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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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41/51

41、本戦へ

 白煙さえ無ければ、ゴーグルスカーフ達は大した事無かった。俺達4人がそれぞれ1人ずつ締め上げて、そこにいた警察に引き渡して終了。警察達は、しっかりと取り調べをする事を約束してくれた。


 被害はというと、第4グループの予選第2回戦、2戦が中断された事と、観客の一部に軽傷と、周囲の備品の損壊、そして最も大きな被害が、中断されたその2戦の参加者4人中2人の死亡と、1人が重症を負わされた事だった。


 俺が戦っていたリングの隣で試合をしていた2人は、ザックリと腹部を斬られて出血多量で即死。俺の相手のブラドはと言うと、あれだけ出血があったというのに一命を取り留めていた。何という生命力だろうか。


「つまり、アキラは不戦勝で次に進めるって事?」


 ノワにそう聞かれて、俺は頷いた。第4グループの予選第1回戦を勝ち抜いた4人の内、無事なのは俺1人しかいないのだ。必然的にそうなる。なんだかんだで、もう一勝すれば俺は本戦出場だった。


「何つーか、複雑だわな」


 ゴーシュが後頭部で腕を組みながらそう言う。同感だ。


「過去にも似たような事が何度かあったしな。大金が掛かるとたかが外れるんだろうよ」


 ノワの腕の中でジャッキーがそう言った。


「過去にも?」


 疑問に思い俺がそう聞くと、ジャッキーはそれに頷いて言う。


「次の対戦相手の息が掛かった家とかがやるんだ。みんな自分が儲ける為に、勝たせたい奴がいるのさ」


「やだねー、お金の為に人を殺しちゃうなんて」


「金は人を変えるのさ」


 ノワの言葉を聞いてゴーシュがそう言った時だった。今いる待合室の扉をノックする音が響いたのだ。


 事件についてあーだこうだと話をしていた俺達は、何だろうと顔を見合わせる。


 トールが立ち上がって扉を開けて、ノックをした者から要件を聞いた。小声だったので中にいる俺達には何を話しているのか聞こえなかったが、戻って来たトールがすぐに内容を教えてくれる。


 それを聞いて、俺は驚いた。


「警察の方が、調査の途中経過を報告しに来て下さいました。先程の4人組は暗殺を生業とする者達だったようで、その雇主が第2グループの最終勝者だった事が判明したそうです。それ故その人は失格処分となり、次の対戦相手だったアキラの本戦出場が決定した、と」


「へっ!?」


 ビックリして俺は変な声を出してしまった。そんな横でジャッキーが「ほらな」と呟く。


「うわー、またまた不戦勝。やったねおめでとう」


 ちょっと引き気味でノワがそう言い、ゴーシュはやけに間隔の広い拍手で俺を祝ってくれた。


 俺は、引き攣った顔で「ありがとう」と言い、そしてトールに聞いた。


「言われたのはそれだけ?俺的には、アイツ等が付けてたゴーグルが気になってたんだけど」


 サーモグラフィー内蔵の小型ディスプレイみたいに見えた。そんな科学的な代物がこの世界に存在しているという事が俺には信じられなかったのだ。


「それなら没収してウチの者達が調査中だ。恐らくどこかの転生者から吸い上げた知識で拵えた物だろう。出所を突き止めて製作者を保護する」


 開いたままになっていた扉から、いつの間に来たのかグレイクが顔を覗かせてそう言った。


「そうか・・・」


 呟きながら、俺は良かったと思った。ごく一部の者のみで新しい技術を独占すると言う事が、まだ未発達なこの世界ではとても危険な事のように思えたからだ。


 それはきっと、戦争等の大きな戦いの勝敗を、簡単に左右しかねないだろう。


 グレイクは俺を見て、口元に苦笑いを浮かべながら言った。


「アキラ、本戦出場決定おめでとう。お前は8枠に決まった。5枠の私とは2回戦目に当たる予定だ。初戦で負けるなよ」


 告げられて、俺は背筋が伸びる。


 あまり喜べる本戦進出では無いけれども、勝ち進んだからには全力で挑みたいと思った。


「もう出る順番まで決まってるの?早いなぁ」


 ノワが楽しそうに飛び上がって、グレイクに近寄りながらそう言った。


「ああ。それから、出場者はこのまま闘技場内で明日の本戦まで一夜を過ごす。不正防止の為だ。付き添いで何人か一緒に泊まれるが、その者達は明日の試合に賭ける事は出来ない。賭けたい奴は出て行け。残る者は個別に説明を受けろ」


 それを聞いて俺は、頷いて他のみんなを見た。トールとノワは俺と一緒に残るだろうが、ゴーシュとジャッキーはどうするのだろうか。


「アキラ」


 呼ばれてグレイクの顔を見る。


「まずお前からだ。来い」


 言って身を翻すグレイク。「ああ」と返事をして立ち上がって後に続くと、何故か全員が俺の後ろを付いて来た。そのまま通路をゾロゾロと進む。


「何でみんな来るの?」


 後ろに向かってそう聞くと、「護衛ですから」とトールが答え、「気になるからさぁ」とノワが言った。


 この2人が一緒に来るのは分かるが、ゴーシュとジャッキーは別に付き合う必要は無い。


「だって、みんな行っちゃうじゃん?」


 と、ゴーシュが言った時だった。俺の目に反対側からこちらに向かって歩いて来る男が映った。


 ボサボサの伸び放題の髪に年季の入った髭。どこかで見た事があるような、酷い猫背の浮浪者のようなオッサンだった。


 こちらに気付いてオッサンは顔を上げた。半開きのカサカサの唇から見える歯は何本か抜け落ちていて、伸び過ぎた前髪の間から覗く細い目が俺を見る。その瞳孔に、俺は目を引きつけられた。


 横一本の、線みたいな瞳孔・・・。


「すまない、俺は行くぜ。明日はたっぷり稼がせて貰う予定だからな」


 俺がオッサンの目を見ていると、ジャッキーがそう言ってノワの腕の中からぴょんと飛び降りた。


「えっ、ジャッキー行っちゃうの?一緒に寝れないの?」


 ノワがショックを受けた顔をする。


「悪いな、どうしても新しい竿が欲しいんだ」


 と、暗に賭ける事を伝えながらくるりと反対を向いて、後ろ手で手を振りながら行ってしまう。


「なら俺も行くわ。ここまで来てメインイベントに賭けないで、指咥えて見てるだけなんてつまんないからな」


 ゴーシュもそう言って、ジャッキーに続いて行ってしまう。最後に「アキラ、頑張れよ」と言い残して。


 2人を見送り、振り返った時には、もう猫背のオッサンはいなくなっていた。




 借りたオペラグラスを見詰めた。


 正直、こんな物無くても、どこまでも見える。私の目は人間よりもずっと遠くまで見る事が出来るのだから。


 でも昨日、闘技場でこれを覗いて、私は感動した。


 見たい物()()が見えるのだ。周りは隠されて、()()だけをハッキリと見る事が出来る。


 酒場で計画的に出会った()闘技場の支配者、カミュと言う名の男に付いて貴賓席から見た。


 試合なんかでは無くて、()を。


 周囲の観客達に紛れて、押され潰されそうになる()をずっと見ていた。真剣に試合を見る()、興奮した後ろの客に背中を殴られ、降って来る花や贈り物の雨から身を守る()


 ()の全てから目が離せなかった。


 隣からしきりにカミュが話しかけて来たが、()を見るのに忙しくて、適当に相槌を打ってほとんど聞いていなかった。


 気付けば私は、明日の混合戦の景品になっていたのだ。


 でも、


 それを知って驚き目を丸くする私を、()が見ていた。私を抱き寄せるカミュの手に、()が嫉妬していた。


 それが、嬉しかった。


 ()が私を見てくれるなら、景品になるくらいどうって事無い。


 日を改めて今日は、一般参加者の予選を行っていた。()もそれに出場している筈で、私は、ひと目見ようと予選会場を回った。


 今日もまた、このオペラグラスを使って()だけを見たかったから。


 けど、Aの部屋、Bの部屋と周り探しても()はいなかった。ではCの部屋に違いない、と向かい始めたところで事件が起きた。何者かが白煙を焚いて、予選を中断させたのだ。


 危険だから、と避難させられて、私は小部屋でしばらく待機させられた。事態が落ち着くと予選は全て終了してしまっていて、()を見付ける事は残念ながら出来なかった。けれども、本戦への出場が決定した者の名を、いち早く教えて貰う事が出来たのだ。


 2人いる参加者、そのうちの1人が()だった。


 それを知って、私の胸は高鳴った。


 ()は、景品としての私を欲しているのかも知れない。もしかすれば、明日、私は景品として()に与えられるのかも知れない。


 そう思うと、目が回って気を失いそうな程に嬉しかった。


「今夜はこちらでおやすみ下さい」


 私を案内してくれたカミュの部下が、幾つも並ぶ扉のひとつの前で止まってそう言った。鍵穴に鍵を差し込んで、扉を開けて私に中を示してくれる。


 私は手の中にあるオペラグラスを見て、もう一度胸の高鳴りを感じた。そしてカミュの部下に向かってありがとうと言い、中に入ろうとした、のだが・・・。


「エリス・・・?」


 名を呼ばれて心臓が止まるかと思った。


 その声、気配。


 明日またオペラグラスで覗き込みたいと願っていた、()の声。


 振り向き、そちらを見る。と、いた・・・。


 今日一日、ずっと見たいと望んでいた人。


「アキラ・・・」


 彼を見て私が名を呼ぶと、知り合いだと分かったのだろう。カミュの部下は一礼してその場から去って行った。


 入れ替わるように彼、アキラが私の元へと駆け寄って来る。


 すぐ目の前で立ち止まると、アキラは私を見下ろした。この短期間で、少し背が伸びたみたいだ。


 すぐ側にいる彼から、体の熱が伝わってくる。駆けて来た所為か少し息が荒い。けど、その息をすら浴びたいと思ってしまう。


 もっと側に、もっと近くに。


 さっきまでは、ただ『見たい』と思っていただけのはずなのに、いざ目の前に現れると欲が増す。


 アキラは何も言わなかった。ただただ私を見詰めて息をする。


 私は、首を傾げてアキラが何かを言うのを待った。すると、アキラが口を開く。


「あのっ、エリス・・・」


 もう一度名を呼んで、そして俯き、黙ってしまうアキラ。


 私は、アキラに見て欲しくて、アキラの顔を下から覗き込んだ。


 と、顔を上げてアキラはもう一度口を開いた。


「あのさっ、この前、ありがとう」


「この前?」


 礼を言われたが、何の事だか分からない。


「ほら、セーライ神殿でさ、俺が冥府に落ちそうになった時助けてくれたろ?」


 言われて思い出す。そう言えばそんな事もあった。


 逃げて行くアラベルを捕らえようとして、一緒に冥府に落ちて行きそうになった所を救い上げたのだ。


「ずっと、お礼が言いたかったんだ」


 気にしなくて良いのに。そう思いながら私は笑った。


「えっとさ、その、あれってどうやったの?」


 笑った私を見て少し固まって、それからアキラは周囲に少し目を泳がせながらそんな事を聞く。


「どうって?」


 首を傾げながら私は聞き返した。


「だって、すごい速さの流れだったじゃん?なのに、エリスは全く動じてないって言うかさ・・・」


 言いながらアキラは、私に向かって一歩踏み出して来た。その足を見ながら、私は思わず一歩下がってしまう。


 部屋の中に一歩入ると、私を追ってアキラも一歩入る。


「アキラ?」


 何故部屋に入って来るのかが分からなくて、疑問形でアキラの名を呼んだ。


 それでもアキラは止まらなくて、一歩、また一歩と進んで来る。


 後ずさる私と、追い詰めるアキラ。


 とうとう壁際まで追い詰められてしまうと、アキラはその追い詰めた壁に手を付いて、腕の檻に私を閉じ込める。そして言った。


「俺、エリスの事を、知りたい」


 そのまま目を閉じて、私に顔を近づけて来る。


 えっ、待って!


 アキラの事を見ていたいと思った。息が掛かるほど近付きたいと思ったし、その息を浴びたいとも思った。けれども、アキラの方からこんな風に迫って来るとは思っていなかった。私は驚き、そのまま固まって動けなくなってしまう。


 このままじゃ、私、アキラとキスを・・・。


 固まりつつも、どちらかと言うとキスしたいと思っている私は、そのまま目を閉じて、そっと唇を差し出してしまった・・・。


 そのまま止まって、アキラの唇を待つ。


 胸の高鳴りが最高調になる。こんなにときめくのは何年振りだろうか。まるで少女に戻ったみたいだった。


 が、


 待てども唇は重ならず、アキラの背の後方、開けたままの扉の向こうから激しく駆け込んで来る足音が響いて来るのが聞こえた。


 何?


 そう思って目を開けた瞬間、すぐ側でゴンッという鈍い音が聞こえた。目の前にいた筈のアキラが足元に崩れ落ちて行くのが見える。


 顔を上げると、そこには2人。ずっとアキラの側にいたミコトの子と、元近衛騎士の男が肩で息をしながら立っていた。2人共この世の終わりとでも言うような顔でアキラの事を睨み付けて、ミコトの子の方が元近衛騎士の物であろう剣を鞘ごと握って構えている。どうやらこれでアキラの後頭部を殴ったらしい。


「アキラ、ちょっと暴走し過ぎだよ・・・」


 ミコトの子がそう呟いて、続けて元近衛騎士がキッと顔を上げて私に向かって言う。


「あのっ、アキラに手を出さないで頂きたい!」


 それを聞いて、私は再び固まってしまう。ちょっと理解が追いつかない。


 私、まだ手を出してないわ。


「トール、流石に無理があるって」


 ミコトの子がそう言って、元近衛騎士の肩に手を置く。


「とりあえず、アキラ回収するね。ゴメイワクヲカケシマシタ」


 思ってもいない事がバレバレな声のトーンでそう言うと、ミコトの子は元近衛騎士にアキラを担ぐように指示を出し、「悪いけど部屋まで持ってって」と言いながら担がれたアキラの尻を叩く。


 そのまま、2人は私と目を合わせる事も無く部屋から出て行った。


 扉を開け放ったままで・・・。

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