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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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61、死別の宣告

「あのさ、コレはとても貴重なモノで、恐らくどの国でも喉から手が出る程欲しいと思う兵器だって分かって・・・」


 俺が確認するように言うと、その言葉を途中で遮るようにしてノワが横から言った。


「あのねアキラ。リーは虫が嫌いなんだ」


 困った子供をあやす母親のような表情でそう言うノワ。俺は訳が分からず「へっ?」と変な声を出した。


「レニアⅩⅤの見た目が怖いんだって。ふふ、虫みたいだもんね」


 ノワのその言葉に、溜め息を吐きながらリグランが続けた。


「マジールには転生者を軸にした研究機関がある。生捕り(?)に出来たこれをその機関に持ち込めば、新たな兵器の開発にも繋がる。だが、混合戦を観戦した者達から『真ん中』へと情報は伝わっている事だろうから、恐らく・・・」


「引き渡せって言ってくるよ」


 ノワが言うと、リグランは頷いた。


「レニアⅩⅤを引き渡すだけでは済まず、レニアⅩⅤから得た研究の成果や情報も全て引き渡すように言ってくるだろう。全てを取り戻す為にこちらに乗り込んで来て、マジールの極秘情報まで手に入れて行くも知れない。国王代行の私の出自に関する噂(・)が流れている今、そうなれば望(・)ま(・)し(・)く(・)無(・)い(・)未(・)来(・)がやって来る恐れがある」


 なんだかんだと理由を付けて攻め込んでくる。


 そういうやり方を、マジールは数え切れない程やって来ていた。武力を持って攻め入り、終戦の為に自国に有利な条件を飲ませる。


 そういう国だからこそ、他国との外渉に敏感になるのも良く分かった。


 けど、そう言うリグランの『運命の柱』の『未来』の中に、戦争やそれに類する争い事は無い。


 何故なら、今後は戦争を回避する為、必ず事前に動くからだ。


 前王の時代、マジール軍のトップとして率先して戦いに出続けていたリグラン。他国から仕掛けられる事も、自国から仕掛ける事もあった。また、内部の抗争も武力で抑え込んで来た筋金入りの武人だった。


 力こそ正義。そういう人間だった。


 なのに、正反対のやり方を是として動くのは、セシル王の代行という立場を示す為に違いない。


 俺にレニアⅩⅤを引き渡すというのも、その事前の行動のひとつで、例えば俺が引き受けなければ、リグランは魔鈴を使ってレニアⅩⅤを自滅させる事になる。有益な兵器の情報よりも、兄の望む平和な外交を取るのだ。


「分かった」


 俺はそう言って、リグランからレニアⅩⅤの入った箱を受け取った。


「虫が苦手ならしょうがない」


 そう言った俺に、


「その理由は納得行かないが、な」


 と答えるリグラン。もう一度溜め息を吐く。


 そんな様子にノワが笑った。


「表向きはそれで行く。虫嫌いの私の為に、たまたまマジールに立ち寄り、たまたま混合戦に参加した異世界人が引き受けてくれた、とな。だがアキラ、お前達は『真ん中』から指名手配を受けている身だ。そこに『生体兵器』の件が加わると、お前達は間違いなく悪(・)く(・)取られるだろう。『セーライ神殿で破壊の限りを尽くした極悪人が、エデンで強力な兵器を盗んだ』とかな。最悪、兄上の暗殺未遂・失踪もお前の所為だと言われるかも知れない。それでも良いだろうか」


 リグランはそう言って俺を見た。


 疲れた目、思い悩んだ目だ。


 本当にこれで良いのだろうか、という迷いを感じる。


「かも知れない、では無いな。恐らくそうなる。そうなると分かっていて私はお前に頼むのだ」


 付け加えるように言われたその言葉を聞いて、リグランの顔色が悪い理由のひとつが分かった気がした。


 単純に代行の業務とグレイクとしての仕事とを抱え込んで忙しいという事もあるのだろうが、全てを『俺の所為にする』という事に多大なストレスを感じているのだ。


 根は真面目で良い奴だから。罪悪感に潰されそうになってるんだろう。


「良いよ。貰う」


 言って俺は箱を強く抱き込んで、リグランに向かって笑った。


 セーライ神殿の件は、何の断りも無く俺の所為にされた。国としてそうせざるを得ないという事は十分に分かっていたので、しょうがないな、と受け入れてやった。


 それに比べてリグランは、事前に断りを入れてくれている。


「すまない」


 そう言って頭まで下げてくれた。国王代行の謝罪だ。


 俺は「うん」と答えて立ち上がった。


「なるべく早くマジールから出てくよ」


 そう言ってトールを見る。


「マジール軍の物資を分けて頂ければすぐに立てます」


 そう言うトールにリグランは頷き、ノワに目配せをした。


「好きなだけ持って行け」


 リグランにそう言われて、勝手知ったるといった感でノワが先に立った。


 扉の前のゴーシュと目が合った時、再びリグランの声が響いた。


「と、いう事だ。船乗りは総監(義父)に今の会話を伝えろ」


 途端にゴーシュの顔が歪んだ。「げっ」という声が聞こえてきそうだ。めんどくさがらずにちゃんと伝えて、リグランの負担を減らして欲しいものだ。


「じゃあね、リー。新しい王様が産まれたら花を贈るよ」


 振り向きながらノワがそう言った。


 俺はハッとなり、慌ててノワの口を塞ごうとする。が、抵抗されて睨まれた。


「何だよアキラ。あっ、王様じゃなくて女王様かな?」


 そう言い切ったノワの頭を、俺は思わず殴ってしまった。


 余計な事を・・・。


「痛っ!何で殴るんだよ!」


 そう言い、俺に掴み掛かって来ようとするノワの口を塞いで背後から羽交締めにした。


 モゴモゴと暴れるノワを押さえながら、俺はリグランの顔を見た。そして、ショックを受ける。


 全くの無表情だったからだ。


 そうじゃないか、と思ってはいたが、グレイクの顔色が悪い1番の理由はコレだったのだ。


 一瞬、何を言ったらいいのか分からなくなってしまったが、俺は取り繕うように違う話題で間を埋める。


「あ、あのさ、『冥府の門』って基本的には一方通行なんだけど、何とかセシル王を救い出せないか方法を探ってみるよ。何か分かったら必ず連絡するから、待ってて」


「ああ・・・。すまない、感謝する」


「あ、あ、あと、これはグレイクに頼みたい事なんだけど」


「・・・何だ?」


「混合戦の俺の賞金、結局途中で中止になったけど途中まで勝ち抜いた分さ、あれまだ生きてるなら、半分を参加者の負傷者の治療費として寄付するよ。残りの半分はさ、名前分かんないんだけど、最初の一般枠予選の第4グループで同じリングにいた8人組のギャング達に。なんか組んで弱い奴ら場外に投げてた・・・」


「ああ、毎年来てるアイツらか」


 そこそこ有名らしいからリグランも知っていた。なら話が早い。


「アイツらの活動に寄付したいんだけど、出来るかな」


「・・・可能だが、良いのか?お前の取り分が無くなるぞ」


 旅費ならトールが持ってる。賞金は無くても大丈夫だ。


「構わない」


 そう言う俺に、リグランは頷きながら答える。


「引き受けた」


 そう言うリグランの顔に少し色が戻る。


「良かった、頼む。じゃっ!」


 俺はそう言い捨てて、逃げるように部屋の外に出た。ノワ、俺、トール、ゴーシュの順に出てきて扉を閉めると、そこでようやくノワを拘束していた手を離す。


「何だよアキラ!一体全体何の真似なの!?」


 ノワは、俺の首元を締め上げて、扉の反対側の壁に押し付けながらそう言った。


 全く分かっていないノワに俺は目眩がした。


 頭を抱えて溜め息を吐きながら、どう説明すべきかを考えながら口を開く。


「・・・王妃付きの『時の子』が居なくなった、って言えば分かるか?」


 俺のその言葉を聞いて、ノワは目を丸くして、驚愕の表情を浮かべて俺の首元から手を離した。


 『NPC』には必ず『時の子』が付く。それは、影響力のある『NPC』を第三者に悪用されない為で、王妃であるエトワールにはポラという名の『時の子』が付いていた。


 そのポラが、エトワールの元を離れていた。


 それが何を意味するのか、ノワには分かるはずだった。


「・・・エト、死ぬの・・・?」


 『NPC』の元を『時の子』が離れる理由。それは、『NPC』を悪用される恐れが無くなったという事で、つまりは『NPC』の死期が近い事を意味する。


「そもそも、王家の子を産むと、その母親は負担に耐え切れずに命を落とすんだろ?」


 俺は、絞められた首元をさすり息を整えながらそう言った。


「それは、そうだけど・・・、女の子だって言ってたんだ。エトのお腹の中にはお姫様がいるんだって・・・。亡くなった母親達が産んだのはみんな男の子で・・・女の子を産んで亡くなった王妃はいないのに・・・」


 泣きそうな声でそう言うノワ。


 そう。今迄の王妃達は、三姉妹神によって選ばれた男(・)子(・)を(・)産(・)む(・)女(・)性(・)だった。だから産まれるのは必ず男子で、女子が生まれる事が無かった。


 男子だから『狂気』を携え母体に負担を掛けるという訳では無く、王家の子はもれなく『狂気』を携えて産まれ、男女に関わらず母体に負担を掛ける。


 これまでは、女子が産まれないように操作されていただけだったのだ。


「その事実を、リグランは知ったばかりなんだ」


 何でそんな事を知ってるのか、なんて事を聞く者はいなかった。


「そんな時に僕は、なんて事を言ってしまったんだ・・・」


 ショックを隠さずにガックリと項垂れるノワ。


 でも、既に言ってしまった事は戻らない。これからどうするか、を考えなくては。


「エトワール妃に、会えるかな?」


 脳をフル回転させて、俺はリグランの心の負担を軽くする方法を考えた。


 軽く頷いて、先に立って歩き出すノワ。


 その後ろを俺とトールと、あと何故かゴーシュも付いて来た。


 死に行く『NPC』、彼女にもまた、心に大きな負担が掛かっている。


 ここを立つ前に俺は、一度会っておきたいと思った。

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