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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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42/51

42、手配書

 観客達から大きな拍手が湧き上がる。それを浴びながら注目を一身に集めるのは、会場の1番高い位置にあるVIP席。先日はカミュとエリスが座っていたその場所に、今日は違うゲストが招かれていた。


 奥の扉が開かれるのが見えると、ファンファーレが鳴り響き、観客からの拍手が大きくなる。そして現れる2人。先に現れたのは男。男は後から来た腹部の大きな女性を優しくエスコートして、並んで観客達に向かい笑顔を見せて挨拶の為に片手を上げた。


 それを見て、観客達が声を上げる。


「国王陛下、万歳!」


「王妃殿下、万歳!」


 闘技場中の観客達の万歳の手の動きが波のように見える。まるでウェーブ。


「すごい歓迎っぷりだねー」


 俺の横で、感心したようにノワが言った。


 天覧試合、と言うのだろうか。今日の混合戦の決勝戦で、セシル王とエトワール妃が観戦しに来ると言う事は、昨日個別に呼ばれた時に説明を受けていた。


 エデン・シティが、セシル王の政策『身分制度の撤廃』の象徴のような場所であり、その中心的存在である闘技場の一大イベントという事もあって、毎年のように国の重要人物が混合戦に招かれているそうだ。で、今年は2人が招かれた、と。


「エトワール妃!」


 側の観客が、王妃の名を呼ぶ。


 観客の殆どが元平民だと言う事は見れば分かる。彼等を解放した国王とその妃。どちらかと言うと妃の方が人気が高いのは、その美しさの所為なのかも知れない。


 俺は、グレイクの記憶の中で見たエトワールを思い出す。その若い日の美しさをそのままに、時を重ねて大人びた笑みを浮かべるエトワール妃は、大きな腹部も合間って『平和の象徴』のように見えた。


「あっ」


 エトワール妃を見ていると、反対側でトールが声を漏らした。


「ん?」


「どした?」


 何かと思い、俺とノワがそう言いながらトールを見た。


 トールはVIP席を見上げており、その視線を追ってもう一度俺も見上げてみると、その先にはセシル王とエトワール妃の背後に控える護衛の兵が3人。そのうちの1人がこちらを見ていて、そして「ブッ!」と吹き出したように見えた。


「吹いたか?」


 俺がそう言うと、


「吹いたね」


 とノワが言う。


 そのまま見ていると、その兵は姿勢を低くしてセシル王の下に寄り、何かを耳打ちして、再びトールを見てから扉を開けて外に出て行った。


「トールの知り合い?」


 ノワが聞いた。


「知り合いと言いますか、以前マジール王国に来た際に少し・・・。お互いに顔を覚える程度の仲です」


 ザックリとそう説明するトール。


「知り合いかどうかはどっちでも良いけど、今の感じだとさ」


「バレたっぽい?」


 俺の言葉に、ノワがそう続けた。


 俺は、今朝の事を思い出す。


 気絶して(()()()()()では無い。正確には気絶()()()()()のだが)寝て、起きて早々にグレイクが部屋を訪ねて来た。そして、俺達に一枚の紙を差し示して来たのだった。


 その紙に描かれていたのは、俺とトールとノワ、3人の似顔絵と『指名手配』の文字。発行元は『真ん中』の王家で、案の定セーライ神殿での騒動の犯人として俺達を探していると書かれていた。


「昨夜、このビラが我がガティ家と闘技場に届いた。恐らく、同じタイミングで王家や警察各部署にも同じ物が届いている事だろう。だが、混合戦の最中、出場者とその関係者の身柄は保証される。犯罪者でも何でも、強い者が参加して勝ち抜くのがこの大会の醍醐味だ。だから大会の開催中は身柄を確保される事は無いと約束しよう」


 グレイクはそう言い、続けて言った。


「賭けの倍率の話をしよう。1番人気は私だ。続けてスレイという名の剣魔士、その次が昨日の予選の様子を見た者達の間で騒がれている第1グループからの勝者だ。ほぼ戦わずに出場を決めたお前は大穴扱いになっている」


 続けられたその言葉に、そりゃそうだろうと思う。


「そこにこのビラだ。恐らく、予想屋連中が今頃これを掲げて予想合戦を繰り広げているだろう。『大穴は実はデカい事件を起こして来た犯罪者』『大量殺人犯、人を殺る事に何の躊躇も無い極悪非道』とかそんなところか」


「なんかやだなー」


 ノワが天井を見上げてそう呟いた。


「そのお陰で倍率が多少動くだろうが、今はそれはいい。問題は混合戦終了後だ。お前達に掛けられた懸賞金、それがそこそこ良い金額だ。どうなるか分かるか?」


 予想屋によって周知された指名手配の情報。それなりの懸賞金。


「混合戦が終わった途端に、アキラモテモテになるんじゃない?」


 ノワが引き攣った顔で言う。けど、モテモテになるのは俺だけじゃ無いだろう。チラシには俺達3人の顔と特徴が書かれているのだから。


 そう思っているところにトールが言う。


「我々をどうするつもりですか?」


 トールは無表情。感情を相手に読み取らせない為の、これはトールの仕事モード。多分トールは、ガティ家が俺達を捕らえて『真ん中』に引き渡すんじゃ無いか?と疑っているのだろう。


「ガティ家と闘技場は、出場者と関係者には手を出さん。もし、大会終了後にお前達を捕らえて差し出したと言う事が、世間に広まったらどうなると思う?今後、お尋ね者だが才能のある奴等が来なくなってしまうだろう?我々は、たかが懸賞金の為に未来のチャンスを棒に振ったりはしない。帰り道に気を付けろ。それだけだ」




 そんなやり取りがあった。だから、取り敢えず混合戦開催中は捕まったりとかは無い筈だった。ただし、終わったら上手い事逃げ出さなくてはならなそうだが。


 両陛下が席に着くと、出場者の組み合わせが発表された。8人のトーナメント戦。


 1枠、一般予選第1グループ勝者、レーナ。


 トールをいきなり負かしたという噂の出場者は、なんと綺麗な女の人だった。色白のスラっとした長身の女性で、長い黒髪を高い位置でポニーテールにまとめている。武器は一見槍のようだが、その先端の刃は湾曲していて、外側だけが鋭く磨がれている。どちらかと言うと薙刀に近い。予選と違い本戦では刃は殺してあると言う話だが、そうだとしてもギラリと光るその刃先を見ると、どうしても背筋が寒くなってしまう。


 2枠、剣人士、火竜サルー。


 俺達が初めて闘技場に来た日に、グレイクと戦っていた剣人士だ。


 この2人が最初に戦う事になる。


 トールを負かした相手。俺は、彼女がどんな戦いをするのかが気になっていた。


 3枠、剣魔士、神速の貴公子スレイ。


 スピード系の剣魔士だと言う話だ。グレイクの話だと2番人気で、予選の時に戦ったブラドみたいにトレーナーが居て、そいつが戦いの流れを読むのが上手く指示が的確で中々強いらしい。武器は細長い剣。サーベルと言うらしい。


 4枠、剣人士、岩巨人ワッツ。


 パワー系剣人士、身長2メートルを超える馬鹿力の巨人。武器は巨大なハンマーだ。


 5枠、死神グレイク。


 本性はマジール王国の王弟リグラン・ド・マジール。かつては国を背負って立っていた軍のトップだ。弱い訳が無い。武器はスレイと同じくサーベル。


 6枠、剣魔士、聖剣士ツタ。


 肉団子みたいな身体つきの大男で、見るからにパワー系。武器は両手剣。


 7枠、剣魔士、唐草のゴーラン。


 ヒョロっとした色黒の男で、ボーズ頭で全身変な刺青を入れている。武器は鞭。刃は元々無い武器だから、当たると普通にダメージ喰らって痛そうだ。


 そして、8枠が俺。一応肩書も昨日説明してくれた係の人と一緒に決めた。


 一般参加者も『死神』とか『火竜』とか、付ける人が多いと聞いたから決めたのだが、レーナさんが付けいない事を俺はこの時知って、頑張って決めた自分がちょっと恥ずかしくなった。


 決めた肩書は、


 『召還戦士』。


 異世界から召還されたから、分かりやすいかと思ったんだ。


 会場に並んだ参加者達の紹介が終わると、両陛下の座るVIP席の向かい側の席がライトアップされた。


 大きな椅子が一つ。後ろの扉が開くと、そこから真っ赤なドレスを身に纏ったエリスが現れる。身体のラインにピッタリ沿ったマーメイドラインのドレス。タイトなスカート部の中央には深いスリットが入っていて、歩く度に白い太ももが覗いてドキッとする。胸元も深く開いていて、とにかく露出が多い。


 観客席から「おお」という低い響めきが起こる。


 エリス、俺は君を守れるだろうか・・・。

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