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第7話 帰還

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 敏文達は疲れた体を引きずってようやくシーバに戻ってきた。

 そこには第一警備隊の副隊長のタケイが3名の部下をつれて馬車の警備をしつつ控えていた。

「閣下、ご無事でお戻り何よりです」

「タケイか。俺は無事だが8名失ったよ。何とか今回の騒動の原因のようなものは見つけて潰せたが、まだいろいろ根が深そうだ。ところで、ミヤザには戻らなかったのか」

「はっ! 部下と名主のことは第二、第三両小隊長に任せて帰還させました。私は、第一小隊の馬車を確保しつつ、負傷者が出たときの為に治癒の力を持つ水・土の魔法士を待機させておりました。早速あたらせますがよろしいでしょうか」

「すまんな。頼む」


 里の広場では、ダイカクも加わって怪我をした隊員の治療が行われていた。戦死した8名以外は、何とか大丈夫なようだ。


 そして、怪我人の治療が落ち着くと、男爵が周囲に声をかけた。

「今から、今回の騒動で亡くなった里のもの達に報告に行く。動けるものだけでよい。参加してくれ」

 男爵はそう言うと、タケイの案内で里のもの達が埋葬されている場所へ向かった。敏文はブンゾー、ダイカクと共に男爵の後をついて行った。


 そこは、里を見渡すことができる少しだけ高台にある緩やかな斜面だった。南に向いていて、日当たりもよく、周りには草花も咲いている。もともと里の埋葬地だったようで、いくらか古い埋葬の墓標があるのだが、今はそれよりも真新しい埋葬のあとが数多くあり、不揃いの木材で作られた新しい墓標が並んでいた。

 男爵は、埋葬された里のもの達に、優しく語りかけるように話始めた。

「シーバの里のもの達よ。今ここに眠ることになるのはさぞかし不本意だったろう。残された家族が心配な気持ちもあろう。お前達を苦しめた魔獣達は、我々によって先刻シーバの近郊から排除された。生き延びているもの達は、ミヤザの街で保護している。今後のことは私が配慮する。だから、今はここで安らかに眠って欲しい。今回の騒動が落ち着いたら里のもの達にも、戻ってこさせよう。それまでは少しだけ寂しいかも知れないが、周りに咲いている草花などを愛でながら、待っていて欲しい。皆が安らかに休めるように祈る」

 そして見守るもの達を見渡したあと、大きな声で呼びかけた。

「全員、黙祷!」

 皆それぞれの思いを込めて黙祷を捧げた。


 敏文はキクエのことを思い出していた。

(にこやかによそ者である俺とサラさんを迎え入れてくれたキクエさん。貴女が優しく迎え入れてくれなければ、右も左も分からなかった俺達は、もっと辛い思いをしていたに違いない。本当にありがとう。殆ど何も出来なかったけど、本当に感謝しています。今はただ安らかに眠って欲しい。落ち着いたら、ブンゾーやサラと会いにきます……)


「全員、直れ」


 目を開けると、男爵が全員に伝えた。

「これから、30分だけ自由行動とする。この里に知り合いがおり、今回の災難に巻き込まれたものに知己がいるものは、話しかけてやるがよい。30分後、里の広場に集合とする。遅れないように。では解散!」


 ブンゾーと敏文は、周囲の草花からそれぞれ一輪ずつ花を手折ると、たくさんある真新しい墓標の中から、キクエのものを探した。

 斜面の中腹まできたときだった。ブンゾーがひとつの墓標の前に腰を落とした。

「ここか……」

 そこには、他の物と変わりなく、短い木の墓標が添えられており、そこには、ローメリア共通文字でキクエと彫られていた。

 ブンゾーは花を手向けると、墓標に向かって話し始めた。

「お前を襲ったグレイウルフの群れは、俺とトシフミで倒したからな。それから男爵たちと一緒に、里の外にいた魔獣たちもやっつけた。子供たちやサラは無事だぞ。お前が守ってくれたからな。心配しなくても大丈夫だぞ。里のもん達は、しばらくミヤザの街に避難することになりそうだ。でも、男爵がちゃんと心配りをしてくださるそうだ。ただ、今すぐにはこの里には戻れない。少しの間さびしいかもしれないが、我慢してくれ。俺はこれからどうすればいいだろうな……。お前がいなくなるなんて考えたこともなかった。これから、ダイカクとも相談してみるよ。お前が好きだったこの里にいつか、前と同じような笑い声や普通の暮らしが戻るように、できることはやってみたいと思う。なんたってお前が眠る場所だからな。いまの俺にできることはこれだけだが、本当に今までありがとう。感謝してるぞ」

 そう言い、ブンゾーは脚の短剣を手に取ると、墓標に文字を刻み始めた。


「さあ、いこうか」

「ああ」

 墓標にはこう刻まれていた。

 《ブンゾーの最愛なるものここに眠る。安らかならんことを》


◇◇◇◇◇


 里の広場に戻ると、馬車に装備や戦死した隊員の亡骸を積み込んだり、馬に飼い葉を与えたりと、出発の準備がされていた。

 もう夕方になろうとしている。ミヤザに着くのは夜になりそうだ。

 男爵が全員に声をかける。

「全員そろったか? 各班は点呼の上、報告しろ」

 各班のリーダーがカージの元に報告に来た。全員そろっているようだ。

「よし、全員乗車しろ。ミヤザに着くのは夜になるだろうが、道中も注意を怠るなよ。夜道の走行で事故など起こしてはせっかく生き延びたのが無駄になっちまうからな。元気に家族の顔を見に帰ろうぜ!」

「はっ!!」

 そして、敏文達も馬車に乗り込んで、ミヤザに向けて出発した。


(流石に今日は疲れたな。刀なんて必死に振り回したことは今までないし、腕がパンパンだ……)

『トシフミ、大丈夫?』

 コウが心配してくれている。

『ありがとう。今日も本当に助かった。また、命を助けてもらったな』

『ううん。気にしなくてもいいよ。でも、あの散魔石はとても気になったね。人が作ったものだったら、どうしてあそこにあったんだろう。雷や水の魔法に耐性があったし。何か狙いがあるはずだよね』

『そうだな。でも正直今は考えることは後にしてただ休みたいよ』

『ごめん。ゆっくり休んで』

『戻ったら、男爵やダイカクにコウのこと説明しなければいけないな。どこまで話していいものか気が重いよ』

『トシフミの思うとおりに。どういうことになっても、僕はトシフミと一緒にいるから』

『ありがとう。じゃ悪いが少し休ませてもらうな』

『お休み』


 そして敏文は眠りに落ちていった。


◇◇◇◇◇


「おい、起きろ。もうすぐミヤザの街だぞ」

 ダイカクが声をかけてくれた。

「ダイカクさん、ありがとうございます」


 馬車は街中に入り、男爵の館に向かっていく。

 ミヤザの街も襲われるかもしれないと街の人たちも心配したのだろう。沿道には、街の人たちが、男爵やダイカク、警備隊員たちに慰労の声をかけている。

「男爵様、お疲れ様です!」

「無事のご帰還おめでとうございます!」

「魔獣の掃討本当にありがとうございます。安心して眠れます!」

 みな、とても嬉しそうだ。


 そして馬車は男爵の館に到着した。

 男爵の館の周囲には、街の人たちが集まっていていた。そして男爵や隊員たちが降車するといっせいに歓声があがった。

「男爵様ばんざーい。警備隊ばんざーい」

 男爵は苦笑いをしながらも、手を上げて応えている。玄関には男爵夫人が待っていた。

「あんた。おかえり」

「ああ、今帰ったよ」


 キキョウやアヤメ、マリカ、ナミの姿もある。

 その時だった。

「トシフミっ!」

 突然、敏文は後ろから抱きつかれた。驚いて見るとサラが泣きじゃくっていた。

「よかった。本当に無事でよかった。亡くなった人もいるって聞いて、心配で心配で、でも本当に無事で……」

「心配かけたね。なんとか戻ってこれたよ」

 そして、サラは敏文に抱きついたまま、隣にいるブンゾーにも声をかける。

「ブンゾーさんも、無事に戻られてよかったです」

「おう、二人ともへとへとだがな」


 その時、ダイカクがやってきた。

「今日は、夜も遅くなった。詳しいことはまた明日男爵のところで話すとして、今日はもう帰ろう。キキョウはここまでどうやって来たんだ?」

「歩いてきたのですが、先ほどアケビさんから馬車をお借りしました。今日はそれで帰りましょう。明日また男爵様のお屋敷にお邪魔するのでしょう? そのときにお返しすることにしてあります」

「そうか、じゃあ、みなお言葉に甘えて馬車で帰ろう」


 街の人たちに応えていた男爵がこちらに近づいてきて、声をかけた。

「ダイカク、ブンゾー、トシフミ。今日は本当に助かった。助勢感謝する。また、これからのことは明日話をしよう。午後でかまわないから、館まできてくれ」

「ああ、わかった。では、明日」


(やっと、長かった1日がようやく終わりそうだ。無事に生きて帰ってこられて本当によかった……)

 敏文は極限に疲れた頭でそう考えていた。  

今回も、読んで下さってありがとうございます。

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