表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

【BL異世界小説】花嫁は知らない世界で咲く 第七話 「台所へ」

俺は雉と筍を眺めながら台所へ入った。


「さて……どう料理するか」


調味料なし。


油なし。


味噌なし。


醤油なし。


「……詰んでるな」


思わず頭を掻く。


前世なら、この雉で唐揚げを作っていた。


生姜と醤油で下味を付けて。


片栗粉をまぶして。


熱々を頬張る。


想像しただけで腹が鳴る。


「食べたい……」


でも。


ないものは、ない。


台所を探していると、小さな土瓶を見つけた。


蓋を開ける。


底に少しだけ黄金色の液体。


「蜂蜜?」


どうやら薬を飲む時に、お湯へ溶かして使っていたらしい。


「なるほど」


俺はにやりと笑った。


「できた」


頭の中で献立が完成する。


その時。


「えっと……」


後ろから、おずおずと声がした。


「ぼ、僕が……茹でましょうか?」


「いや、大丈夫」


即答すると、朝日は「あ……」と小さく肩を落とした。


しまった。


断り方が悪かった。


「一緒に作ろう」


俺は笑って言い直す。


「俺が料理するから、朝日は手伝って」


「え……」


「駄目です」


「え?」


「蒼様を台所へ立たせるなんて……」


蒼様。


その呼び方に、俺は思わず眉をひそめる。


耳がむず痒い。


いきなり呼び方を変えろとは言えない。


でも、そのうち何とかしよう。


俺は雉の羽をむしり、綺麗に洗う。


食べやすい大きさへ切り分ける。


塩をほんの少しだけ擦り込み。


竹串へ四切れずつ刺した。


そして竈の横へ串を立て、炭火でじっくり焼いていく。


鉄板があれば最高なんだけど。


今はこれで十分だ。


残った手羽と首の骨は鍋へ。


水を張り。


塩を少々。


干し大根。


雉の卵を一つ。


掘ってきた筍も薄切りにして入れる。


ことこと煮込む。


湯気が立ち始めた。


「味噌があれば完璧だったなぁ」


それだけが惜しい。


残った粟ではご飯にならない。


今夜はこの汁物が主役だ。


もう一つの鍋では湯を沸かす。


この時代の井戸水を、そのまま飲む気にはなれない。


幸い山道にはヨモギが群生していた。


乾燥させればお茶代わりになる。


「朝日」


「はい」


「今まで、お湯には何を入れて飲んでた?」


朝日は少し考えて答えた。


「何も……そのままです」


「父が一度だけ町でお茶を飲んだって言ってました。香りが良くて、とても高かったそうです」


「そっか」


俺は頷く。


「今日は白湯だな」


そして真面目な顔で言った。


「明日からは井戸水をそのまま飲んじゃ駄目だ」


「え?」


「必ず一度沸かしてから飲むこと」


「冷まして竹筒へ入れておけばいい」


朝日は黙ったままだ。


「朝日」


少しだけ声を強くする。


「聞いてる?」


「は、はい!」


よし。


少しずつだ。


優しいだけじゃ駄目な時もある。


焼けた雉からは蜂蜜の甘い香りが漂ってくる。


俺は一番綺麗に焼けた一本を朝日の皿へ置いた。


「はい」


朝日は慌てて両手を振る。


「ぼ、僕は食べません」


「なんで?」


「お肉は蒼様が……」


その目が言っていた。


『いつもそうだったから』


神様。


もし会えるなら。


元の藤原蒼を二発くらい殴らせてください。


「食べろ」


「でも……」


「俺が食べろって言ってる」


「はい……」


ようやく朝日は串を持った。


恐る恐る一口。


その瞬間。


目が丸くなる。


「……おいしい」


もう一口。


「すごく……香ばしくて、甘い……!」


続いて汁を飲む。


ぱっと表情が明るくなった。


「これも……!」


「そんなに?」


「はい!」


「今まで食べたことありません!」


やっぱり。


この子。


食べることが好きなんだ。


「なら」


俺は笑った。


「これからもっと色んなもの作ってやる」


「美味しいもの、いっぱい食べよう」


返事はない。


……と思ったら。


朝日は返事をする暇もないくらい夢中で食べていた。


「…………」


食べるのに集中してる。


可愛い。


これなら。


この子は案外、食べ物で懐くタイプかもしれない。


……いや。


逆に誰かがお菓子をあげたら簡単について行きそうで心配になる。


食後。


朝日はあっという間に食器を洗い終えた。


鍋も皿も、匂いが残らないほど丁寧に洗っている。


「仕事が綺麗だな」


思わず感心する。


「朝日」


「はい」


「明日の朝、筍を町で売ろう」


「……売る?」


「うん」


「お金がないからな」


「粟くらいは買えるようにならないと」


朝日は困ったように首を傾げた。


「でも……売り方、分かりません」


「俺も分からん」


「……え?」


「でも何とかなる」


「早朝なら新鮮な筍だから売れるはずだ」


「もし売れなかったら?」


「干し筍にして冬に食べよう」


「冬……?」


「朝日は冬に筍食べないの?」


「食べます……」


「なんか俺、冬になると何も食べない人みたいな顔されたけど?」


朝日は慌てて首を振る。


「違います!」


「蒼様が……冬のことまで考えてるなんて……」


なるほど。


昔なら絶対そんなこと言わなかったんだろう。


まあ仕方ない。


俺は俺だ。


元の蒼じゃない。


筍は洗わず、大きな葉で包んで籠へ入れる。


水を付けると傷みが早くなるらしい。


明日の準備を終えた頃には、すっかり日も暮れていた。


「汗かいたなぁ」


身体を洗いたい。


……風呂がない。


春とはいえ夜はまだ寒い。


川へ飛び込むのは自殺行為だ。


仕方なく湯を沸かし、布で身体を拭くことにする。


「ふぅ」


さっぱりした。


……その瞬間だった。


「きゃっ!」


小さな悲鳴。


振り向く。


朝日が真っ赤な顔で廊下へ逃げていく。


「…………」


あ。


しまった。


『ヤ』であることを完全に忘れてた。


普通に服を全部脱いでしまった。


俺は額を押さえた。


「……やっちまった」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ