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【BL異世界小説】花嫁は知らない世界で咲く 第二話 「ちょっと待って、ここどこだ」

目を開ける。


最初に目に飛び込んできたのは、見覚えのない天井だった。


古びた木の梁。


藁で葺かれた屋根にはところどころ黒い染みが浮かび、湿気で傷んでいるように見える。


遠くからは、かすかに鶏の鳴き声。


「ああ……隣のおじいさん、鶏飼ってたもんな……」


そこまで考えて、


……いや、待て。


「俺、死んだよな?」


ゆっくりと身体を起こす。


地震。


崩れ落ちる天井。


身体中を流れる血。


指一本動かせなくなっていく感覚。


あの瞬間までは、はっきり覚えている。


なのに。


どうして生きている?


「……まさか」


胸が高鳴る。


「異世界転生!!」


思わず叫んでしまった。


「やったぁぁぁぁぁ!!」


ついに。


ついに俺の番が来た!


長年異世界作品を読み続けてきた俺にも、ようやく神様が微笑んだのだ。


……あれ?


でも普通、最初に神様と会わない?


『君は死んでしまった。代わりにスキルを授けよう』


みたいな説明イベントあるよな?


美女に囲まれて。


イケメン仲間ができて。


勇者として魔王を倒して。


ハーレム……いや俺の場合は逆か。


まあ細かいことはいい。


きっと神様も忙しかったんだろう。


よし。


まずは魔法だ。


俺は両手を前へ突き出した。


「ファイアボール!!」


……


何も起きない。


「ふむ。火属性じゃないか」


「ウォーターボール!」


……


「アイスショット!」


……


「ウィンドストーム!」


……


「サンダーアロー!」


……


「アースショット!」


……


「…………」


喉だけが痛い。


一つも出ない。


「え?」


その瞬間だった。


ゴツンッ!!


「いったぁぁ!!」


後頭部に強烈な衝撃が走る。


「馬鹿者!! 朝っぱらから何を騒いでおる! 二軒先まで聞こえておるぞ!」


怒鳴り声と同時に、頭の奥が焼けるように痛み始めた。


「ぐっ……!」


ズキズキズキズキ……


誰かの記憶が、無理やり頭へ流れ込んでくる。


酒。


博打。


女遊び。


男遊び。


親の金を盗む。


借金。


喧嘩。


最低だ。


「なんだこれ……」


さらに映像が流れる。


質素な結婚式。


涙を流しながら謝り続ける、小柄で痩せた青年。


その大きな瞳だけが印象に残る。


そして俺は理解した。


「……なるほど」


俺は。


藤原蒼という男の身体に転生したらしい。


しかも名前まで同じ。


だが、この世界は俺の知っている日本じゃない。


歴史に存在しない――


『鳳凰時代』


という時代だった。


……いや待て。


なんで俺みたいに恋人すらできたことがないゲイが。


こんな女好きで男にも手を出すクズの身体なんだよ!


神様。


人選ミスってません?


「あなた!」


女性の慌てた声が聞こえた。


「頭を怪我したばかりなのに、どうして叩くんですか!」


「甘やかすからこうなる!」


文句を言いながらも、男は俺のすぐ横へ腰を下ろした。


茶色く色褪せた古い着物。


働き続けた者だけが持つ、節くれ立った手。


乱暴な口調とは裏腹に、その目には心配が滲んでいた。


……この人が父親か。


いや。


正確には、この身体の父親。


俺の手を優しく握る女性は、素朴な髪型に穏やかな笑顔を浮かべている。


派手さなんて何一つない。


だけど、不思議なくらい温かい。


貧しい暮らしなのだろう。


二人とも、本当の年齢よりずっと老けて見えた。


なのに。


この身体の持ち主は。


こんな両親から金を盗み。


酒を飲み。


遊び歩いていた。


「最低な奴だな……」


思わず心の中で毒づく。


でも。


悪いことばかりじゃない。


前の人生で、俺にはもう家族はいなかった。


両親は幼い頃に亡くなり。


叔父一家には育ててもらったけれど、本当の親子にはなれなかった。


だけど今は違う。


こんな放蕩息子でも見捨てない母がいる。


口は悪くても心配してくれる父がいる。


それだけじゃない。


記憶によれば、俺には四人もの兄がいる。


しかも全員が、この末っ子を猫可愛がりしているらしい。


……家族がいる。


それだけで、胸が温かくなる。


魔法は使えない。


チート能力もない。


転生先はどうしようもないクズ。


それでも。


「……悪くないな」


家族がいる世界なら。


もう一度、生きてみてもいいかもしれない。


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