づけてくんくんと嗅いだ。
「――うん、わかるよ! こっち!」
分かっちゃうかー。
凄いな犬って。
案内を始め、屋根を跳んで行くマシロの後を付いて行く。
そうしていると道中、気になる光景が目に入った。
手を組んで祈りを捧げる人々。
パンとぶどうジュースを手に他の人に食べさせようと迫る人々。
一部の人を袋叩きにしている人々。
逃げ惑う人々。
そして、シスター服を着て簡略化したウィンプルを被り、同じようにパンとぶどうジュースを食べさせようとしている少女がちらほら……。
なにこの状況……。
「マシロ、なんか街が凄いことになってるけど、どうなってるの?」
「マシロ知らない。パンとぶどうジュース貰おうとしたけど、嫌な感じがしたから食べなかった!」
「そっかー偉いね」
「えへへ」
これ多分アレだ。宗教戦争というか宗教的なテロだ。パンとぶどうジュースに洗脳する効果のある魔法が付与でもされてるんだと思う。
で、セシリアが豹変したのは隠す必要も無くなったから支配者的な奴が行動に移すよう指示を出したからだろう。
いったいなんでこんな馬鹿げたことをしたのかは分からないけど、明らかにピンポイントで、先の事件の傷が癒えないこの街を狙って来ているのは分かる。
ほんと、なんでだ?
全く分からない。敵も、動機も、目的も……。
――あっ、シスターと目が合った。なんかこっち来たっ!?
目が合ったシスターの動きは明らかに身体強化した魔法少女であり、変身して着ている服を変えた。
逃がしては……くれなさそうだ。
「マシロ、相手は同じ魔法少女だが、やれるか?」
「わかんない! けどやる!」
相手はすぐに追いつき、俺を攻撃しようと生成した立派な槍を構えて突撃して来た。
シャキンッ!
覚えのある音が聞こえたと思ったら、相手は意識を切り取られたかのように一瞬で気絶して変身が解除され、墜落し始めた。
その相手を肩に抱きかかえ、俺とマシロに並走する魔法少女がいた。
マコトだ。
漆黒の軍服風ゴスロリワンピース衣装を着ていて、空いている片手には巨大な断ち切りバサミが握られている。
「ようお二人さん。今くっそ忙しいんだが、何処へ行くつもりだ?」
「マシロはネロを案内してる!」
「ちょっと東京に用があるので」
「はぁっ!? 東京!? なんで今行く必要がある?」
「知り合いになったヨーロッパの魔法少女と電話してたんですけど、いきなり通話が切れたもので」
チッ、とマコトは大きく舌打ちした。
「あいつら……これだから向こうの連中は嫌いなんだ!」
「まぁまぁ。それより、なんか街が凄いことになってるし、その魔法少女? は、どうなってるの?」
「それについては今説明する。単刀直入に言うと、向こうの魔法少女がやらかした。魔法を付与した物を食わせて洗脳してる。今周辺にいる魔法少女もある意味被害者だ。が、今は事態の収拾優先で犯人捜しは出来ない。マイカはこういう事態には不向きだから家で待機させてる。それで向いてそうなネロに頼もうと思ったが――無理そうだな」
「はい。ちょっと急いでるもので」
「分かった。ブロンドはどうしてるか知ってるか?」
「ちょっとおかしくなったセシリアの対応してます」
「あーそう。ならいいや。最後に、東京に行くなら二人に言っておく……“ちゃんと生きて帰って来い”。返事は!」
「はい!」
「はい!」
俺とマシロの力強い返事を聞いたマコトは頷き、並走を止めて見送ってくれた。
街の喧騒から離れ目的地に到着。長いこと整備がされていない為か道も建物もボロボロで、人もいないゴーストタウンとなっている。
目の前には巨大な黒い壁のようになっている夢境があり、覆われた先は何も見えず、何も感じ取れない。
「ご主人、探してる人はこの中にいる」
「……行こう」
気を引き締め、俺は夢境に手が届く距離まで近づいた。
「……なぁマシロ、これってどうやって入るの?」
「ズバッてすればいいよ!」
マシロが爪に魔力を込めてズバッと引き裂いた。傷ついた夢境は傷口が勝手に大きく裂けて招き入れるように開いたが、すぐにゆっくりと閉じ始めた。
なるほど。
入り方を理解した俺が中へ突入しようとすると、マシロがグルルと唸り、尻尾の毛を逆立てていた。
「ご主人、注意して。すっっごく嫌な気配がする」
野生の勘って奴か?
「……マシロ、お前はどうしたい?」
「付いてく! 怖いけど……」
「無理、しなくていいんだぞ?」
俺の言葉にマシロは首を横に振った。
「行く。マシロは悪いことしたから……役に立ちたい!」
思考は鈍化しても、心は覚えているか。
「分かった。一緒に行こう」
「うん」
ミシロの覚悟も決まったところで、俺たちは東京へと侵入した。




