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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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35/51

35、町中華と尾行

 マジールの食べ物は、ほぼ現代日本の物と変わりがなかった。だが、取れる作物の形状が少し違うのだろう、若干素材の色や形が違っていた。赤味掛かったキャベツや青梗菜のような葉野菜、赤い芋類、紫玉葱のような紫長葱。それらを使って色々工夫をして、日本の料理に近付けている。そんな感じだった。


 お邪魔しているこの店は、いわゆる町中華のような感じの店。メニューはラーメンに炒飯、餃子、麻婆豆腐、天津飯や焼売、春巻き。加えて唐揚げ定食やらカツ丼、親子丼なんかもあって、見た目は少し違うが食べれば味は普通。日本に帰ってきたんじゃないか?と錯覚してしまいそうだ。


 周囲の客達は、ほとんどみんなラーメンを頼んでいて、サッと食べてサッと帰って行く。一部の客が餃子やらツマミっぽいものと酒を頼んで長居をしていた。


 そんな所も日本っぽい。


 見てて俺もラーメンが食いたくなった。


 けど、ノワが猫舌だと騒ぐからラーメンは諦め、比較的冷めても美味そうな油淋鶏とかクラゲサラダとか漬物とかと、あとかやくごはんなんかを適当にチョイスして頼んだ。(隣の席の客がローストチキンを食べているのを見て、アレ食べる!と騒ぎ出したノワは、出て来たアツアツのチキンをいきなり口に入れて火傷をしている。余談)


 結果、それが吉と出る。


「コソコソしてたねー」


 俺は、餃子の皮をむいているトールを注意しながら、そう言ってきたノワに頷いた。


「あの2人に見つからないようにしてた感じだな」


 合流してきたゴーシュがそう言って、「酒じゃないのかよ」とぼやきながら水を飲む。コップを口に付けながら、フロアを忙しそうに歩き回るイールとライサに順に視線を向けた。


 周囲を伺いながら階段を降りて来たユリアは、目立たないように姿勢を低くして入り口へと向かい、注目を集めながら入店したゴーシュに焦って一旦引き返し、俺達の後ろに隠れてからタイミングをはかって外へと出て行った。


 どう考えても怪しい動き。でも俺達に何らかの危害を加えようという感じでは無かったので、とりあえず全員暗黙の了解で無視していたのだが。


「なんかあったの?」


 ゴーシュが聞いた。


「実はさっきね、店の裏に冥府への通路が突然開いて・・・」


 いなかった(というか、俺達に付いて来れずに結果として撒いてしまったのだが)ゴーシュにノワが経緯を説明する。


「気を失って上の階で休んでいたらしいのですが、目が覚めたのでしょう」


 トールがそう言って、俺が教えた手順で酢醤油とラー油を混ぜたタレに餃子を付けて、白飯にワンバンしてから口に入れる。そしてちょっと震えて目を見開いた。


「さっき冥府に引き摺り込まれそうになった時も、1人で出てどっか行こうとしてたんだよな」


 トールの声に俺はそう続けて、「タレの染みた飯をそのままかき込んでみ?」と教える。言われた通りに飯を食べて、「美味い・・・」と思わず声を漏らすトール。


「船にいた子だよね?見覚えあるし」


 ゴーシュがそう言いながら「俺も食っていい?」と聞いて、いいと言われる前に油淋鶏を取って食べた。「ウマ」と呟いて、そのままの勢いで酒を頼もうとするのを俺が止める。


「そう。俺達と同じ船でマジール(こっち)に来て、ここで働いてるみたい。そこで配膳してるもう1人の女の子、ライサと2人で一緒に」


 俺は、言いながらかやくごはんを引き寄せる。


「1人で外に出て、その冥府?に落ち掛けて助けられて、んで、また1人で外に出たの?」


 油淋鶏が気に入ったのか、2個、3個と口に入れつつそう言うゴーシュ。


 取り皿にかやくごはんをよそいつつ、俺はちょっと考えて「危ないかな?」と呟いた。


 何故『冥府の門』が開いたのかは分からない。分からないが、()()理由があってそこに現れたのだろう。


 分からない以上、ユリアが原因では無いとは言い切れないんじゃないか?


「追いかけますか?」


 悩んでいると、いつの間にか餃子を一皿空にしていたトールが聞いてきた。


「えー、行くの?僕食べてたいな」


 そう言うノワの声を無視して、俺は持っていたかやくごはんを机に置いて立ち上がった。そして、フロアに向かって大きめの声を上げる。


「あの、この料理、しばらく置いといてもらえませんか?」


 イールが振り返って眉を顰める。無言でちょっと考えて、渋々といった感じで小さく頷いた。


「やだやだー、僕食べる」


 ノワがそう言いながら食べ続けているのをまた無視して、俺はイールに頭を下げて店の外へと飛び出した。


 すかさず続くトールと、「俺も行くわ」と後にゴーシュが続いた。


 残されたノワは、「えっ、みんな行っちゃうの?」と言いながら慌てて、結局、骨つき肉を両手に一つずつ持って後に続いた。


 そして追い掛けながら言う。


「ねー、お金払ったのー?」


「先払いだよ、見てなかったのか?」


 そう答えながら、俺達はユリアの出て行った方向へ静かに走り出した。




 薄暗く陽が沈み掛け始めた通りは、その姿を夜の顔へと変化させつつあるように感じられた。


 酔っ払いは昼間もいた。けれども、その酔っ払いに声を掛け、呼び込む者は居なかった。


 着飾った若い女の子、看板を持った男。安さを謳う者、サービスの質の良さを謳う者。皆嘘臭い引き攣った笑顔で声を張る。そういうヤツらが所々で、縄張り争いなのか口論をしている。殴り合いをしている者さえいた。あまり良くない治安が、一気に悪くなった感じ。深夜の歌舞伎町とか渋谷の裏道とかみたいだった。


 子供や若い女性が1人で出歩くのはちょっと心配になる感じだ。


 そんな中だから、1人でちょこちょこと進んで行く小柄な女の子を見付けるのは簡単だった。


 ユリアだ。


 脇目も振らず真っ直ぐに闘技場を目指して進むユリア。頼りなげなその、そこでは目立つ姿を、みんなが見ていた。


 チャラそうな男が声を掛けようとしたのか、ユリアに歩み寄ろうとする。


 俺はトールと目が合い、頷いた。


 トールは、すぐさまチャラ男の肩を掴んで進行を止めると、向かい合って2言3言話して、そして胸をぶつけ合って睨み合った。ガンを飛ばし合い、しばらくすると相手が逸らして舌打ちをして離れて行った。


 良かった。


 そうしているうちに、ユリアは闘技場に辿り着く。


 既に閉館した敷地内では、片付けをする従業員が忙しなく動き回っているのが見えた。


 ユリアは閉じた門の前でしばらく佇んでいたが、中に声を掛けて通り掛かりの従業員を呼び止める。


 寄って来た従業員と少しやり取りをすると、ちょっと唯ならぬ雰囲気になった。


「助けますか?」


 トールが聞いてくる。


 俺は右手を挙げて静止させると、もう少し様子を見る。


 ユリアは、スカートのポケットの中から何かを取り出すと、従業員に手渡して、そして門から離れた。


 その時、通りを通過する何かのライトが横切り、従業員を照らした。


 黒髪の痩せた小男。その男に俺は見覚えがあった。


 ドニが見せた『最善』の未来の中、首を切り落とされる老人の横で拘束された男達のうちの1人だった。


 あっ、と思った時には、その男はもう踵を返して闘技場の中へと消えて行っていた。


 そして、ユリアが振り返ってこちらに向かって駆けて来る。


 前を見ず、むしろ目をつぶって、真っ直ぐに。


 危ない・・・。


 そう思って、俺はユリアの前に飛び出した。


 そのままの勢いで、俺の胸の中に飛び込んで来るユリア。


 ぶつかって驚き、そこでやっと目を開けて、そして俺を見た。


 両肩を支えて、見上げてくるユリアの顔を見ると、その目が真っ赤に染まっていて、泣くのを堪えているのが分かる。


 不安と怒りと、苛立ちと悲しみ。色んな感情を混ぜ込んでぐちゃぐちゃになった表情。


 辛そうだった。


「あっ・・・」


 ユリアが小さく声を上げると、その目から透明な涙が一筋流れ落ちた。


「あっ、泣いちゃった。大丈夫?」


 横からノワが、そう声を掛けてくる。


 ユリアは、その時点でようやく俺以外にも人がいる事に気付いたようだった。


「店に帰るんだよね?送ってくよ」


 俺はユリアにそう言って、自然と塞ぐ形になっていた道を開けるために横にズレて、その背中をそっと支えて押した。


 ユリアは俯いて、ポロポロと涙を零しながら、店へと歩き始めた。

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