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彩麒に呆気なくボコボコにされ、拘束されてもずっと喚いている少女天使と満身創痍な配下の天使達。どうしたものかと人の姿に戻り、そう考えていた彩麒は唐突に蒼麟の存在がこの地から消え、体に宿るある力が同時に体からほとんど抜けていったことに動揺をを隠せない。
それは精霊達も同様で、今まで繋がっていた蒼麟との回路のようなものが意図的に寸断されたのだ。突然のことに五人は状況が理解できずに固まっているとわめいていた少女天使がその様子を見てニヤリと笑う。
「その様子じゃ別動隊が回収したのかもね。」
「別動隊だと?」
「えぇ、なんてったって別動隊はミカエリウス様だもの。」
「何?ミカエリウスだと?」
「えぇ、我らの天使長であるジール様の右腕であるミカエリウス様。小娘が一人なら捕まえるのもたやす…。」
「はぁ…。確実にヴェルを怒らせる発言をして分体を消滅させられたな。」
「はっ?ヴェルって誰よ。」
言葉の途中でため息をつきながら言った彩麒の発言に少女天使は間抜けな声を出しながら問いかけていた。
「氷絶のヴェルガード。神殺しの咎をもつ古代竜と言えば分かるか?」
「ひっ…。」
相手を見下ろしながらそう言えば天使達は全員顔色を悪くし、悲鳴をあげた。ここまで怯える原因はヴェルガの過去に原因があるのだが、これは天使が仕える神側に問題があるため、彩麒は自業自得だと思っている。
《なんだ、こっちにもおったのか。》
頭上からの風圧と直接頭に響いてくる声に彩麒は顔を上げ、天使達は体を硬直させ、顔色が一気に悪くなった。そんなこととも知らず、天使達の側に降り立ったヴェルガはさて、どう切り出そうかと彩麒の顔を見る。すぐに目が合うと彩麒は誰もが見惚れるような微笑を浮かべた。人の姿の彼は顔立ちの整った美丈夫なため、微笑めば周りの目を奪う。しかし、今の彼は微笑んではいるが、目は完全に笑っておらず、怒気の含んだ神気を抑えることなく垂れ流している。
「…蒼麟はどうした。まさか連れていかれたのではあるまいな?」
《っ…天使に連れていかせるわけないだろうが。そう、怒るな。》
「では、蒼麟は何処だ。精霊達は繋がりが切れたようであるし、我など“アレ”がほとんど持っていかれたんだぞ?」
《天使どもは凍らせて砕いた。今頃分体のダメージが本体に影響されてるだろう。……でだ、ソウリンなんだが…“アレ”を使って多分外界へと飛んだのだと思う。詠唱でそんなことを呟いていたからな…。》
完全に怒りを隠そうとせず、いつもは完全に絶っている神気を放っている彩麒の様子に若干怯えながらヴェルガは答える。いつもの威厳のある喋り方など捨て、素の口調に戻っているが、この方が火に油を注ぐ結果には繋がらないと長年の交友関係が証明している。反対に彼の怒りの余波を側で受けてしまっている四人の精霊達はなんとか耐えているが、天使達は絶望的の表情を浮かべており、手下の一人は泡を吹いて気絶している始末である。
「“アレ”は完全に器に戻った、か。ならば、安全ではあるが…何故、そんな状況になった。」
《それ、なんだが…。》
先程までの出来事をヴェルガは素直に全て話した。黙っていたり、嘘を言って自分に彩麒の逆鱗が向けられるのは勘弁してほしいためである。ヴェルガの話を聞き、彼の怒りは捕らわれていた天使達に向いた。向けられた怒りに天使達は言葉を発することなく、突如空から落ちてきた雷にその体を貫かれ、体の内側からその身を一瞬にして灰塵と化した。痛みも自分が死んだということも分からないまま消えた天使達に精霊達とヴェルガは心の中で手を合わせた。ヴェルガが砕いたジールとミカエリウスとは違い、ここに今までいた天使達の体は実体だったため、もう同じ天使として生き返ることはできないだろう。
「おのれ…会ったら必ずこの手で殺してくれる…。あのクソ神と同様にな…。」
呪詛ごとき言葉を吐く彩麒にお前は本当に神獣なのかと心の中でヴェルガは突っ込むが言葉には出さない。まだ死にたくはないから。
《それよりも、だ。蒼麟を探しにいかんのか?お前なら今すぐでも飛び出して行くと思ったんだが…。》
「……“アレ”がほとんど蒼麟の体に戻った状態であるからな。何かあっても外界に存在する精霊や妖精が彼女を守るだろう。それに我も我を手伝っていた精霊達、そしてお前もこの“神に見捨てられた箱庭”に縛られている。そう簡単には外界には出られん。」
《いや、今のお前ならそれをぶち壊して出ていきそうだから、な…。》
「ここはあの方に任された地。勝手にそんなことをして空間を歪めてしまったらあの方を悲しませることになる。そんなことは絶対にせん。」
《あ、そうか…そうだな、うん。》
そんなことを考える余裕はあるのだと感心する一方で、その全てが“あの方”のためというのだから呆れてしまう。初めて出会った時から変わらぬその思いにヴェルガはこういう奴なのだともう諦めていた。
「今はあの天使どもが箱庭に開けていった穴を塞ぐのが最優先だ。ヴェル、手伝えよ?」
《分かっている。そう睨むなよ。きちんと働く。》
「ならいい。」
助けに今すぐにでも行きたい。それはここにいる全員の気持ちだった。だが、焦ってもどうにもならないこともあるということを分かっているため、彼らはまず出来ることをすために行動を開始するのだった。




