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5/7

今度は事故は防げたぞ!! 見よ!! 驚異の2人同時パリィ!!

「えっと、スタントマンさん、もう1人居る?」

 監督は、他のスタッフに、そう訊いた。

「えっと居ますけど……その……」

「じゃ、スタントマンさんの事務所に電話入れてもらえる。手の空いてる人、全員呼んでもらって」

「え?」

「念の為だよ、念の為……」

「え……えっと……お金の問題は……?」

「あ……あとで、プロデューサーさんに相談……」

「そ……それと、その……」

「何?」

「怪我したスタントマンさんの事務所に連絡入れてませんでした」

「だから、今から連絡入れてくれって言ってんだけど」

「ですので『そちらの事務所のスタントマンさんが2人、救急車で運ばれた』って連絡を入れてませんでした」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 間の抜けた沈黙。

「それも、後でプロデューサーさんにやってもらおう。ともかく『手の空いてるスタントマンさんが居たら、1人でも多く、ここまで派遣して』って連絡して。細かい事は後だ」

 マズいだろ。

 明らかにマズい。

 スタントマンさんの事務所を騙してるも同じじゃないか。

 そして、そのスタッフさんはスマホを取り出し……えっと……。

「すいません、細かい事はプロデューサーの方から後で連絡しますので、緊急で、その……はい、そちらの事務所の手の空いてる人を、なるべく多く……あはは……いや、大した怪我じゃないですよ」

 いや、大した怪我だろ。1人は、投げ技紛いの技が来るとは予想してない状態で地面に叩き付けられ、もう1人は、凶器同然の肘が指に命中。

 この調子だと、この撮影現場、日本中のスタントマンから総スカンを食らうぞ。

「じゃあ、2人同時にバットで殴りかかって下さい」

「えっ?」

「えっ?」

 スタントマンさん2人は、監督からの指示に対して、同時に声を上げた。

「じゃあ、リハーサルいきますね」

 空手家さんの方も、何かを思い付いたような感じだ。

「あ……あの……受けも捌きも無しで……」

「やってみます。じゃあ、ゆっくりと……」

「はい」

「はい」

 スタントマンさん2人が、ほぼ同時に、ゆっくりとしたタイミングでバットを振り下し……。

 空手家さんは、ほんの少し前に進み……軽く体全体を回転させる。

 なるほど……入り身だか半身だかってアレだ。

 顔はスタントマンさん2人の方を向いてるが、首から下はスタントマンさん2人からすると、ほぼ横方向。

 その状態で、2本のバットの間に入り込んでいる。

「え……えっと……」

「何でしょう?」

「ふ……普通に、その……背後に避ければいいんじゃ……」

「ああ、そうですね……言われてみれば……」

 空手家さんと、スタントマンさんの片方が、そんな会話を交し……いや、直前で空手家さん本人も気付いて止めてたけど……たしかに無意識の内にバット2本を回避した直後に反撃可能な構えを取ろうとしていた……少なくとも、そう見えた。

「じゃあ、なるべく本番に近い状態でテストで……」

「は……はい……」

「は……はい……」

 スタントマンさん2人は……何かを覚悟したような表情。

 ゆっくり呼吸を整え……整え……整え……。

 待て。

 いつまで深呼吸を続けてる?

「あ……あの……『1、2の3』で殴りかかってもらえます?」

 監督が、そう言った。

「は……はい……」

「は……はい……」

「じゃあ、1、2の……3」

「うがあああッ‼」

「ごりゃああッ‼」

 もう完全に、敵わない敵にヤケクソで特攻するかのような雄叫び……ってマンマか。

 えっと、これ、空手家さんが強そうに見えちゃいけない場面……じゃなかったけ?

 なのに、スタントマンさん達の様子は……これ、スタントマンさん達の決死の覚悟を決めたような表情(かお)がカメラに写ったら……「主役が強そうに見えちゃいけない場面」って台無しじゃ……と、ここまで考えた所で、更にマズい事に気付く。

 へっぴり腰。

 絵に描いたような、へっぴり腰。

 見事なまでの、へっぴり腰。

 しかも、無意識の内に、スタントマンさん2人は、空手家さんから離れようとして……。

 ゴンっ……。

 ゴンっ……。

 バットは、2つとも、空手家さんに掠りもせずに、地面を打った。

「え……えっと……」

「すいません」

「すいません」

 まぁ、化物に挑もうってんだから……こうなるのも判る。

 それから、決死の雄叫びとバットが地面を叩く音が響く、マヌケが場面が何回も繰り返され……。

「うりゃあ〜ッ‼」

「ごりゃあ〜ッ‼」

 3回目から先は数えるのをやめた、同じ事の繰り返しの果てに、ようやくマシな……えっと……マシじゃない。

 とりあえず……スタントマンさん達は空手家さんにバットを振り下さないといけない。

 しかし……当のスタントマンさん達の全細胞は……自分より圧倒的に格上の相手と戦うのを避けようとしていた。

 スタントマンさん達は……無意識の内に横方向……それも空手家さんから離れるように移動していた。

 さっきのリハーサル通りの体を回転させて半身だか入り身だかになる動きをしなくても……2本のバットは、空手家さんの両脇を通過……あ……。

 空手家さんが無意識の内に一歩進む。

 更に、これまた無意識の内に、空手家さんの両手が円を描くような動き……。

 見惚れるような美しい動きだ……。

 格闘技というよりも、まるで舞いのような……。

 そして……。

「うわああああッ‼」

「うわああああッ‼」

「あ……す……すいません、つ……つい、うっかり……」

 両手による回し受け……それが、スタントマンさん達の手首に当たる寸前で止まり……。

 見たかった……多分、成功していただろう。

 でも……それが起きていたら……。

 空手家さんは、無意識の内に……最初のアレ……「捌き技(パリィ)と称する投げ技」をかけようとしていた……。

 それも2人同時に……。

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