第一章 息子 海人
こちらの作品は2023年に一度投稿させて頂いた物になります。
一度投稿した作品があまりにも長文でしたので、気軽に読んで貰えるように区切って再投稿しております。
部屋に響き渡る程の鼓膜が破れそうな程の大きな声で喚き、口からはボタボタと涎が垂れ海人さんのズボンを濡らしていく。
そんな様子にも柑奈さんは、毅然とした態度で傍に居た。
そしてその時間がどれくらい経過しただろうか・・・
海人さんの叫び声が急に止まった。
七星柑奈は呼吸を荒くする海人さんの額から、指を離し背中を擦った。
「海人さん、聞こえますか?
頑張りましたね。もう大丈夫。
少し呼吸を整えましょう。息を吸ってそして吐いて。」
と海人さんの背中を擦りながら話しかけると、海人さんは柑奈さんの声に反応しているのか、呼吸を整えようと必死に酸素を吸ったり吐いたりしている。
「そうその調子。」
と擦る柑奈さんの様子を見て京采さんは腰を下ろし、稔一朗さんは圧倒されて固まっていた。
そんな私も完全にメモを取る事を忘れ、今起きている出来事に対して恐怖と安堵感が入り交じった感情でいっぱいになっていた。
「海人さん、少し頭の中が晴れてきましたね。
しっかりここに今居るという事、今私が海人さんに話しかけて居ることが少しずつで良いので理解していきましょう。
大丈夫。もう大丈夫。」
と背中を擦りながら、海人さんに話しかける。
海人さんは呼吸を整えることに必死なりながらも、少しずつ七星柑奈の言葉に反応し必死に状況を理解しようとしているようだった。
「そうです。その調子。
もう少しでもう完全に、海人さんのお祓いが終わります。
今、私の声が理解出来ますか?」
と言うとハッキリと海人さんが頷いた。
「良かった。」
と微笑むと海人さんの背中を擦り続けた。
暫くそうしていると、海人さんの呼吸音が安定してきて一定のリズムを刻むようになった。
その様子を見て背中を擦っていた七星柑奈は手を離し、ワンピースのポケットから緑色の珠々を出した。
そして珠々を見せながら、腰が完全に抜けている稔一朗さんに
「この珠々は私専用の珠々です。
今から海人さんに取り憑き、海人さんの事を壊そうとしていた怨念を完全に祓います。
ただ、この珠々の効果は今だけです。
一番大切なことは、海人さんが持ち帰ってしまった物があるのであればそれをお寺に処分して貰ってください。
そして、海人さん自身が遊び半分で行った場所に対して反省とその場に居たモノ達に謝罪をしてください。
寺で物を処分して頂くときに手を合わせるだけで十分です。
もし海人さんが持ち帰っていたのでは無く、何かを壊してしまったのであれば帰りに塩を渡します。
その塩を朝、昼、晩と必ず1ヶ月の間は、人差し指の分くらいは舐めて心から反省と謝罪をしてください。
お父様、息子さんにそれをさせる事を約束して頂けますか?」
と聞くと腰を抜かした稔一朗さんは、何度も何度も頭を上下に振って力なく
分かりました。分かりました。と言った。
その言葉を聞いて七星柑奈は、海人さんにまた話しかけた。
「海人さん聞こえてましたか?
今、お父様にお話をした事が出来ますか?」
と聞く。
海人さんはまだ項垂れながらも、力強く何度も頷いた。
「分かりました。それではこれからお祓いをしますね。」
と言い珠々を何度か両手であやとりをするようにジャラジャラと鳴らし、柑奈さんは目を瞑った。
そして小さな声でお経を唱える。
そのお経は、般若心経だった。
小さな声で何度も珠々を鳴らしては、般若心経を唱える。
そして何度か珠々を鳴らした後、海人さんの背中に珠々を擦りつけるようにして擦る。
暫くしてからお経が唱え終わると、少しずつ海人さんの頭が持ち上がてきた。
目が先程とは全く違いしっかりしている。
どこかスッキリしたような表情の海人さんに、背中を珠々で擦りながら
「よく頑張りましたね。
もう大丈夫。
海人さんが必ず私と交わした約束を守ってくだされば、二度ともう頭の中に居た人物は戻ってきません。
もう大丈夫ですよ。」
と言った。
海人さんは掠れた声で
「・・・ありがとうございます。」
と言った。
七星柑奈、は海人さんのお礼の言葉ににっこり笑うと
「お次は奥様の編実さんですね。」
と海人さんの傍から離れ、最初に座っていた席にまた座り直した。
以前どこかで書いたことがありますが、私は父の遺伝で元々視える体質でした。
物心ついた頃には当たり前でしたので、逆にこの人は存在しない人なのだと周りの人間に確認して認識するようにしていました。
一番覚えているのは、昔住んでいた家にあるクローゼットです。
そこは本当に怖い記憶しかありません。
何故ならそこには沢山のヒトが詰め込まれており、満員電車のようにしてギュウギュウ詰めだったからです。
私はそこをなるべく見ずに過ごしておりました。
引っ越しをしてから聞いた話ですが、母の知り合い2人が霊感が強い方らしくあの私が嫌いだった場所は霊道の行き止まりだったそうで、クローゼットに沢山のヒトが溜まっているから窓を開けて換気をした方が良いと助言されていたそうです。
一度大きくなってからあの家に訪れたことがありますが、頭上から「お帰り」と複数の人数の声で言われた日の事は一生忘れられないと思います。




