第二部 第9話「停滞」
# 第二部 第9話「停滞」
時間は、気づかないうちにどんどん過ぎていた。
部活にも慣れた。
クラスにも馴染んだ。
塾にも通っている。
それなりに忙しく、それなりに充実している。
(悪くない)
そう思う日が増えていた。
成績も悪くない。
定期テストは上位。
内申も高い。
塾でも中の上にはいる。
だが――
停滞している。
そこだけが変わらなかった。
中学二年の冬。
塾のクラス替えテスト。
結果が張り出される。
悠真は自分の名前を探した。
すぐに見つかる。
(……ここか)
中の上。
悪くはない。
だが、変わっていない。
その少し上に、藤堂優駿の名前がある。
いつもの位置。
上位。
ブレない。
悠真はそう思った。
自分も。
優駿も。
違うのは距離だけ。
少しずつ、離れている。
教室へ戻る。
周囲の会話が聞こえる。
「今回簡単だったな」
「ミスったわ、一問」
軽い調子。
だが、その中に違う存在が混じっている。
黒田。
中学受験はしていない。
だが定期テストも塾も上位。
理解が速い。
ナチュラル型。
三好。
夏から入塾してきた叩き上げ。
解けるまでやる。
止まらない。
そして最近上がってきた新参。
中三直前で入塾し、短期間で食い込んできた。
(……マジか)
追いつかれる。
いや。
もう並ばれている。
悠真は席に座る。
優駿。
黒田。
三好。
新参。
(揃ってきたな)
戦場が。
帰り道。
優駿と並ぶ。
「どうだった」
「変わらん」
優駿は少し笑った。
「だろうな」
一拍。
「お前さ」
「本気出してないだろ」
悠真は足を止めた。
優駿は続ける。
「出してる“つもり”だろ」
図星だった。
「……どうだろうな」
「そのままだとさ」
優駿の声が少し真面目になる。
「たぶん届かないぞ」
その言葉が静かに刺さる。
志望校のことだと分かった。
悠真は何も言えない。
事実だからだ。
家に帰る。
机に座る。
ノートを開く。
何も書かない。
ただ見ている。
(あの時は、本気だった)
中学受験。
負けた。
悔しかった。
苦しかった。
それでも燃えていた。
(今は?)
答えが出ない。
部活も楽しい。
友達もいる。
塾も行っている。
勉強もしている。
だが――
(全部、少しずつだな)
尖っていない。
どこにも。
ドアが開く。
心太が顔を出した。
「何してんの?」
「別に」
「顔、やばいよ」
「そうか?」
「うん」
即答だった。
少し沈黙。
心太が言う。
「つまんないんじゃない?」
その一言。
悠真は目を細める。
「何が」
「今」
シンプルだった。
だが刺さる。
心太はそのまま部屋を出ていった。
静寂。
(つまんない……か)
否定できない。
負けていない。
だが勝ってもいない。
ただ、そこにいるだけ。
(このままでいいのか)
問いだけが残る。
悠真はペンを取る。
ノートに書く。
現状
その下に。
停滞
ペンが止まる。
しばらく見つめる。
中学受験の頃なら。
こんな状況を許さなかった。
差を見れば追った。
負ければ悔しがった。
勝ちたい理由があった。
だが今は違う。
負けていない。
だから焦らない。
勝ってもいない。
だから満足もしていない。
ただ――
動いていない。
それが一番厄介だった。
窓の外を見る。
冬の空は暗い。
優駿は進んでいる。
三好も追い上げている。
黒田は結果を出している。
自分だけが立ち止まっている。
(このままでいいのか)
答えは出ない。
だが。
その問いだけは消えなかった。




