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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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36/51

36、運命の柱

 会場は熱気で溢れていた。ガタイの良い男達が、それぞれに得意な武器を手に目的の場所へと進んで行く。中には女性の姿もあった。


「受付でクジを引き、指定された場所へ移動して下さい。当初16の組に別れての勝ち抜き戦の予定でしたが、都合により4つの組に別れます」


 声を張る係員と、参加者からの質問に答える為の補助員達は、緑色の目立つ羽織を着て忙しそうに仕事をしていた。まるで量販店のバーゲンセールみたいだ。


 だが少しそれとは様子の違う所もあった。


 緑色の羽織の横には、昨日町中で見掛けた制服の男達と同じ格好の者達、つまり警察官が立っていて、問題が無いように目を光らせている。


 グレイクが、昨日伝えた俺の要望を聞き入れてくれたのかも知れない。


「4つに分かれるのか、いきなりの予定変更だな」


 呟くゴーシュ。その横から低い声で話しかける者がいた。


「混合戦にて審査を行う担当者は、通常16人いる。毎年決まった者達だ。その16人中4人が死んで、1人が警察に逮捕され、6人が事情聴取で連れてかれた」


 俺達はマヤの宿で一泊した後、4人揃ってここに来た。そして、混合戦に参加予定の俺とトールがクジを引く為に受付の列に並び、その横に付き添いで何となくゴーシュとノワが立っていたのだが、そのまた横に、いつの間にかグレイクが立っていたのだ。


 気配も無く急に現れたので、4人揃ってギョッとし、それに連鎖するみたいにして周囲の連中も気付いて騒ぎ始める。『エデンの顔』のグレイクが急にすぐそばに現れたんだ。そりゃ騒がない訳はない。


「ぅお!」


 そんな中でも1番驚きの表情を見せたのはゴーシュだった。2度見して声を上げ、ちょっと跳んでから2歩下がり、顔を引き攣らせて視線を逸らした。


 なんか怪しい・・・。


 クジの列の進み具合を見詰めていたグレイクが、ゆっくりとゴーシュに視線を動かす。そして言った。


()()()じゃないか。こんな所で何をしている」


 ゴーシュの事を()()()と呼ぶグレイク。どうやら2人は顔見知りらしい。


 グレイクは、そう言った後に俺を見て「知り合いか?」と聞く。俺が頷いて見せると、グレイクはちょっと口を引き結んで不機嫌そうな表情を浮かべ、そしえ言った。


「知り合いなら警察の件はコイツに頼めば・・・」


 そう言い掛けたグレイクの声を、勢い良くこちらに向き直ったゴーシュが遮るように言う。


「うわぁー!こんな所でグレイクに会えるなんて、光栄だなぁ。なぁ、アキラ!」


 わざとらしい話の逸らし方。分かりやす過ぎるその様子に、心優しい俺達全員が乗った。


「ああ、そうだな・・・」


 そう呟く俺の横で、ノワだけが「何を隠してるんだか、ねー」と心の声を小声で洩らす。


 恐らく、ゴーシュは警察関係に顔が効くのだ。けれども何故かその事を俺達に隠している。


 そういう事だろう。


 俺は、言いたくないのなら、無理に聞き出す必要性を感じなかった。だからあえてスルーする。スルーして、俺は話を戻した。


「4人死んで1人が逮捕って、それ連絡船の・・・?」


 シージャック犯の人数は全部で6人。3人が河に落ちて、2人がレニアⅧの根に絡め取られて命を失い、1人が捕まった。


 そう考えていると、グレイクは頷いて言った。


「犯人は全部で6人だったんだろ?船上で死んだ2人と河に浮かんでた3つの死体のうちの2つ、そして捕まった1人の合計5人が審査員だった。そして、浮かんでたもう1つの死体が、混合戦に出場予定だったヤンという名の剣闘士だ」


「え!そうなの?!」


 ノワが驚いた声でそう言った。


 シージャック犯6人の全てが闘技場の関係者だったという事だ。


「ああ。それで闘技場に警察の方から接触して来た。混合戦の間、調査したいから警察官を中に入れろ、とな。こちらから警備を依頼する必要も無かった訳だが、これで良かったか?」


 それを聞いて俺は、頷きながらクジの様子を見張る警察官を見た。


 そうだ。この制服だ。顔までは覚えていないが、この制服を着た男達が、ブリエヌという名の元貴族のじいさんの首を斬り落とす。


 それが『最善』。


「因みに、シージャック犯の6人ってさ、どういう人達なの?」


 ノワが聞く。と、「全員ブリエヌ派だ」と答えるグレイク。


「事情聴取されてる6人ってのは?」


「そいつらは特にブリエヌ派って訳ではない。犯人達6人と、まぁ仲の良い連中だな。従業員にも色々ある」


「ふぅん」


 相槌を打ちながら、派閥なんてもんがあるんだな、と思った。


 元々、闘技場を作ったのはブリエヌだったと聞いた。昨日の夜、俺の意識が飛んでいた間の話の内容を、ゴーシュも交えて宿で聞き直したのだ。


 闘技場の経営が順調に進んでいたところに、ガティが強い剣闘士を送り込んで徐々に幅を効かせるようになった。そこに王弟リグランが転生者カミュを連れてやって来て、身分を隠してグレイクと名乗って、ガティに協力して領地を乗っ取った、と。


 だがしかし、ブリエヌが最初に着手した闘技場だけは権利を奪い切れず、共同経営として今に至っているそうだ。


 貴族制度の撤廃に反対していた元貴族達。そのうちの1人であると思われるブリエヌは、自分の領地内に闘技場を作って資金を集め、反撃のチャンスを狙っていたのだろうか。しかしながら、その資金集めの途中で、ガティなる平民上がりのヤクザに乗り込まれて、土地を奪われ、歓楽街を作られて、支配権を奪われてしまった。


 そこで、エデンの象徴である闘技場で行われる一大イベント『混合戦』で、()()を起こそうと企画し『生体兵器』を密輸しようとした・・・いや、『しようとした』のでは無くて『した』のか・・・?


 そこまで考えて、俺は昨日の夜のユリアの様子を思い出した。


 闘技場の閉じた門の前で、背の低い痩せた黒髪の男に()()を渡して、そして泣き出してしまった少女。


 もしかすると、その()()が『生体兵器』だったのではないだろうか。


 そう思いながら俺は、その時のユリアの事を思い浮かべた。


 彼女は今、混乱の中にある。


 ユリアと一緒に、彼女の働く食事処へと帰る途中で、俺は見てしまったのだ。彼女の『未来』への柱を。


 意識してのことでは無かった。ただフッと、見えてしまった。


 グレイクのとは比べ物にならない位の大量の頭蓋骨で出来た巨大な柱。そのふもとの少し上ら辺に、彼女の『現在』があった。


 始まりの方で地味に輝くひとつ、そこが()のユリアで、その上に乗る、大量の頭蓋骨のひとつひとつが、ユリアにこれから起こりうる出来事なのだ。ユリアには無数の選択肢があり、そこから繋がる未来も、数え切れない程にある。


 俺はまず、グレイクとのその数の差に驚いた。


 それが、ユリアの若さゆえなのか、それともユリア自身の未来への選択肢の多さなのか。判断が付かなかった俺は、何気なく周りを見回してみる。


 すると、人通りの多いその場所の、全ての人の柱が見えた。


 別に、何処かに瞬間移動した訳じゃ無い。俺は()()にいる。夜の歌舞伎町みたいな繁華街の通りを食事処に向かって進んでいて、ユリアの背中を押しながらノワ、トール、ゴーシュと並んで歩いている。


 そこに頭蓋骨の柱は無い。でも、確かに()()()。分かる。


 『多次元』


 そんな言葉が脳裏に浮かんだ。


 この世界は、間違い無く3次元だ。その点では、元いた世界とまるで変わりはない。だから、この頭蓋骨の柱は、その3次元の内ではなくて、『多次元』のどこかにあるのかも知れない。


 その『多次元』にある頭蓋骨の柱、通りにいる人々、その一人ひとりの『未来』、頭蓋骨の柱が見えた。


 彼等の頭蓋骨の柱も、ユリアと同じように大量で巨大で、それを見て俺は思った。


 ああ、グレイクは選択肢の少ない人生を歩んで来て、これからも選びようの無い、決まった道を進むしか無いのだな、と。


『彼の運命は狭い・・・』


 そう呟いたドニの言葉の、その意味が今分かった。


 グレイクのような人の事を『不運な人』というのかも知れないな。そんな風に思ってしまう。


 比べるとユリアの運命は、平均的だと言えるのかも知れない。


 人並みの選択肢の数、人並みの未来の可能性の量。


 そんな選択肢の中、選び取った1本に自信を持てず、ひどく混乱して、闘技場からの帰路で泣いてしまったユリア。彼女の混乱の理由を、俺は頭蓋骨の中を覗くまでもなく想像出来る。


 ズバリ、失敗への恐怖。間違いを自分で認める事への無意識の拒絶。


 多分ユリアは、闘技場へと荷物を運んでしまった事が『悪い事』なのかも知れない、と思っているのだ。


 渡した相手の様子を見て、自分が思っていた以上に大変な事なのでは?と焦り、後悔して、そして、誰かに打ち明けるべきかどうかを深く悩んでいる。


 やはり『冥府の門』もユリアに関係しているのかも知れない。


 全てユリアの過去を覗けば、簡単に分かる事だろう。けど、俺はそれをしなかった。


 見れば、今回のこの事件の核の部分が見えて来るのかも知れない。けれど、多分見たら、俺は口を出してしまう。それは、ユリアの為にはならないと考えるのだ。


「で、リー・・・じゃなくてグレイクは何しに来たの?もしかして敵情視察?」


 ノワがグレイクにそう聞いた。


「分かってる情報を伝えに来たのだが、まぁ、ついでに見ていこうとは思っていた」


 グレイクはそう答えて俺を見る。目付きが鋭い。穴が空いてしまいそうだ。


「・・・なに?」


 何となく居づらくなって、俺は聞いた。


「いや、やはり()()()()なと思ってな」


 そう言うグレイクに、俺を除く3人は疑問顔。


 ()()()()


 それは『第3の目』の事だろうか。


 『第3の目』


 それは、全てを見通す『目』。映る者の特性、力、スピード、そして時によっては、次にどう動くかや、相手の考えている事まで読みとる事が出来る。


 三姉妹神の持つその神の力を、グレイクは持っているのだった。


 その力が、俺には使えないという事だろうか。


「まあいい。予選、見させて貰う。勝ち上がって来い」


 そう言い捨てて、グレイクは行ってしまった。周囲の注目を集めながら。


 その後、俺とトールはクジを引き、トールは第1グループ、俺は第4グループになった。

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