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神獣の後継者の秘密  作者: 雅樹
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活動報告更新してます


 「そっか、あの子はまたしても僕を拒むんだ…。」

 

 真っ白な空間にポツンと1つだけ存在する荘厳な椅子に腰かけていた人物がそう呟く。その姿は曖昧で、そこにいると分かるだけではっきりとした容姿は分からない。そんな人物の目の前には片膝をつき、頭を深々と下げる血塗れの二人の天使。分体のダメージを逃がすことなくその身に受けたジールとミカエリウスである。傷はもう塞がったが、まだ衣服に付いた血は落ちていない。

 

 「申し訳ありません。予想外の邪魔も入り、別行動をしていたリフィア隊も何かしらの攻撃を受けたのか、完全消滅を確認しました。」

 「ファーザー!本当に邪魔したあいつさえいれば、あの魂を連れてこれたんだ。」

 「言い訳は聞きたくないなー?ミカ。」

 「っ…。」

 

 椅子に座る人物の言葉に一度顔をあげたミカエリウスはまた頭を垂れ、完全に沈黙する。淡々と報告をあげただけのジールはずっと頭を垂れたまま、これからくだされるであろう罰を覚悟している。

 

 「まあ、期待はしてなかったけどね?あそこはもう僕の理から外れた場所。あの子の楽園だから何かあるとは思ってたけど、まさか消滅していたと思っていたあのドラゴンとあの子にあげた僕の道具がまだ生きてたとはねぇ…。そりゃあ、なんの武装もしてない君達が勝てるわけないよ。」

 

 負けたというのに天使達の主は何処か楽しそうに言葉を紡ぐ。こういう主だということを彼らは理解しているが、負けたことが二人にとっては悔しかった。

 

 「まあ、しばらくは様子見かな。もう戻っていいよ。何かあればまた呼ぶからさ。」

 「御意。」

 

 すぐに空間から二人は消え、椅子に座る人物だけが残る。今まで天使がいた場所に視線を向けながらその存在はとても楽しそうな雰囲気を纏う。

 

 「ふふっ、あはははっ!ようやく…ようやく見つけたんだ、もう逃がさないからね、僕の可愛い娘。地上界にいる出来損ないで反抗的な子供達とは違う僕の最高傑作っ!必ず、必ず僕の手元に戻してあげるからね…。あのドラゴンに自分を殺させて神としての枷から逃げられたとしても、僕からは逃げられないよ!…反逆者(しっぱいさく)との幸せなんて許してあげないんだから…。」

 

 椅子から立ち上がったそれはしばらく大きな声で笑い続けたのち、一瞬にして姿を消したのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上界にある大国、アンフィス。中央大陸と呼ばれる地上界で一番大きな大陸の南半分を統治するその国は自然豊かで平穏な国である。

 その国の首都であるバエナの郊外に存在する大きな三日月型の湖の側に厳重な警備をしている兵士に護られたきらびやかな衣装を身に纏う集団がいた。

 そして、その集団から離れたところである二人組が湖の側を歩いている。

 

 「シエル様、そんなに水辺に近づいては落ちてしまいますよ。」

 「大丈夫だよ、ソフィ。私がそんなヘマをしたことがあったかい?」

 「そうですが、危険なのには変わりありませんよ?」

 「大丈夫だって、心配性だなぁ。」

 

 湖の側を歩く少女に濃い青の長い髪をうなじ辺りで一つにまとめ、心配そうな色を宿す琥珀色の瞳を少女に向けたヴィクトリアンメイド服を身に纏う20代後半くらいの側付きの侍女が声をかける

 しかし、少女はその言葉を聞き流し、歩き続けている。

 肩胛骨辺りまでのびる金の糸のような美しい髪が風に弄ばれるように舞い、光を反射する湖をエメラルドグリーンの瞳が眩しそうに目を細めながら見てる。女の子らしい顔立ちというよりも中性的でどちらにも見える活発的な顔立ちをしていた。身に纏うは薄紫色のゴシックドレスで動きやすさを重視したものなのかそのスカートの丈は短い。そんな格好に似合わぬシンプルな長剣を腰に装備している。

 

 「シエルー!あまり遠くに言っては駄目よー?」

 「はーい!姉さん達は久々の外なんだから楽しんでねー!」

 「分かってるわー!」

 

 離れたところにいる姉達の声に足を止め、互いに大きめな声を出しながら会話するも終わればまた歩きだす。もう注意することを諦めたのかソフィは仕方ないといった表情で後ろをついて歩く。主であるこの少女が言うことを聞かないのはいつものことなのだ。

 その時、近くの茂みが揺れ、ソフィが警戒するが、現れたのは青みがかった銀の鱗をもつ一匹の蛇だった。正体が分かるとソフィはいつも間にか服の中に忍ばせていた手を出し、姿勢を正す。

 

 「お帰り、ジーク。何か分かったかい?」

 《ぜんぜん。でもここいら周辺の自然精霊や妖精がバエナの精霊達よりも騒いでいるから何か起きるかもしれないよ。》

 

 差し出した腕に巻きついたジークと呼ばれた蛇の報告にシエルは眉を寄せる。

 

 ジークはただの蛇ではなく、一種の精霊である。シエルが生まれたときに同時に誕生し、共生契約を結んでいるのだ。アンフィスの住民、特にバエナに住む者のほとんどが生まれたときに同時に誕生した精霊と本能的に共生契約を結ぶ特殊な国で、国外から来た者もこの国に住んでいるうちに自然精霊と呼ばれるこの国特有の精霊と契約を結ぶ。たくさんの精霊や妖精と呼ばれる存在が多くいる国のため、その恩恵で長年この国は平和で自然豊かな土地に恵まれていた。

 

 「いつもはこんなことないのに、一体どうしたんだろう。」

 

 本来この湖にやって来るのはシエルとジーク、そして侍女のソフィだけのはずだった。今朝からバエナの自然精霊が何処か騒がしく、王である父と共生契約している精霊が湖に原因があると言ったために末っ子であり、剣や魔法を得意とするシエルの勉強も兼ねてちょうどいいからという理由で調査することになった。元よりこの湖周辺は魔物が出現する場所でもなく、穏やかな気性の動物達の憩いの場であり、人間にとってもとても落ち着ける場所のためシエルだけで大丈夫だろうということをだったのだが、暇をもて余していた姉達に捕まり、気づいたら一緒に行くことになっていたのだ。

 

 《何があるか分からないし、お前の姉達には帰ってもらった方が良いんじゃないか?》

 「やっぱりその方が良いよね…。」

 

 何が起きるか分からない状況にいくら護衛の兵士が側にいるからといって安全ではない。やはり城に帰した方が良いと思い、姉達のところに戻ろうとした時、足元を一匹の茶色の野うさぎが通りすぎた。

 

 「えっ、あのうさぎってこんな湖の側にほとんど来ないよね?」

 「えぇ、彼らは森に住む種類ですが…。」

 

 ソフィの言葉を聞きながら飛び跳ねて移動していく野うさぎをなんとなく目で追っていくとその先の水辺に何かいた。うさぎもそこを目指しているようで、よく見ると半透明な姿の自然精霊達がその“何か”の上に集まっている。

 

 「ジーク、もしかして…。」

 《お前の思ってる通りだと思うぞ?会話は離れてるからちゃんと聞こえないが、相当精霊達が焦ってる。》

 「行ってみよう!」

 「はい。」

 

 慌ててそちらに近づいていくといつもは穏やかな湖に住まう水霊達が近づくなというような雰囲気を向けてきて、シエル達は少し離れたところで足を止めた。そして水霊達の下にいる“何か”を確認すると目を見開いて驚く。

 そこには白銀の髪に雪のような肌の少女が全身濡れた状態で倒れており、その周りを数十匹の野うさぎがまるで暖めようとするように少女にくっついていたのだから。

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