お前は、絶対パリィするなッ‼ あと「合理的」って、ど〜ゆ〜意味だッ⁉
「あの、さっきも呼びましたよねッ⁉」
「は……はい……」
「ここの安全管理、どうなってんですかッ⁉」
監督が救急隊員に怒られている。
「え……えっと……その……」
「どうしても、怪我人が出かねない撮影をするんなら……ウチの上の方に話を通して下さい。そうすれば、救急車を、あらかじめ待機させとく事も出来ますので」
「は……はい……」
ドン……。
救急車が去った後、監督は疲れた……いや……疲れ切った……まるで「徹夜の残業をやったのに、何1つトラブルを解決出来ませんでした」級の表情で、え……えっと、ディレクターズ・チェアって言うんだっけ?……ともかく折り畳み椅子に腰を下し……いや、倒れ込みかけた、って言った方がいいのかな、これ?
「す……すいません、僕、やっぱり……」
「パリィだけで救急車を2台召喚」というロクデモない真似を素でやった空手家さんだが、流石に、自分がマズい事をしでかしたと気付いたようだ……。
「いや……主演のテッちゃんの事務所の社長さんからの紹介なんで……そっちに話を通してもらわないと、迂闊に、貴方を辞めさせる訳にはいかないんですよ」
そう言って、監督は、主演俳優の方に顔を向ける。
芸能関係に関しては、あんまり知らないけど……たしかに、言われてみれば、ネットでも良く見掛ける顔の人……ん?
「すげえ……」
おい……。
主演俳優は、大惨事を引き起した空手家さんと同じか、それ以上の天然みたいだ。
その主演俳優が空手家さんに向ける視線は、特撮ヒーローを見る男の子の目そのものだ。
ああ……なるほど……この人の所属事務所の社長さんの紹介か……。
「センセイ、凄いっす。マジで憧れます」
「あ……は……はい……ありがとうございます」
そこの事務所に居るのが、この人みたいなのばっかりなら……そこの社長さんが、どこで、この空手家さんの事を知ったか判んないけど、この2人よりレベルが上の天然の可能性が大有りだな。
撮影スタッフやスタントマンにとっては、たまったモノじゃないだろ〜けど……。
「じゃ……じゃあ、すいません、もう1回いいですか? 今度は、絶対に相手の攻撃を受けも捌きもせずに、躱すだけにして下さい」
いや、ちょっと待って。
俺は、「パリィだけで無双」ラノベのネタを得る為に、この空手家さんを取材してるんであって……えっと……。
待てよ、この空手家さんなら……「回避だけで無双」だって可能かも知れない。
この際、「パリィだけで無双」から「回避だけで無双」にジャンル変更も考えるべきか?
とか思っている内に、空手家さんと3人目のスタントマンさんがリハーサルのリハーサルを始め……。
スタントマンさんは、バットを振り降す真似。
空手家さんは回避せず……いや、待て、さっき、監督に何て言われたっけ……。
「うわあああああッ‼」
一瞬の後、スタントマンさんが恐怖の悲鳴。
さっき、別のスタントマンさんの指をパリィしただけで砕いた肘が鳩尾の辺りに……。
「あ……すいません、いつもの癖で……反射的に、回避したら、すぐ攻撃出来るような構えを取ってしまうんで……」
「いや、待って、回避って、一歩間違えば、当って……」
「いえ、バットが自分の体に当る危険性が有るなら……バットの先端が当るのと、根本が当たるの、どっちがマシですか?」
「は……え……えっと……」
あ……言われてみれば、そうだ。
バットを振り下した場合、スピードや重量が有るのは先端で……。
「いや、たしかに合理的っすね」
主演俳優は、呑気に、そうコメント。
ちょっと待て。
合理的って、そもそも、ど〜ゆ〜意味だ。
「合理的」ってのが、じっくり理性的に考えた上で出した結論だとするなら、反射的に取った行動なのに、常識には反してるけど、結果的には大正解なモノは何て呼べばいいんだ?
いや、結果的に、そっちが安全だとしても、普通の人間はバットを振り下してる人間と間合を詰めたりしね〜よッ‼
「あ……でも、こ……これ……一応、お芝居なんで……武道とかを知らない人でも回避してるのが判るような動きの方が……」
「あ……それも、そうですね。じゃあ、もう1回」
そして、再度、リハーサルのリハーサル。
スタントマンさんがバットを振り降す真似。
空手家さんが、それを横に回避……いや、待て、横じゃない。
まるで……スタントマンさんを中心に円を描くような動き……。
そして、またしても、空手家さんは、うっかり、回避した直後に反撃出来る構えを取ったみたいで……。
ギャグアニメだったら、ここで「ヒュ〜」ってな感じで、風が吹くだろう。
数秒か……それとも一分以上か……。
「うわあああああッ‼」
またしても、スタントマンさんの悲鳴。
「あ……す……すいません……」
「あ……あの……お……俺の勘違いかも知れないですけど……」
「は……はい……」
「もし、このまま、そのパンチを放ってたら……どこに当ってました……」
「は……はい……肝臓の真上ですね」




