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届いた荷物が差出人不明。そして何やら蠢いている

今回は、大苦戦。

でも楽しかったです。皆様にも楽しんでいただけたら幸いです。

 突然だが、ゼンは困惑している。

 何にかと言うと、この差出人不明のこの箱にである。

 よく見ると、ゼン様へという宛名があることから、ゼンに当てたものであるということは、わかっているのだが。

 中を開ければいいと思っている諸君、それは無理だ。

 とてもではないが、ゼンにこの箱を開ける勇気はない。

 文庫本が5冊くらい重ねて入れられそうな大きさのその箱からは、虫が蠢いているような、嫌な音が聞こえているのだから。

 この箱に心当たりがないかと言われれば、ゼンはないことも無いと答えるだろう。

 理由は単純、フローズの告白をよく思っていない輩が、チマチマと嫌がらせをしてくるからだ。

 よく、不幸の手紙的な者が、用務員室に投げ込まれているが、ゼンはことごとくそれらを無視してきた。

 そして送られてきたのが、この不気味な箱だった。


「・・・無理」


 先程から、何度か開けようと試みているものの、その黒い悪魔が駆けずり回っている様な音に、ゼンは結局手を引っ込めてしまっている。


「ふう・・・。男は度胸!」


 いざと箱に手をかけた瞬間だった。


「ゼン、いる!?」

「うひゃあああ!!!」


 突然扉を開けられ、驚いたゼンは、持っていた箱を取り落とした。

 ガコンという鈍い音と共に、何かが蠢いているような嫌な音も、ピタリと止まった。


「??どうかしたのか?」


 扉を開けたのは、ゼンの親友であるニコだった。彼は、顔を真っ青にしているゼンを見て、キョトンと首をかしげた。


「い、いや、何でもないよ!!それより、何の用?」

「あ、いやー、実習中に、窓ガラス壊した馬鹿がいて・・・」

「わかった。片付けに行くよ」


 そういうと、意識を仕事モードに切り替えたゼンは、手早く道具を用意して、用務員室から飛び出した。

 だから気が付かなかった。落とした衝撃で、箱が開いてしまっていることを。


 ゼンが、用務員室に帰ってきたのは、それから数時間たってからのことだった。

 かなり広範囲に渡り、窓ガラスが割れていたので、片付けに手間取ったのだ。


「ふー、疲れた・・・」


 ドサリと椅子に座ったゼンは、ふと辺りを見回して、箱が開いていることに気がついた。


「◎ヽ※〒♂ゝ□◆▲∀!?!?」


 声にならない叫び声を上げてゼンは、椅子から飛び上がった。


「えっ、ちょっとまって、開いてる?」


 そっと箱を持ち上げたゼンは、送られてきたのより、明らかに軽くなったその箱に、さあーと顔を青くした。


「や、やばいやばいやばいヤバイ!!」


 もしもあの箱の中身が、黒い悪魔だったら・・・と考えて、ゼンはパニックになった。


「どうしよう・・・」


 ガサガサとそこら中をひっくり返し始めたゼンに、再び来客を告げるノックが鳴らされた。

 ノックはされたものの、ゼンが返事をする前に、バタンと開かれた。


「ゼン、お茶しましょ」


 そう言って、用務員室に入ってきたのは、公爵令嬢であるフローズだった。

 彼女は、慌てて、部屋中をひっくり返しているゼンを見て、キョトンと首をかしげた。


「何しているの?」

「ああ、フローズ。あの、その箱が開いて・・・」


 パニックになって、要領の得ない言葉しか発せられなくなったゼンの話を根気強く聞いたフローズは、その箱をしげしげと眺めた。

 フローズはその箱を見て、犯人の目星がついた。なぜなら、この世界で一般的に使われる、木で作られた箱ではなく、ダンボールの箱だったのだから。

 これは、フローズと同じく、前世の記憶を持つものでしか有り得ない。

 ついでに言うなら、フローズ以外でゼンに関わりのある転生者は、一人しかいない。


「ゼン、ちょっと急用ができたわ。お茶はまた今度ね」

「わかった・・・」

「大丈夫、この箱は、悪意があって送られてきたものでは無いわ」


 フローズがそう言い切ると、ゼンは首をかしげた。


「あなたが、理解できないのはよく分かるわ。でも、私を信じて」


 ねっと言って微笑んだフローズを見て、ゼンは何だ大丈夫なのかと、安心した。本人も無意識だったのだが、知らない間に、フローズを受け入れていたということなのだろう。


「フローズがそう言うなら・・・」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね。じゃあ御機嫌よう」


 颯爽と部屋から出て行ったフローズを見送ってゼンは、自分が散らかした部屋の片付けをするために、床にしゃがんだ。

 そして、見つけた。あの箱の中身を。


「・・・コレって、もしかして」


 ゼンがそう言って拾ったのは、生き物であって生き物でないものだった。

 本の形をしたそれは、一般的にグリムワと呼ばれる、迷宮に出てくる本の形をした魔物の姿形そのものだが、ゼンが今手に取っているのは、自分の父親が、寮で暮らすゼンのために、定期的に送ってくる魔導書だ。

 ゼン以外の誰にも読まれないようにと、自衛機能や父親が言っていたジンコーチノーというものをつけた結果、生まれたこの魔導書は、ゼンの師匠でもある父親が、全技術を注いで作ったお陰で、犬のような仕草をする。

 現に今も、本来はないハズの尻尾が振られているのが分かるくらいに、嬉しそうにゼンに飛びついている。


「ごめんね。いつもと違う箱だったから、まさかお前達とは思わなくて。落としちゃった」


 ゼンがそう語りかけると、魔導書はキョトンと首を傾げるような仕草をした。

 相手は、無機物。痛覚などないと分かっていても、ついつい話しかけてしまう。


「父さんが、何の魔法を作ったのか見せてくれないか?」


 そうゼンが頼むと、魔導書はただの本のように、ページを開いた。

 その後、フローズのことを思い出したゼンが、慌ててとめに行こうとしたが、時既に遅し。フローズは学校を出た後だった。


 数日後、父親からの詫びの手紙が届いたことから、フローズが自分の父親が贈り主だと正確に、辿り着いていたのがわかった。


「・・・何で、分かったったんだろう?」


 そう呟いて首をかしげたゼンを真似して、今回届いた系3冊の魔導書が、首をかしげる仕草をしたのが、妙に印象に残るそんな日常の中の一幕であった。

お粗末さまでした。

次は時島長雨さん。

お題は『異世界だと思った?残念、〇〇だよ』です。

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