えっ? それのどこが「パリィ」なの?
そして、GWになり、俺は弟に紹介された空手家さんの「関係者」って事で、ドラマの撮影現場に……。
って、何で、こんなに簡単に、ドラマの撮影現場に一般人が入れるんだよッ⁉
たまにドラマなんかで、やたらとセキュリティがガバガバの重要施設(大企業のデータセンターとか)が出て来るけど、それって、ドラマの撮影現場なんかが、こんな感じなんで、脚本家やスタッフも「大企業の重要施設なんかも、簡単に入れるんだろ」と思ってるのかッ⁉
「あ、こっちです。今からアクション・シーンの打ち合わせを……」
勝手が判らず、撮影現場をウロウロしてると……当然、スタッフから「何だ、こいつ?」的な目で見られる。
しかも、スタッフはヤンキーっぽいのとか、明らかに俺より齢上そうなゴツくて汚ないおっちゃんとか……。
そんな所で、例の空手家さんの声がした。
助かった、この他の人達の視線が異様に痛い状況から救われた。
「ああ、どうも……」
一応、挨拶すると……。
「じゃ、すいません、まずはアクションの段取りを決めましょう。えっと、このシーンでは、主人公は自分から攻撃しない、いいですね」
「はい」
空手家さんは、明るく朗らかに、そう答え……。
「じゃあ、アクションは、この人がスタントをやるんで、カメラさんは、この人の顔が写らない角度を考えて……ん〜と……」
「どうしました?」
「主演と筋肉が違い過ぎない?」
「いや、ちゃんと筋肉増やしてきましたよ」
スタッフの中でも偉そうな人の指摘に、主演らしいイケメンが答えるが……。
「量は同じだけど……気付く人は……服着てても、筋肉の付き方が違うの……ああ、気にし過ぎかなあ……?」
そのスタッフの中でも偉そうな人は、しばし、考え込み。
「まぁ、いいや。とりあえず、攻撃を受けるか捌くかして下さい」
偉そうなスタッフが、そう言うと……空手家さんの前に進み出てきたのは……。
ゴツい。
顔もゴツい。
体もゴツい。
多分、体重は空手家さんより一回りは上だ。
そして……手には……。
えっと……その……。
作り物だよね?
殴って命中しても問題無いよね?
その体も顔もゴツい兄ちゃんの手には……。
金属バット……。
待てや、こら。
そんなモノ、素手でパリィ出来るかッ?
「じゃあ、行きますよ」
「あ……ちょっと待って下さい。念の為、他の方は、僕達から距離を取って下さい」
えっ?
全員、顔を見合わせたり、首を傾げたりしながら……一応、空手家さんの言う通りにする。
「じゃ、どなたか合図して下さい。それで殴りかかって来て下さい」
空手家さんが、そう言うと……。
「じゃ、3でやって下さい。1……2の……」
体も顔もゴツい兄ちゃんは金属バットを構え……。
いや、ちょっと待って、その構え、殺意多過ぎない?
下手な所に当たったら……その……。
でも、空手の全国大会にまで出た事が有る俺の弟が「すげ〜、すげ〜」と阿呆みたいに誉めてた人だから……。
けど、良く判んね〜けど、体も顔もゴツい兄ちゃん、ひょっとして、剣道とかやってるの?
素人の俺でも、そう思う位、絵になる構え……って、どんなキャラって設定だよ、この兄ちゃん?
「3」
ドガシャ〜ン。
絶対に「パリィだけで無双」もののラノベがアニメ化された場合に、響きそうにない派手な音。
周囲に居る人間の視線の動きは……俺を含めて「もの凄いパリィ」を見た場合には絶対しないであろうモノ。
そう……何かの放物線を追うような……ん?
どこ行った?
顔も体もゴツい兄ちゃんが……さっきまで、両手でしっかり握ってた筈のモノが消えてる。
何で? 何で……何……いや、待て、空手家さんは……何で、自分達から離れろなんて言ったんだっけ?
「うわっ⁈」
あやうく命中する所だった。
おい……何が……起きた?
多分、全ては運が良かっただけなんだろう。
反射的に後退った俺がさっきまで居た所には……金属バットが落ちていた。
そして、宙を舞っていたのは……金属バットだけじゃなかった。
「えっ?」
空手家さんは驚いてた。
「あ……あれ?……えっと……体格とか……体の動きとかで……柔道をやられてたと思ったんで……大丈夫かと思ったんですが……えっと、手加減すべきでした?」
そして……スタッフの中で、一番エラそうな人が……。
まず、唖然とした表情。
続いて……深呼吸を始めた。
更に深呼吸。
まだ、深呼吸。
延々と深呼吸。
「ちょっと待って下さい。受けるか捌くかだけって言ったでしょ……」
ようやくツッコミを入れる。
「あの……これ……ウチの流派では捌き技なんですが……」
「で……でも……これ……」
「えっと……本当は、捌くと同時に足払いをするんですが……それはやってないので、あくまで捌き技……」
「いや……だからですね……どう考えても、これ投げ技でしょ‼」
顔も体もゴツくて……明らかに体重は空手家さんより上で……そして、空手家さんの言う通りなら、柔道をやってるらしい兄ちゃんは……。
数mは投げ飛ばされた上に、腰を打って悶絶……って……。
「ちょっと待って、それより、誰か救急車〜ッ‼ あと、応急措置出来る人居ますッ⁉」
スタッフの1人が、ようやく、正気に戻ったようだった。




