case03 何つった?
(今、何つった?)
綾子の真剣でまっすぐな目を見ていると、疑いようもない事実で、真実を伝えに来たというのがわかったが、俺は理解が追い付かず口を開くしかなかった。
明智を殺した犯人を知っている。それを俺に伝えに来た。
要約するとそうだった。
だが、いくつもの疑問と不振点が上がってき、早速キャパオーバーになりそうだった。いいや、なっている。
「高嶺刑事?」
綾子は黙ってしまった俺のことを心配したのか呆れたのか、俺の顔を覗き込んで言葉を待っているようだった。特大の情報を持ってきた彼女に聞きたいことは沢山あったが、まず、なぜそれを彼女が知っているかだ。
(明智の上司ってやつがわざわざ教えたのか?なら知っていて、なぜ捕まらない?)
理由は簡単で、明智を殺した犯人、つまり爆弾魔のバックにいるのが海外のマフィアだからだろう。だとしても、公安であれば足取りをつかみ捕まえることが不可能ではないはずだ。可能性があるのであれば動いてほしい、そう思いながらも、国家犯罪ではない為動くこともないかと諦めもあった。俺の母ちゃんの時も何かを知っていたみたいだが、結局何も教えてくれなかったわけで、公安とは秘密主義で重い腰を上げない存在なのだと思い知らされた。
なら、今回の場合はどういうことだろうか。
綾子を通じて明智の情報を教える? そうしてあっちに何のメリットがあるのだろうか。
訳が分からない。ただその一言に尽きた。
「何で、お前が知っている?つか、それを何で俺に」
「協力を仰ぎたいから……違うか、1番あの事件を追っている高嶺刑事の力になりたいから、といったほうが正しいか」
綾子は悩んだのちにそう答えた。
その言葉を聞いてますますわからなくなった。綾子が今どういう立場でどんな生活をしているかわからないが、なぜ俺なのか。4年前からあの事件を追っているのは事実であり、それを公安がこそこそ調べやがって、綾子に言ったのであれば理解ができる。だが、なぜ彼女なのだろうか。
「それは、公安からの協力……彼奴らの協力者で、当事者であり明智のことを知っているから俺を訪ねてきたと」
そう聞けば、綾子は首を傾げた。
「いいや、すまない。アタシにはその警察の仕組みというか組織のことがよくわからないんだ。公安がどうとか、そういうことではなく……確かに私があった男はそういう雰囲気だったが、そういう理由でここに来たんじゃない」
と、綾子ははっきりといった。
俺の小さな脳では、到底理解できる内容ではなかった。明智であれば彼女の言いたいことも、真意も、行動理由もすべて推理して言葉が足りないところを勝手に頭で補っていただろう。だが俺は明智ほど優秀ではない。
足りない頭で考えつつ、どうにか答えを出そうとしたが結局時間の無駄だった。
「お前の言っていることがわからない」
「アタシも、何故貴方のような人を訪ねなければならなかったのか理解できない」
「ディスってんのか!?」
遠回しにディスられたような、頭が悪いとでも言われたような気がして、俺は思わずかみついてしまった。綾子はそれを見て小さなため息をついた。そりゃ、明智と比べりゃどうしようもない人間かもしれねぇし、明智と面識のある綾子からしたら俺なんて取るに足りないような存在だろう。俺の力になりたいではなく、私の力になってほしいといわれたほうがしっくりくる。それでも、受け身に徹しているのは理由があるのだろう。
「はあ……明智探偵であればすぐに気づいてくれるだろうに」
「……」
「先ほどの言葉は撤回しよう」
「撤回しきれないがな」
綾子は俺が機嫌が悪くなったことを察したのか、取り敢えずといった感じに頭を下げた。それで怒りが収まるわけもなかったが、年下の女相手にかっかしてても仕方がないと、ここは大人になることにする。いや、大人だが。
綾子は俺よりも年が下のはずなのに妙に落ち着いており、物事をはっきり見定めているといった感じだった。その姿が姉ちゃんに重なり、苦手なタイプだと思う。
「話は戻すが、アタシは明智探偵を殺した犯人を知っている」
「どーして、お前がそれを知ってんだよ。つか、何で今なんだ?4年前に分かっていたら、もっと早く捕まえられたかもしれねぇだろうが」
ついさっき知ったというのであれば、仕方がない。だが、綾子の雰囲気からしてそうではないことは明確だった。だからこそ、怒りが蓄積される。
綾子はすまないというように頭を下げた。しかし、こいつにも譲れないものがあるのだろう。そんな感じがする。
「4年前に分かっていたら……ああ、そうだ。いいや、もっと前から知っていた。ジュエリーランドの爆発も、電車も、ビルも、飛行機も……全部そいつの仕業だと知っていた」
衝撃的な告白をする綾子に開いた口が塞がらなかった。
俺は今何を聞かされているんだと。
綾子は、思い出したように鞄の中から1枚の写真を取り出し俺に渡した。スッとテーブルの上を滑って写真が俺のもとに届く。俺はそれをめくって写真に写った人物を見て目を見開いた。
「……その様子だと会ったことがあるらしいな」
「は……あ?」
綾子の言葉通り、その写真の人物には見覚えがあった。名前までは知らないし、言葉を1度交わしただけだった。記憶に残っていないとも思っていた。だが、その写真を見てぶわっと血が駆け巡るような感覚に陥った。
「明智探偵を、ならんで神津探偵を殺した爆弾魔は――――アタシの友人だ」




