表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/51

40、ブラド

「良いか?あんなチビお前の敵じゃ無い。突っ込んで潰してやれ」


 兄ちゃんがそう言う。聞きながらオレは前を見た。ヒョロっとしたチビがいる。高そうな服を着て、細っこい剣を持っている。


 弱そうだ。


 そう思ってオレは気合いを入れて鼻からデカい息を吐いた。


 開始の合図と共に、兄ちゃんが「行け!」と言う。


 よし、潰してやる!


 ・・・そう思ったのに・・・。


 当たらない。攻撃が全く当たらない。


 弱そうなのに、チビなのに。


 オレが遅いのか?いや、いつも通りだ。では何で当たらない?チビの方がオレより早いのか?


 チビが抜刀した。細っこい剣を一瞬構えて視界から消える。


 どこ行った・・・?


 そう思った瞬間、首裏にガツンと衝撃が来た。


 いっ、痛てぇー!!!!!


 あまりの痛さに涙が出そうになった。でも耐える。泣いたら兄ちゃんが心配する。


 我慢してチビを探していると、ケツに痛みが走った。


 蹴られた!痛ぇ!


 前につんのめりそうになるのをめいいっぱい耐えた。何歩か普通を装って歩いて誤魔化し、蹴られた勢いを殺して振り返る。チビが離れた所に立ってた。


「良いぞ、押してる。そのまま行け!」


 兄ちゃんが言った。


 そうか、オレ、押してるのか!踊らされてるような気がしたけど、兄ちゃんがそう言うなら押してるに違いない。


 そう思うと、オレは気合いを入れてチビに向かって走った。


 オレの剣は切れる。大剣使いは力任せに殴るように斬り付ける奴が多いが、オレはこのデカい相棒を丁寧に使う。相手の体を捌くみたいに滑らせるんだ。そうすると血がいっぱい出る。首とか脇とか腿の付け根とか斬ると、派手に噴き出てくる。それが()()らしい。派手に噴き出るほど兄ちゃんが喜ぶ。


 オレはチビの首を狙った。今までの攻撃は当たらなかった。だからオレは、これまで使わなかった()()()()()を使う事にした。


 大剣の脇に仕込んだ秘密の針だ。


 相手を斬る瞬間に持ち手の金具を押す。すると横から針が出て来て、狙った場所より離れた場所を刺し斬る。これならそう簡単には逃げられない筈だ。


 チビに向かって走り込んで大剣を伸ばす。瞬間、金具を押した。


 大量の血が噴き出す・・・筈だった。が・・・。


 チビは避けたらしい。片側の頬を掠っただけだったらしい。流れた血はほんの少し。


 それじゃ、足りないだろ・・・!


 オレは、怒りに任せて駆け出した。


 クソッ、今度こそ!


 体当たりして転ばせて刺し殺してやる!


 チビが近くなる。3m、1m、30cm・・・。


 間近になった所でチビが消えた。


 またか!チキショウ!どこだ!?


 チビを探そうと思ったその時、ふくらはぎの裏側に激痛が走る。


 痛てぇぇぇぇぇ!!!!!


 あまりの痛さに座り込みそうになる。けど、そんな事したら兄ちゃんが、と思うと耐えられた。


 痛く無い、痛く無い!


 そう自分に言い聞かせて、痛く無い事にする。


 チビは俺を見て剣を構えて、特大の溜め息を吐いた。


 な、何だその溜め息は!?


 オレは苛立って、もう一度仕込針をお見舞いする。さっきと同じチビの首を狙う。さっきよりも速く。が・・・、今度は頬にすら届かず、なびく髪をほんの何本か斬り落としただけだった。


 クソッ!なんなんだよ!


 苛立ちは増し、俺は更にもう一度仕込針をお見舞いする。もっと速く、もっと強く。


 が、3度目の仕込針攻撃の時、信じられない事が起こった。


 折られたのだ。


 オレの仕込針は、チビに完全に見抜かれたのだ。金具を押した瞬間、ポキッという音がしたと思うと、もうチビの手の中に折られた針があった。


 オレは呆気に取られてポカンと口を開けてしまった。オレの前で、チビはその針を観客の方に投げた。


「わっ、えっ、ナニ?痛っ・・・、なんか切れたんだけど!」


 真っ黒のフードとマントで顔が見えないチビがそれを受け取り、手を切ったらしかった。


「ノワ様、大丈夫ですか?」


 横のノッポがそう言いながら怪我をしたであろう手に布を巻いていく。


「大丈夫じゃない!こらアキラ!危ないじゃないか!遊んでないで真面目にやれ!」


「アキラ、こちらは気にせずに」


 黒マントのチビとノッポのやり取りに、横の男が混ざる。


「でもよ、相手に怪我させないようにとか余計なこと考えてるとやられるぜ?コレに出場してる奴等はみんな覚悟決めてんだから気にせずに()っていい・・・」


「ダメだよ!ダメダメ、殺したりしたら僕怒るよ!」


「うっさい!外野は黙ってろ!」


 こちらに向かって叫んでくる黒マントのチビに、キレて叫ぶチビ。その、オレを無視したようなやり取りに、オレは腹が立った。


「お前ら、舐めてん・・・」


 舐めてんのか!?


 そう言おうとした時だった。リングの上に何かが投げ込まれたのだ。球状のそれは綺麗な弧を描いてリングの中央に落下し、そこで爆破した。


「!」


 観客もオレも、目の前のチビも、兄ちゃんもみんなビックリした顔を浮かべたかと思うと、次の瞬間には白い煙に包まれて何も見えなくなってしまった。


「に、兄ちゃん!どこ?どこにいるの?兄ちゃんが見えないよ!」


 オレがそう言った時、少し離れた場所でも同じ爆破が起こったらしく、破裂音が響いた。こちらのリングで予選が始まってしばらくしてから、隣のリングでも並行して予選が始まっていた。そのリングの上で起こったのかも知れない。


 審判も観客も、みんな騒ぎ出した。悲鳴、喧騒、足音。見えないから恐怖が増す。


 煙は目に滲みた。とても目を開けていられず瞑るが、それでも滲みて涙が流れ出た。


「ブラド、気を付けろ!何か変だ!」


 兄ちゃんの声が聞こえた。斜め後ろの方。


「兄ちゃん!」


 オレは、兄ちゃんに呼び掛けながら、声のする方へと歩き出した。と、次の瞬間、背中に痛みが走った。斜めに真っ直ぐ痛くなったかと思うと、痛い場所が熱くなっていく。


「ぐあ!」


 その場に膝を付いて前に顔から倒れ込んだ。鉄の臭いが広がって行く。息がし辛くなって、どんどん寒くなっていった。


 そして、真っ暗になった。




 入り口の方から何かが放り込まれたのが視界の端に見えた。


 何だ?と思った時には、それがリングの上に飛んで来ていた。


 その数2つ。


 俺がいるリングと、こちらに少し遅れて予選の始まった隣のリングの上。


 どうするか悩んでいたら、周囲が一緒で白煙に覆われて見えなくなってしまった。


「何だ・・・?」


 呟きながら、俺は出て来る涙を拭った。その白煙の所為だろう、えらく滲みる。


 すぐ前では、ブラドが兄を探しているのが分かる。


「アキラ、大丈夫ですか?」


 トールの声がリングの外から聞こえてきた。その声は少し緊張していて、今すぐにでもロープを乗り越えて俺の側に駆け付けて来そうだった。けど、


 まだ、試合は終わっていない筈だ。


 そう思って、俺は「俺は大丈夫、問題無い。トール達はリングの下から何が起こってるのか確認してくれ」と言って緊張を強めた。


 何かが起こっている・・・。


 視界が奪われたが、どこに何があるか、誰がいるかは気配で分かった。慌てふためく観客達の足音、ぶつかり合う喧騒。ガシャンという何かが壊れる音、叫び声、泣き声。


 そんな中、迷い無く真っ直ぐに素早く移動する空気の流れを感じた。その数4つ。2つあるリングにそれぞれ2つずつが向かう。


 人だ、と気付いたのは、その流れが俺のすぐ側に来た時だった。それはロープを乗り越えてリングに降り立ち、流れるような滑らかな動きでやって来た。そして、抜刀する。


 俺は、その剣を受けた。白煙の中、剣と剣がぶつかり合う音が響いて火花が散る。一瞬、相手の顔が見える。


 俺は、驚き息を呑んだ。


 黒いゴーグルとスカーフで口元を隠した、明らかに怪しい相貌。それにも驚くがそこじゃない。ゴーグルのレンズの部分に赤い文字みたいなのが流れて行くのが見えたんだ。


 よく見ればそれが鏡写しみたいに左右逆になった数字だと分かる。その数字の流れと、中央部に人のシルエットみたいなのが見える。赤、緑、オレンジ、そんな色味のグラデーションは、俺の形。


 サーモグラフィーの小型ディスプレイ・・・みたいじゃないか・・・?


 何でそんな物がこの世界に存在するんだろう。いや、今はそれどころじゃ無い。


 混乱しながらも、俺はそいつの剣を押し返して距離を取った。その時、背後からブラドの声が響いた。


「ぐあ!」


 それと同時にシュルッという、何かを切り裂く音が響いて、続けてシャーッと勢い良く水を撒き散らすみたいな音がした。ドシンッと重たい物が倒れ込んだ気配と、リング全体が揺れる。


 ブラドが斬られて倒れたんだ。


 そう分かった瞬間、俺は、対峙するゴーグルスカーフ野郎(多分男だ)の剣を叩き落として、首に腕を掛けて捕らえて締め上げる。そして、天井に向かって叫んだ。


「おい!いるんだろう?鳥!」


 呼び掛けると羽音がして、何枚か羽根が降って来た。


「2度と呼ぶなと言ったであろう」


 耳元で声が響いた。肩に鉤爪が食い込む感触。見なくても分かる。そこに何者がいるのか。


 左右の翼を真っ直ぐ一直線に開いた、大きな茶色い猛禽類。鋭い鉤爪を俺の肩に置いて掴まり、その鉤爪の様に曲がった嘴を俺の耳元で開いて言う。


「2度と手は貸さぬぞ」


 ナバラで俺に、『過去』と『未来』を操る術を教えてくれた鳥だ。あの時は、何故そんな事が出来るのか、この鳥が何者なのか、全てが分からなかった。けれども、今なら少し分かる。


 『時』の流れを操る。それは『時の尊』に関わる力だ。その使い方を、この鳥は知っている。


 『時の尊』はもうこの世界には居ない。冥府に堕ちたからだ。


 では、この鳥の力は、何に由来するのか?


 可能性として浮かび上がるのは2人。『時の尊』と『聖母』との間に産まれた『ドウラ』と『ドニ』。


 だけど『ドニ』さんは今、ナバラの神『テラ』の呪いで石になっている。


 ならば答えは一つ。


 この鳥は、『ドウラ』の使いだ。


 きっと、『ドウラ』神の命を受けて、異世界人である俺を見張っているのだ。


「でも、呼んだら来てくれるのな」


 鳥を見ずに俺はそう言った。すると、鳥は(どうやってか)舌打ちをして言う。


()()()()からな」


 機嫌が悪そうだ。そんな鳥に、俺は苦笑いをしながら言った。


「『手』じゃ無ければ貸してくれるんだな。何、大した事じゃ無い。特別な『力』は使わせないよ。たださ、その()()()翼でこの白煙を吹き飛ばしてくれないか?」


「・・・」


 それを聞くと鳥は少し無言になり、小声で何か呟いてから飛び立った。


「・・・この私を鳥扱いするとは・・・」


 その呟きは、俺には聞き取れなかった。


「アキラ!無事ですか?」


 トールの声が聞こえた。


「ああ!なんか変なのが4人紛れ込んでる!1人捕まえたから、あと3人捕まえてくれ!こっちのリングに1人と、向こうに2人いる筈だ。白煙、晴れるぞ!」


 俺がそう返すと、突如突風が吹き荒れた。鳥が頼みを聞いてくれたらしい。


 あっという間に白煙が晴れ、見えなかった景色が現れる。混乱で乱れた観客の列と、どうして良いか分からず動けなかった係員達と警官と、そして倒れ込んだ俺以外の3人の参加者と、白煙を撒き散らした犯人と思わしきゴーグルスカーフ野郎が、俺が捕まえてる奴以外にもう3人。


 ノワとトールとゴーシュがそれぞれに散ってそいつらを捕える。


 良かった。


「ブラド!」


 安心した所で、目の前で叫び声が上がった。それはブラドの兄の声で、兄は倒れ込んだブラドに駆け寄って抱き起こした。辺り一面がブラドの血で染まっていた。1人の人間からこんなに出るのか?と、ちょっと信じられない程の大量の血だ。


「大丈夫だブラド、兄ちゃんが何とかしてやる。2人で剣闘士になるんだ。約束したもんな・・・」


 そのブラド兄の声が、俺の胸に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ