表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

えっ? それのどこが「チート」なの?

「なに、その『パリィだけでむそう』って? そもそも『むそう』って、どっちの『むそう』?」

 弟は、そう言いながら、ビールジョッキの表面の水滴を指先に付けると、テーブルに「無双」と「夢想」の2つの単語を書いた。

「こっち」

 俺は「無双」の方を指差す。

 昔は、俺も弟も、どっちもオタクだった。

 俺は、大学を卒業して会社に就職しても、オタクのまま。30近いのに、未だにラノベ作家を目指している。

 弟は何故か大学で空手部に入った。

 まぁ、オタクと言っても、好きなのは萌え系よりも格闘漫画なんかだったんで、そこは不思議じゃない。

 弟が大学に入って次の正月に実家に帰ってみると、そこには、顔だけは弟に似てる筋肉達磨が居た。

 もう、俺の知ってる弟じゃなかった。

 漫画やアニメよりも空手の方に、のめり込んぢまっていた。

 空手にハマり過ぎたせいで留年までした。流石に親は大激怒だったが……。

 そして、社会人になった後も、空手を続け、とうとう、アマチュアの全国大会にまで出場した事が有る。

「あと、パリィって何?」

「お前さ……」

「何?」

「ガチでオタクから足洗ったな……」

「そんなつもりは無いけど……空手の方が面白くて……えっと、話戻すけど、パリィって何?」

「受け技とか捌き技の事」

「それだけで無双するの?」

「うん」

「具体的な戦闘シーンは?」

 俺は自分のスマホに小説投稿サイトに有った「パリィで無双」ものの代表作を表示して弟に渡す。

 それも「序盤の山場」的な戦闘シーンが有るエピソードだ。

 弟は、それを読む。

 首を傾げる。

 変な表情(かお)になる。「何が、そこまで不審なんだ?」と言いたくなるレベルの表情(かお)だ。

 腕を組んで考え出す。

 そして、顔を上げた。いや、読み始めてから数分間しか経ってないだろうが……体感的には「ようやく顔を上げた」と言いたくなる位の時間が経過してる気がする。

「普通じゃん、これ。俺でも出来るよ」

「あ……あのなぁ……」

「いや、もっと凄い人知ってるよ。ガチでマジで神の『パリィだけで無双』の空手家」

「はぁ?」

「この前、他の道場と練習試合したんだけど……そこの師範代に負けちゃったんだよ。もう、負けた俺の方が逆に気持ちいいぐらいの完封負け。嫌味じゃなくて『勉強になりました。ありがとうございます』だったよ」

「おい、お前、全国大会に出た事が有……」

「全国大会って言ってもアマチュアだよ、アマチュア。本当に地道に努力してる人に手も足も出る訳ないじゃん。で、その人がやったのが、マジで『パリィで無双』ってヤツ」

「え?」

「向こうは受け技や捌き技しか使わなかった」

 ……。

 頭が真っ白になった。

 これだ……これこそが……俺の求めていたモノだ。

「おいっ‼」

「何?」

「その人、紹介しろッ‼」

「どうして?」

「取材してネタに使うッ‼」

「わ……わかったよ……」


 翌日、俺は、弟と一緒に、その空手道場に行った。

「兄ちゃん、これが昨日話した小郡(おごおり)さん。小郡(おごおり)さん、ウチの兄の信一郎です」

「あ、どうも、よろしく」

「あっ……はい、よろしく、お願いします」

 えっ?

 弟より若い。

 でも弟は敬語。

 筋肉も……弟ほどじゃない。

 顔は……。

 駄目だ。

 俺小説家向いてないかも知れない。

 上手く描写出来ない。

 イケメンじゃない。でも、ブサメンでもない。

 ただ……好青年。すげ〜好青年なのだけは判る。見るからに好青年。

「僕の事を取材されたいとの事ですが……残念ながら、これからバイトでして」

「へっ? バイト? 何の?」

「運送業です。力仕事は得意だし、鍛錬にもなるので……」

「で……でも……」

「中々、空手だけでは食っていけなくて……ああ、そうだ、今、どちらにお住いですか?」

「えっと……都内の会社に勤めてますが……まぁ、会社は川崎の社員寮ですけど……」

「では、次のゴールデン・ウィークに都内でTVドラマのアクション・スタントなんかの仕事が入ったんで、そこで取材出来ないか、ドラマのスタッフさんと調整してみましょう」

「は……はぁ、ありがとう、ございます」


「全国大会に出たお前より更に凄い人でも……食ってけないのか、空手だけじゃ」

「あのさ、プロ・ボクシングの上位ランカーだって、本業だけじゃ食ってけないんだぜ。そんなモノだよ」

 俺は帰り道、弟とそんな事を話した。

 たしかに、そうだ。

 異常なまでに空手にのめり込んだ弟も……地元の企業に勤める傍ら、空手を続けている。

 アマチュア全国大会に行けた奴でも、空手を食ってく為の仕事には出来ない。

「チート・スキルが有っても食ってけない……世の中はラノベじゃないか……」

「あとさ……」

「何?」

「あの人は全国大会とかに出られないんだよ。だから、すげ〜チートなのに『知る人ぞ知る』ような人なんだよ」

「な……どう言う事だよ?」

「危険過ぎんだよ、あの人のパリィは……だから……」

 弟は少し何かを考えてるようだった。

「そうだな……確かに俺は全国大会に出たよ。でも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「お……おい……どう言う事……?」

「あの人は単に凄いんじゃない。()()なんだよ……」

 えっ?

 俺は、この時点で気付くべきだった。

 ラノベなんかの「チート」は単に能力値やスキル値が高いヤツの事じゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって事に……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ