第8話 今後の行方
2014.4.18 話を大きく修正しました。
「おはよう。キキョウさん」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「ダイカクさんやブンゾーはもう?」
「ええ、朝食を済まされて、それぞれ父は書斎に、ブンゾーさんは少し出てくると外出されましたが」
日が上ってから、かなりたっているようだ。また敏文が一番最後らしい。
(どうも朝に弱いのは向こうの世界の時と変わらないな。そう言えば、目覚ましもないし体が早起きには向いてな……。一人で誰に言い訳をしてるんだか)
『ま、疲れてたし、しょうがないんじゃない?』
コウが足元でぱたぱたしっぽを振りつつかまってくれる。一人じゃないことのありがたさを敏文は感じている。
「どうぞ。はい、コウの分はこっちに置くわね」
キキョウが手早く朝食を準備してくれた。
米の飯と味噌汁、玉子焼き、葉もののお浸し。
(和食だ。ありがたい)
敏文は生活の環境が日本にいたときに近いと言うことを本当に有り難く思っていた。
「昨日は大変でしたね。食事は口に合いますか?」
「ええ、とても。ありがとうございます」
「良かった。元の世界と同じものではないとは思いますが、近いものだと聞きましたので」
「あ、はい。元の……、あれその話は……」
「一昨日、皆さんが男爵様の館に向かわれた後にサラさんから。お二人がこの世界の方ではないこと、お二人の身の上に起こったと思われる出来事などを伺いました。とても大変な状況にいらっしゃるのはよく解りましたわ」
「そうですか。今はまだ何が何だか解らないことだらけなのですが、とりあえず出来ることをやるしかないなと」
「私達でお役に立てるようでしたら、遠慮なく仰ってください」
「ありがとうございます。いろいろとお世話になると思います」
ふと、敏文は周りが静かなのに気がついた。
「ところで他の皆は?」
「マリカは学校へ。まだ、高等学校通いですし。アヤメはサラさんと畑に野菜の世話と収穫に。ナミは馬の世話をしています」
「俺はどうしようかな」
「父が「寝ぼすけが目覚めて、朝飯を食べ終わったら書斎に来いって言っとけ!」と言っておりましたわ。ウフフ」
「そうですか。まいったな」
その時、外からブンゾーが帰ってきた。
「よう、起きたか“ネボスケ”!」
「そう言うなよ」
「たっぷり寝たから元気でたろ。ダイカクのところ行くんだろ。来いよ」
そう言うと、ブンゾーは屋根つきの渡り廊下でつながった離れに向かって歩いて行く。
敏文は「そうは、言ってもなぁ……」そうぼやいてみたがブンゾーには無視された。仕方なく、敏文はブンゾーの後ろをついて行った。
「ダイカク、入るがいいか?」
「おう、来たか。トシフミは?」
「ああ、一緒だ」
「遅くなりました」
「まったくだ。待ってたぞ」
引き戸を開けて入ると、ダイカクはゆったりと椅子に腰かけて部屋の奥にいた。
部屋は整然としていて、左の壁には大きな本棚がしつらえられ、たくさんの本が入っており、右には棚に花や小物が飾られている。部屋のまん中にには、テーブルと椅子が置かれ、そして窓に面した部屋の奥には、大きな机があり、その上には昨日の散魔石が籠に入れられて置かれていた。
「まあ、座れよブンゾー。ほら、トシフミもそっちに」
「それは昨日の。そんなに無造作において大丈夫な物なのか?」
「ああ、もうこれからは魔力は感じられない。大丈夫だ」
ダイカクはそう言うと、その欠片を手にとって敏文とブンゾーに渡した。
「男爵から預かって昨日から調べているのだが、やはりこれは人為的に作られたものだ。自然にできたものではない。その証拠に見てみろ。不自然に丸くて周りには紋様が刻まれている。恐らくだがこれは闇魔法の一種だろう」
「闇魔法ですか?」
「ああ。かつてはホーエンにも使い手がいたとされる魔法の一種だ。光を遮り、闇の力を基に行使される魔法でな。魔獣を操る事が出来たと言われている」
「それじゃ、あのグレイウルフの襲撃は仕組まれたものだって、誰かがわざとやったものだってのか。誰がそんなことを! そんなやつにキクエは、里のもん達は!」
「ああ、ただ今はまだ誰がこんなことをしたのか全く解らない。これから調べて行く必要がある。最近あの近辺に近づくものを見たりはしなかったか? ブンゾー」
ブンゾーは少し考え込んだが、
「そう言えば俺は直接は見てないんだがゴヘーがあの辺りで狩りをしてるって言ってた気がするなぁ。何か知ってるかもしんねぇ」
「それは男爵に頼もう。それとこの散魔石は王都の魔法・生物研究所に届けて調べて貰おうと思っている」
「ダイカクが届けるのか?」
「いや、俺は今は王都には関わりたくない。昔いろいろあってな。だから、男爵に頼むつもりだ」
「それでダイカク。そこで何か解るまでどれくらい掛かるんだ?」
「早くて一ヶ月、場合によってはもっとかかるかも知れない。焦る気持ちは解るがこれは急いても仕方がないことなんだ」
「じゃあ、その間待つしかないのか?」
ブンゾーは、がっくりと力を落とす。
そこで敏文は考えていたことを話し始めた。
「ダイカクさん。もしその間、時間があると言うことなのであれば、俺はこの世界の事や魔法の事がもっと知りたい。今はこの世界の事について何も解らないし、このままではこの世界で自分の足で立って行けない。俺は自分が何故ここにいるのか、何ができるのか、何をやらなければ行けないのかを知りたい。それにはこの世界を知ることが必要です。そして自分の身を守る術を持たなければ。俺に魔法を教えて頂けませんか」
「そうだな、俺も我流で今までやって来たがキクエの仇を打つには、今のままじゃ大したことはできねぇ。俺にも頼む!」
「その話、私にもお願いします!」
その時、引き戸が開いてサラが入ってきた。後ろにはキキョウとアヤメがいる。
「ごめんなさい。私も話を伺いたくてこちらに来たのですが、入るタイミングがなくて。でも今の魔法を教えて頂く話、私にもお願いします。私、今のままでは本当に何もできません。足手纏いはいや! 私も何かできるのなら、やれるだけのことはしたいのです。お願いします」
ダイカクは、ふうっと一息つくと、
「全く、3人で勝手に盛り上がりやがって。魔法には適性がある。誰でもが使える訳じゃない。適性は調べることは出来るが、結果適性がなかったら、いくら頼まれても無理だからな」
そう言ってサラに念を押した。
「はい!」
サラは嬉しそうだ。
サラの様子を、微笑ましく見ていたダイカクが敏文に向かって話す。
「ところでトシフミ。お前は既にあれだけの魔法が使えるじゃないか。あれは、火魔法にしては普通じゃないように見えたが、どうやって使ってるんだ?」
「そうだな、トシフミ。どうやって覚えたんだ? お前の世界には魔法無かったんだろ?」
ブンゾーも続けて問いかけてきた。
「え、そうなんですか? トシフミはもう魔法が使えるんですか?」
サラだけでなく、キキョウ、アヤメも驚いている。
(どう説明しようか……)
敏文は少し悩んだが正直に話すことにした。
「実は俺が火と言うよりは炎の力を借りれるのは、この仔のお陰なんです」
そう言って敏文はコウを膝に抱き上げた。
「この仔犬は、普通の仔犬ではありません。紅炎の精霊と言うそうです。何故俺を助けてくれるのかはまだよくわかっていません。普段は仔犬の姿ですが、その力を示す時は俺の左手に宿って紋章となります。その時は俺は炎の力を操れるようです。ただ、俺自身精霊のことも魔法のこともよくわかっていないので、何がどうなっているのか、どんな魔法があって、どんな精霊がいるのかもよくわかりません。だからもっと知りたいのです」
「精霊なのか! この仔犬が……」
ダイカクは驚いている。
「コウって精霊なんだ!」
サラもびっくりしている。
「そうか、精霊の力なのか。ホーエンはさまざまな精霊が宿る場所だと言われていて、精霊を祀る神殿等も多い。ただ、精霊の祝福を受けたりして力を借りることはあっても、直接精霊を宿すことができる人間がいるという話は聞いたことがない。その紅炎の精霊とは話はできるのか?」
敏文はコウを見つめながら問いかける。
『どうするコウ?』
「僕は紅炎の精霊。今はトシフミに宿っている。名前はコウ」
「「「「「「おおっ!」」」」」」
敏文を除く全員が声をあげる。
「しゃべった。仔犬が……」
ブンゾーが驚く。
「仔犬じゃなくて精霊でしょ!」
アヤメが突っ込む。
「コウ、話せたんだ。トシフミずるいよっ! 教えてくれてもいいじゃない!」
サラがむくれる。
その時ナミがやって来て、男爵からの連絡が入っている事を伝えてきた。
「じゃ、今はここまでにしよう。男爵のところから戻ったら、適性を調べることにしよう。ナミ! 馬車の用意を」
「出来ております」
「今日はサラも一緒に行こう。男爵にも事情は話しておいたほうがいい」
「はい!」
◇◇◇◇◇
敏文達は馬車に乗って男爵の館に向かった。
(男爵は俺達の話信じてくれるだろうか)
敏文は窓の外の景色を見ながらそう考えていた。
しばらくした時、サラが敏文の隣でほいほいと手を差し出してきた。
「ん?」
「ん? じゃなくて、私の癒しの君を籠から出して」
「あ、ああ」
(喰われる訳じゃないし、まあ、いいか)
敏文は籠からコウを出してあげた。
サラは頭や背中をなでまわしている。
「ん~!癒される~」
そしてコウに話しかけた。
「ねぇ、コウ? 私ともお話しようよ~」
コウは首をかしげて、何も答えない。
「ねぇ、私はコウのこととってもかわいいと思うのよねぇ。それに紅炎の精霊なんてかっこいいじゃない。すごいと思うの」
やっぱり、コウは何も答えない。
「ちょっと、トシフミ。コウに私にも話してくれるように伝えてくれないかしら」
(……なんだか目が怖い。サラってこんな性格だったっけ?)
「コウ」
「なに?」
「サラと話してあげてくれる?」
敏文は頼んでみた。
「何を話せばいいのかな?」
そう言うコウにサラはたじろぐ。
「う、じゃあ、まずどうしてトシフミに宿ってるの? どこから来たの? 年はいくつ? コウエンってどういう意味? ええっとそれからそれから……」
延々と質問をぶつけながらサラはコウの体中を撫で回している。
『ねぇ、トシフミ! そろそろ助けてくれない?』
しばらくするとコウが悲しそうな目で訴えかけてきた。
『もう少し、かわいがってもらってくれると助かるんだけど。今止めたら、たぶんサラが大変なことになりそうな気が……』
『え~。あ、ちょっとそんなとこ触んないでほしいんだけど。あ、そこもやだ! ねぇ、トシフミなんとかして!』
敏文は暴走するサラをコウに任せて?馬車の前の方に移り、御者をしているナミに話しかけた。
「ナミさんは、家事だけでなくていろいろできるんですね。馬の世話から馬を操ることもできるなんて」
「いえ、それほどのことはできませんよ」
横からダイカクが突っ込む。
「こら、トシフミ。サラを放って、ナミを口説くんじゃない。そう見えてナミは小太刀の達人でもあるんだ。変なことすると……」
「ぷすっと……なんてしませんよ。旦那様、トシフミ様に変なこと吹き込まないでください」
「あ、そんなつもりじゃなかったんだけど」
敏文が弁解すると、後ろを振り返ってナミが言った。
「あら、じゃどんなつもりだったのでしょう? フフ」
敏文はナミが笑っているのは初めて見た。
(こんな表情もする人なんだ……)
◇◇◇◇◇
そうしているうちに、男爵の館が見えてきた。玄関の前に執事と従者の2人が待っている。
「遅くなってすまなかったな。男爵はお待ちか」
「はい、ダイカク様。旦那様は書斎におられると思います。皆様こられましたら、会合室へお通しするように申し付かっております」
「それと、昨日は馬車を貸してもらって助かった。アケビ殿にはよろしく伝えてくれ」
「かしこまりました。奥様にはお伝えします。さあ、皆様どうぞこちらへ」
アケビというのは、男爵夫人のことか。見た目肝っ玉母さんって感じの人だったな。
昨日の朝使った会合室に入ると、そこにはテーブルに椅子があり、すでに第一警備隊のカージとタケイ、第二警備隊のイトーとイバ、ミヤザ守備隊のシノハの各隊長・副隊長が座ってお茶を飲んでいた。
「待たせたようだな。カージ」
「いえ、ダイカク様。昨日のご活躍まことにお見事でございました。我々だけでは、あの数の魔獣は対応できなかったでしょう」
「いや、男爵やカージを始めとする隊員達が前を勤めてくれたからだ。それにこの二人もな」
「そうでした。ブンゾー殿、トシフミ殿、ご助勢感謝します」
「はい」「こちらこそ」
その時、男爵が入ってきた。
「おう、すまんな。どうだ、疲れは残っとらんか?」
「ああ」
「じゃ、さっそくだが今後のことを話すとしようか。まあ、かけてくれ」
テーブルの奥側にイバ、シノハ、男爵、カージ、イトー、タケイの順に、手前にブンゾー、ダイカク、敏文、サラの順に座った。
メイドたちが入ってきて、男爵と俺たちの前にソーサーを置き、紅茶を注ぐ。隊長たちにもおかわりを注いで一礼し、すぐさま退室した。
「さて。そちらの女性は?」
「ああ、紹介が遅れてすまなかった。彼女はトシフミの連れでな、サラという。今日はあとでこの件とは別にお前さんに相談したいことがあって連れてきた」
男爵の質問にダイカクが説明する。
「そうか」
「サラといいます。お見知りおきを」
「ああ」
「ダイカク、さっそくだが昨日の散魔石と言ったか、あれで何かわかったか?」
「詳しいことはわからん。だが、少なくとも自然にできたものではない」
「昨日もそう言っていたが、どうしてそう断言できるんだ?」
「まず、石自体が自然にないほど丸い。加工されたものだと思う。そして何より、石の周りに文様が刻まれている。よく見てくれ」
そういうと、ダイカクは持ってきた散魔石をテーブルに置いた。
「確かにそうだな。この文字、いや模様か。これがなんだかわかるか?」
「恐らくは、闇魔法の一種で魔力を封じてあって、近寄る動物や植物などを魔獣に変える力を持っていたのだろう。あ、心配するな今は魔力を発散していない」
のけぞる隊長たちに、ダイカクは苦笑いしながら伝える。
「そうか。ということは、誰かがあそこにこの石を置いて、あの辺の動物たちが魔獣となるように仕向けたということだな」
「恐らくはそうなるな」
「いったいだれが!」
「ゆるせん!」
隊長たちは憤りを隠せないでいる。
「まあ、落ち着いてくれ。それでだ、ミヤザに避難している里のもののうち、最近あの近辺に行ったことのあるものの話を聞いてほしいのだが。特にブンゾーの話では、名主の息子のゴヘーがあの近辺でよく狩をしていたようだ。何か知っているかもしれん」
「そうか、わかった。シノハ」
「はっ!」
そういうと、シノハは会合室の扉をあけ、外に控えていた隊員に2、3指示をあたえて戻ってきた。
「それとこの散魔石だが、王都の魔法・生物研究所に届けて詳しく調べてもらってほしいのだが。闇魔法については俺は専門外でな。師匠のオズーノ様や兄弟子のジョウなら何かわかるかもしれない」
「そうか。お前が直接話さなくてもいいのか。王都まで送らせるが」
「いや、やめておこう。俺はまだ王都には割り切れないところがあってな」
「わかった。それ以上は言うまい。石のことは任せてくれ。今回のことを王都に報告しなければならないからな。明後日には俺自身が王都に向かうつもりでいた。その際に国王に報告し、石を魔法生物研究所に持ち込むことについてご裁可をいただこう」
「よろしく頼む。何かわかったら俺たちにも教えてほしい」
「ああ、わかった」
一息つくと、男爵がダイカクに尋ねた。
「ところで、さっき俺に相談したいことがあると言ってなかったか?」
ダイカクは同席している隊長達を見ながら男爵に話す。
「これから話すことはひとまずは、ここだけの話にしてほしいのだがよいか?」
「ああ、かまわないが。お前たちいいな」
男爵は隊長達に念を押した。
「はっ!」「かしこまりました」「了解いたしました。他言無用といたします」
「相談というのは、ここにいるトシフミとサラのことだ」
「ほう。この二人がどうしたんだ。たしか、ブンゾーのところを訪ねていた旅の者だと聞いていたが」
「ああ、俺も最初はそう聞いていた。だが、事情があってな」
「どんな事情だ?」
男爵や隊長たちは不思議そうな顔をしている。
「この二人はこの世界の人間ではないのだそうだ」
「何だって!」
「まさか!」
隊長達は口々に驚きと疑問が入り交じった声を上げる。
「待て待てお前たち、ダイカクがそうそうおかしなことを言うことはあるまい。話を聞こうじゃないか」
男爵が隊長達を諌める。
そこで、ダイカクは敏文を見ながら言う。
「トシフミ、自分で事情を話せるな」
「はい」
そして、敏文は自分たちがこの世界の人間ではないこと、元の世界のこと、この世界に来た際の出来事、そしてブンゾーに助けられたことを順に話していった。
「にわかには信じがたい話だな」
男爵の言葉に隊長達も頷く。
ダイカクが説明を引き継いだ。
「だが、ホーエンの伝承には“異邦の人”と呼ばれる異界からの人間に関するものがある。その人間はホーエンの国の人間にはない知識と力を持っていたと伝えられている。俺はこの二人もそうではないかと思っている」
首を傾げながらイトーが問いかける。
「ダイカク様がそう思われる根拠は?」
「トシフミやサラの世界には魔法もなく、魔獣はいなかったそうだ。また、トシフミの話にあった《ヒコウキ》という乗り物の話。それに昨日お前たちもみただろう。トシフミの炎を」
「ああ、あれは凄い。見たこともない火魔法だった」
カージは昨日のシーンを思い出しているようだ。
ダイカクは話を続ける。
「あれは火魔法ではないそうだ」
男爵は、敏文を見て問いかけた。
「ほう。ならばあれは何なのだ?」
「あれは、精霊魔法というそうです。ただ正直私にもまだよくわかっておりません。こちらの世界に来た折に、紅炎の精霊が私に助力してくれるようになったのです。そして、あのような炎を扱えるようになりました」
「ほう。紅炎の精霊とな。今もいるのかここに」
「はい」
「なんだって! どこに!」
男爵や隊長達は慌てて周りを見渡す。
敏文はコウを腰の籠から出して胸に抱えた。
「この仔犬がそうです。この仔は普段はこのようにしておりますが、私に宿っている精霊です。力を使うときは、体に紋章として宿り、炎の力を貸してくれるのです。他の方にはこの仔の力は宿すことができないようです」
「何故トシフミに? いつ宿ったのだ?」
男爵が聞いてくる。
「何故かはわかりません。私がこちらの世界に来て最初に出会ったのがこの仔犬なのです。シーバの山の中でした」
「しかし、かわいらしい仔犬だな。もしその仔犬をさらうものがいたら、その力はどうなるのだ?」
シノハが、興味深そうに聞いてきた。
「この仔は精霊ですので、すぐに私の元に戻ることができるそうです」
「そうか、ではさらったり、奪ったりしても無駄だということだな」
「それはご勘弁願います」
「冗談だ。心配せずともよい」
シノハが笑って答えた。
男爵はサラにも尋ねる。
「サラもこのような精霊魔法が使えるのか?」
「いえ、私は使えません」
サラは残念そうに答えた。
男爵はダイカクに向き直り確認するように尋ねた。
「それで、ダイカク。この二人の事の相談というのは」
ダイカクは男爵と隊長達に向かって頼んだ。
「彼らもまだこの国のこともわからなければ、知らないことも多い。しばらくは私のところで面倒を見ようと思っている。そこで、この二人について、シーバの出身として扱い、身元をお前さんに保証してほしいのだ。そして、しばらくはこの二人が異邦の人であることは伏せてほしい。精霊の話もだ。火魔法だと扱ってほしい」
「どうしてだ?」
「精霊の話が広まれば、変な扱いを受ける可能性もあるし、いろいろと興味を引いてよからぬやからが現れるかもしれん。彼らには今はこの世界を理解するための時間が必要だ」
男爵は少し考えていたが、にかっと笑うとこう答えた。
「わかった。身元の保証方法は別途考えるとしよう。二人の身の上や精霊の話は、しばらくはこの場限りとする。お前たちよいな」
「「「「「畏まりました」」」」」
(よかった。わかってもらえたようだ)
敏文は少しほっとした。
男爵は敏文とサラを見ながら尋ねた。
「それで、お前たちはこれからどうするのだ?」
ダイカクがにやっと笑いながら答えた。
「さっきも言ったが、この二人にこの世界のことを理解させるのと、ブンゾーも含めて少し“稽古”をつけようかと思っている」
「魔法のか?」
「ああ」
「そうか。お前たちダイカクは厳しいぞ。逃げ出さないようにな! わっはっは」
「ありがとうございます。がんばります」
「私もです」
こうして、敏文たちはミヤザの街でしばらくこの世界や魔法のことを学ぶことになった。
見てくださって感謝します。




