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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第4章 一輪の青いアネモネ
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case02 訪ねてきたのは



 気持ちが焦っていたのかもしれない。



(俺に会いたいって、明智の名前を出していったいどこのどいつだ?)



 この4年間ひっしに調べたというのに手がかりもなく、足取りもつかめなかったというのに、どうして今になって明智を知る人物が訪ねてきたのだろうか。まあ、理由はどうでもいい。チャンスだと、俺は待たせている人物のもとに向かった。

 後輩に「ここです」とその人物を待たせている部屋に案内され、俺は息を大きく吸う。全く誰かも予想が出来ないが、後輩によると20代ぐらいの女性らしい。本当に全く聞き覚えも、記憶にもないためわからなかった。合コンには参加していたが、20代前半となるとまた話は違ってくる。


 俺は、扉をノックしたのち、部屋の中に入った。

 白い長テーブルにパイプいすが置いてあるだけの簡易的な部屋。そこに彼女はいた。



「……安護?」


 成長しているものの、その面影はしっかりと残っており、すぐにその人物が誰だかわかってしまった。 



 安護綾子――――、


 明智が探偵をしているときに依頼に来ていた少女がそこにいた。4年たっているといいうことは、大学生か就職しているということだろう。少しラフ目な格好をしているためどちらかはわからなかったが、目つきの悪さや、その黒々とした髪は何一つ変わっていなかった。



(何でこいつが?)


 疑問が頭の中を埋め尽くす。全く想像もしていなかった人物で、また4年ぶりの再会ということもあって少し気が動転している。だが、それを悟られまいと俺は咳払いをする。

 綾子と目が合い、相変わらずの睨んでいるのかもともとそうなのかわからない目を向けられている。彼女も4年ぶりだったが俺のことを覚えていてくれているようだった。といっても、互いに1度しか顔を合わせていない相手でありよく記憶に残っていたものだと思った。俺も記憶力はいいほうではなかったが、彼女の姿は忘れたことはなかった。



「……えと」

「お前が、俺に会いたいって訪ねてきたやつか?」



 どう切り出せばいいかわからないといった顔で綾子が見てきた為、俺から話の切り口を作ってやる。大柄な態度で第1声がこれで申し訳ないと思いつつも、俺は目の前のパイプ椅子に腰かける。

 話があると訪ねてきたんだ。理由はしっかり聞くつもりだ。

 明智や神津の仇を打つことが出来るかもしれない。そんな淡い期待もあった。まだ、会いたいということしか言われていないのに、これから言われる内容が大方予想がついていた。

 そんな気がするのだ。


 綾子は、少しだけむっと口を尖らせた。俺の態度が気に食わなかったんだろうと思うが、彼女も気を落ち着かせるためか深く息を吸ってはいていた。

 それから、俺をじっと見る。



「ああ、そうだ。とある人物から『高嶺澪』刑事を訪ねるといいといわれたからな」



と、どこか男勝りな口調で綾子は言う。


 俺は別に有名でもないし、顔が知れているわけでもない。ただ一介の刑事に過ぎないのだ。他にもたくさん存在する刑事ではなく俺を名指ししたのはどういうことか。明智のことを知っているという点に関しては俺が1番だろうが、それを綾子が知っているとは限らない。では、誰の情報か。



「誰に言われたんだ?」

「それは、分からない」

「分からないってどういうことだよ」



 綾子は首を横に振った。それは、隠し事をしているという感じでもなく、嘘をついているという感じでもなかったため、これ以上責めるわけにはいかないと思った。ほとんどいえば、初対面のような関係であるからだ。それも、明智を通しての関係。

 彼奴が死んだともこんな縁が繋がっていると思うと、彼奴が生きていたっていう証拠にもなって頬がほころんでしまう。



「……本当にわからないんだ。ただ明智探偵の『警察時代の上司』と名乗っていた」



 そう付け加えるように綾子は言った。


 その言葉から導き出されるに、綾子が正体がわからないといった点も含め公安の人間なのだろうと思った。だが、わざわざそんな奴が一般人の綾子に接触するだろうか。協力者にならないのなら接点が出来ないはずだ。だが、綾子が公安の協力者という感じにも見えない。

 となると、その上司と名乗ったやつの個人的な頼みだろうか。

 明智が公安時代どうだったかは何もわからないままだった。だが、1度だけ苦手な奴がいる、とこぼしたことがあったため、多分そいつのことだろう。明智は嫌っていたようだが、その上司は明智のことを思っているようだった。公安と一警察官では全く違うし、関わることもあまりなく、どちらかというといがみ合っているような存在だ。だからこそ、こっちはこっち、公安は公安と分けている。まあ、それが今回どういうことかつながってしまったわけだが。



(そんなことはどうでもいい、ただその上司が俺を名指しした意味が分からない)



 もっと優秀な奴がいたはずだとか、俺を名指しする理由もどうやって明智の交友関係を調べたかもわからない。ただ、何もわからず話が進んでいたのは気に食わなかった。

 俺は、とりあえず考えることは後回しにし、結局何で訪ねてきたかを聞くことにした。



「まあ、お前がどういった経緯で俺にたどり着いたかは分からねぇけど、それで?俺に明智の何を聞きたいんだよ」



 そう聞けば綾子は違うという風に首を振り、すっと背筋を伸ばした。



「アタシが今日、高嶺刑事を訪ねた理由は、明智探偵を殺した犯人を伝えに来たからだ」



 そうはっきりといった綾子の目は嘘をついている風には見えなかった。




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