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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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58、計画の全貌

「あの男が、既に婚約していた姉を無理矢理連れ去った。そして孕ませて殺したんだ」


 捕らわれた主犯格の女は、そう自供を始めた。


 一連の事件がどこから始まっていたのかは、語る者によって異なる。が、このサチと言う名の女の自供が1番時間を遡る事になる。


「私はサチ・ネイ。姉のサラはブリエヌ侯の婚約者でした。第1子セシル王子誕生の祝いの席で、突然あの男はサラの手を掴んで連れ去ったのです。


 「お前でいい」そう言って。


 以来サラは城から一歩も出る事を許されず、両親も私も、会う事すら叶いませんでした。勿論ブリエヌ侯もです。


 そして10ヶ月の後、サラの死亡が発表されました。


 第2子リグラン王子の誕生の告知と共に。


 私は、王を許しません。王家の血筋を根絶やしにしてやる事を誓いました。そして、市井で孤児の男子を拾い、城に忍び込んで、第2王子とすり替えてやりました。


 姉を奪った前王から、姉の子を奪ってやったのです。


 奪った姉の子がスレイです。


 私とブリエヌ侯とで共に計画し、行った事です。


 両親はその事を知りません。私が黙って、家を出てからやった事です。2人は関係ありません。


 その後私とブリエヌ侯とで、王家を根絶やしにする方法を考えました。王自身はマジール最強の戦士です。簡単には殺せません。


 そこで目を付けたのはスレイです。


 やはり王家の子です。普(・)通(・)で(・)は(・)あ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)で(・)し(・)た(・)。


 とても残虐で、善悪の判断基準がお(・)か(・)し(・)い(・)。


 そのあまりの異常さに、一時は殺してしまおうかとすら思いましたが、成長するにつれどんどん姉に似てくる容姿と、あとやはり一緒に過ごす時間の所為でしょうか、情が湧いて来てしまい無理でした。


 愛情を注ぐのは簡単でした。姉の子ですから。私に縋ってくるその姿は嘘偽りなく可愛く、愛おしかったです。


 ・・・脱線しました。とにかく、スレイはとても強かった。強くて、人を殺める事に躊躇が全く無い。


 なので、スレイに父親を殺させよう、そう考えました。


 闘技場を作り、話題になって王を招いての観覧試合を。それが叶えばその場でスレイを唆し、王を殺させる。そう計画して、その日の為頑張りました。


 資金を集め、人を雇い、強い剣闘士を育てて。


 20年掛かりました。


 途中、貴族制度の撤廃があり、ブリエヌ侯が反国王派と判断され妨害を受けたり、ガティにエデンを乗っ取られたり。


 エデンから追い出されそうになった時に、転生者であるマルコを雇い入れました。マルコが居なければ、私達はここまで来れなかったでしょう。


 それでも、闘技場の運営権を半分ガティに奪われてしまい、私達には、もう後がなかったのです。


 計画を強行しなくては、そう思っていた時に、彼(・)女(・)が現れました。


 『シュリ』です。


 彼女は『真ん中』で使われている『生体兵器』の使用を勧めました。人を思いのままに操る事の出来る『生体兵器』を安く譲ってくれると言われ、取引に応じました。


 計画はこうでした。


 毎年行われる混合戦に国王を招き、トーナメント終了後のエキシビジョンで優勝者と『生体兵器』とを戦わせ、そこで優勝者を操り国王を殺させる。


 予定ではスレイが優勝して国王を殺させれば大成功。グレイクが優勝した場合でも、国王に続けてスレイを殺させれば、ガティ家が犯罪を犯した事になりブリエヌ家は1人勝ちです。前王が既に病死しているのが惜しいところではありましたが、これで王家は滅びます。


 ですが、中々上手く運びませんでした。


 まず『生体兵器』の密輸に失敗。運び屋が全滅しました。そして、何とか『生体兵器』が手に入ったもののスレイが決勝にも勝ち残れないという想定外の自体。おまけに闘技場内に密輸の調査の為に警察が多く配置され、挙句ブリエヌ侯に捜査の手が届きそうになったのです。


 私達は計画を急ぐ事にしました。優勝者がまだ決していない状態で『生体兵器』を使い、その場にいる最も強い者を操り、国王を殺害しようとしたのです。


 と、ここでまた想定外の事態です。その場にいる最も強い者が、国王その人だったのですから。


 その後は貴方も見た通りです。国王が暴走して、混合戦は滅茶苦茶。


 おまけに逃亡する途中で、まさかあんな事に、スレイがブリエヌ侯を殺してしまうなんて・・・。


 床に空いた穴?それは知りません。我々とは関係のない事です。


 で、国王は死にましたか?


 行方不明?そうですか。では生きているかもしれないのですね。これもまた残念な事です。


 私達の計画は、何一つ上手く行かなかったという事ですね。


 ああ、私達は呪われていたのでしょうか?だとしたら誰に?何故、こんな事になってしまったのでしょう。


 普通に暮らしていただけなのに。


 姉に、何と報告したら良いのか・・・。ああ、いっそ私も殺して下さい。姉に、早く会いたい・・・」


 サチは、一気にそう話して項垂れた。


 調書に全てを漏らさず記載し、顔を上げた所で尋問室の扉が外から叩かれた。返事をすると同僚が歩み寄り、私に耳打ちをする。


「サチ・ネイと話をしたいと言う者が来ています。グレイク様と長官(直属の上官)の許可は既に出ています」


 開けられたままの扉の外側には2人の男が居た。1人は少年、もう1人は20代後半位の背の高い男だった。


「今か?」


 私は驚いて同僚にそう聞いた。それに頷く同僚。


 一度項垂れたままのサチを見て、扉の外を見た。前に立つ少年の方と目が合う。私をじっと見つめるその目は澄んでいて迷いが無い。


 私は同僚に頷き、立ち上がって扉を最大限に開けて2人を室内に招き入れる。2人が中に入るとそのまま扉を閉めて、同僚と2人扉の前に立った。


 少年の方が今迄私の座っていた席に腰掛け、サチと向き合う。もう1人はその傍に立った。


「あの」


 少年がサチに声を掛ける。それを聞いてサチは顔を上げた。少年の顔を見る。


「・・・お前、8枠の・・・」


 サチがそう呟いた。8枠という事は、この少年は混合戦の参加者なのだろうか。


「はい。アキラと言います。あなたと話がしたくて、無理を言って今ここに来ています」


「・・・何よ」


「まず最初に、セシル王についてです」


「行方不明だそうね」


「・・・はい」


「ふん、死んでれば良いのに」


 サチのその言葉を聞いて、少年は少しだけ眉を顰めた。


「セシル王は前王に、自分は後継者にはなれないと言われてたそうです。理由は『狂気』が強過ぎるから。『狂気』については知ってますね?本物の王弟のスレイさんを育てたんだから」


「・・・」


 サチは無言。私は、隣の同僚と顔を合わせてしまった。


 この話は、私達が聞いても良いものなのだろうか。


「武器を持つ、それがトリガー。セシル王は武器を持つと、それまでの代々の王達よりも格段に強い『狂気』を発症した。抑えが効かず、目に付く生き物を全て殺したそうです。


 マジールの王は最強の戦士でなければならない。けど、戦場において敵味方の区別無く皆殺しにするような者は王には出来なかった。それは、セシル王が産まれてすぐに分かっていて、もう1人、別の子供が必要になった前王は、第2王妃としてあなたの姉に白羽の矢を立てた。


 『狂気』を持つ子供を産むのは母体に大きな負担が掛かる。出産は命懸け。大概母親は出産と共に命を失う。でも、無理矢理産ませるんじゃ無い。セシル王の母親もそうだったけど、ちゃんと王妃として迎える前に本人の了承を得て・・・」


「そんな訳があるものか!無理矢理連れて行かれた!」


 サチが机を強く叩いて立ち上がって言った。少年、アキラは荒ぶるサチを真っ向から見詰めて言う。


「それはサラさんが、自分が了承したと家族や婚約者に知られたら間違い無く止められるから、泣きながら説得されて断れなくなるから、そうしてくれと頼んだんだ」


「そう説明しろと、王家に頼まれたのか?」


 元々気の強そうな顔立ちのサチの目が吊り上がる。怒り心頭、今にもアキラに掴み掛かりそうだった。


「違う。思い出してみて欲しい。連れて行かれる前のサラさんの様子に、いつもと違う所が無かったか」


 アキラのその言葉を聞き、サチは暫く考え込んだ。そして固まって、ストンと椅子に腰を落とした。


 どうやら思い当たる節があったらしい。


「前王も、その前の王も、後継者問題にはとても胸を痛めていたよ。子供と引き換えに女が必ず1人死ぬんだ。けど止める訳にも行かない。止めたらそれまでの代々の犠牲が無駄になる。だったらせめて無理強いの無いように、納得して子を産んでくれる女性をと、必死で探していたんだよ」


「・・・それが、姉だったと・・・?」


 そう言いながら、サチは目を潤ませた。


「サラさんは強い女性だった。自分が役に立てるのならと国の為に城に来てくれたんだ」


「知らない・・・、そんなの、聞いてない・・・。だから私は、私達は・・・」


 サチの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「セシル王もこの事には苦しんでいた。そして、自分の代でこれを止めようとしていたんだ。その為の第1歩が貴族制度の撤廃で、今後は転生者達の元いた世界の、日本の在り方を手本に資本主義主体の民主制へと変えて行こうとしていたんだよ。つまり、王制自体も無くそうとしていたんだ。


 サチさん、分かるかな?セシル王もあなたも、犠牲を強いる国の在り方は間違っていると思っていて、それを変えようとしていたんだよ。


 俺は部外者だし、まだ子供で世の中の事は分かってないけど、あなたとセシル王、どちらのやり方が正しかったかと聞かれたら、セシル王が正しかったと言えるよ」


 アキラの言葉に、サチは何も言えないでいた。目から流れる涙は止まる事なく、ただ机の上にぽたぽたと流れ落ち続けていた。


「大切なお姉さんを奪われた。何の説明も無く、辛く悲しい思いをしたのは、本当に不幸な事だと思う。


 でも、やられたからやり返すってそれは、その時に気持ちが晴れるだけで、実は何の解決にもなっていないんじゃ無いの?


 何が正解だったかなんて分からない。けど、あなたのやり方は間違ってた。子供をすり替える、なんて絶対やっちゃいけない事だ。


 スレイとグレっ、リグラン、これからどうなると思う?入れ替わった事で降り掛かった不遇や苦痛は100%あなたの所為だよ。あなたはこれから罪に向き合って、2人に対して生涯償わなくちゃならない。2人だけじゃない。マジールの王を失ったこの国の国民全員にもだ」


 そこまで言うと、アキラは静かに立ち上がって、扉の、私達の方を向いた。目が合うと会釈をしてくる。


 私も礼を返して扉を開けた。


「・・・申し訳、ありませんでした・・・!」


 涙を流しながらサチが言った。


 アキラは、私の横を通る時に「手間だけど、もう一回話聞いてあげてくれるかな?」と言った。


 私は、アキラに向かって了承の意味を込めて敬礼をしたのだった。

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