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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

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15.それは危険な遊び


「わぁ~ナナミーちゃん、よく似合ってるわ」


着替えを終えたナナミーが、カーテンから出てきた姿を見て、コフィはパチンと手を合わせた。

コフィの選んだ服を着て、えへへと恥ずかしそうに笑うナナミーは、コフィの息子――ヒヨクの運命のつがいだ。


コフィは今、ナナミーと二人でブティックごっこをしている。

この部屋にあるたくさんの衣装は、つい先日、ナナミーがモデルを務めたお披露目会で、レオードが買い占めたものだった。


コフィと同じくらい臆病なナナミーが、モデルを引き受けたと聞いた時は、意外すぎて驚いた。

だが、『ヘビ族のお友達に頼まれたそうですよ』とユキから聞いてすぐに納得もした。

コフィにヘビ族の友達はいないが、もしそんな強い種族の子に頼まれたら、コフィだってうんと頷くしかない。


それでもナナミーが心配で、本当はコフィも新作お披露目を見に行きたかった。

けれど、知らない人が大勢いる場所を想像すると、どうしても怖くて行けなかった。

代わりにレオードが見に行き、モデル姿のままのナナミーちゃんを連れて帰ってきてくれたのだ。


『ナナミーちゃん、緊張してるみたいだったからな。オレが、店のもん全部買い占めて終わらせてやったよ』


そう話すレオードは、とても頼りになるコフィの夫だ。


レオードが買い占めた服で、屋敷の一室は小さなブティックのようになっていた。

小粒のパールがあしらわれた可愛らしいアイテムばかりで、コフィも気に入っている。


それから毎日、コフィは仕事帰りに遊びにきてくれるナナミーと、ブティックごっこをしている。


衣装室になった部屋には、まるで本物のブティックみたいに、カーテンで仕切られた着替え部屋まで作られている。

もちろん、全部レオードが用意してくれたものだ。


今日も一緒におやつを食べたあと、二人で服を選び合ったところだ。

バッチリメイクの店員さんのいない、ナナミーと二人だけのブティックごっこは、とても安全で、とても楽しい。


最近のコフィは、ナナミーと一緒に食べるおやつの用意や、ブティックごっこに忙しい日々を送っていた。



今ナナミーが着替えた服は、コフィの選んだ服だ。


ミルクベージュのノースリーブに、薄手のアイボリーのカーディガン。

そこに合わせた白桃のような薄桃色のショートパンツが、ナナミーによく似合っていた。

動きに合わせて、小粒のパールがキラキラと小さな輝きを見せている。


「今日のおやつの、桃ミルクシェイクみたいでしょう?」


コフィの言葉に、ナナミーが嬉しそうに頷いた。


「コフィお母さんの桃色のワンピースも、すっごく似合ってます」


コフィが着ているのは、ナナミーが選んでくれた薄手のロングワンピースだ。


胸元は柔らかな白桃色で、裾へ向かうにつれ、ほんのり珊瑚色が混ざっている。

熟れた桃みたいな色合いで、ナナミーとお揃いの桃コーデだった。




そこへ、不意に低い声が割って入った。


「確かにそのワンピース、コフィによく似合ってるな。ますます惚れなおしたよ」


いつの間にかレオードが、ソファーに座っていた。


ナナミーとブティックごっこをするときは、必ずレオードも来て、コフィを褒めてくれる。

昔は鬼畜な先輩だったレオードだが、今はとても優しい旦那様に変わっていた。

レオードに褒められて、うふふとコフィは笑う。


そこへ、不機嫌そうな声が割って入る。


「ナナミー、ちょっと足出し過ぎじゃねえか?その格好で外歩くつもりか?」


レオードの隣で足を組んでいたヒヨクが、ナナミーの足へ視線を向けた。


ナナミーのオシャレ姿を見たいのだろう。

平日だというのに、ヒヨクも早めに仕事を切り上げ、毎日のように顔を出すようになっていた。


だが今日は、ナナミーの格好が気に入らなかったらしい。

だからといって、そんな言い方はよくない。


「足……」


小さく呟くナナミーの顔に、サッと影が差した。


「ヒヨク、そんな言い方しないの。ナナミーちゃんによく似合ってるでしょう?夏らしくて可愛いじゃない」


「うるせえな。そんな気に入ってんなら、お前が着ろよ」


コフィがたしなめると、ヒヨクは不機嫌そうにさらに眉を寄せた。


「あ?なんだヒヨク、ふざけたこと言ってんなよ。コフィはもっとダメだろ」


今度は、レオードまで険しい声を上げる。


「足……」


『もっとダメだろ』という言葉に、コフィは思わず自分の足を見下ろした。


レオードの、眉をひそめたその表情が、『そんな足で外を歩くなんてあり得ねえだろ』と言っていた。


確かに、引きこもりがちなコフィの足は細く頼りない。

レオードからすれば、そんな足を外で見せるなど論外なのだろう。


「もうレオードもヒヨクも、ブティックごっこには入れてあげない!」


コフィはナナミーの手を取って着替えスペースに入り、シャアッと勢いよくカーテンを閉め、失礼な二人を外へ締め出してやった。




* * *



「は……?」


ヒヨクとレオードの目の前で、シャアッとカーテンが閉められてしまった。


どうやらレオードがコフィを怒らせたらしい。

レオードの野郎が『コフィはもっとダメだろ』などと言うからだ。


(また余計なこと言いやがって)


つがい狂いのレオードは、ナナミーが服屋のモデルを務めたあの日も余計なことを言っていた。




『ナナミーちゃん、緊張してるみたいだったからな。オレが、店のもん全部買い占めて終わらせてやったよ』


屋敷に着くなり、レオードが『オレが』を強調しながら得意げに話し出した。

――コフィに褒めてもらいたかったのだろう。


(全く、器の小せえ情けねえ野郎だぜ)


『すごい!』とでも言いたげに目を丸くするコフィを見て、嬉しそうに笑うレオードを、ヒヨクは冷めた目で見つめた。


満足そうにはははと笑うレオードの声がうるさかったのか、そのとき抱えていたナナミーが目を覚ました。


「起きたか?親父んち着いたぞ。――オレが、選んでやったその帽子、眩しくねえからよく寝れるだろ?」


寝ぼけ眼のまま帽子のつばを撫で、ナナミーは納得したようにコクリと頷いた。


「だろ?これから毎日それ被れよ」


またコクリと頷くナナミーに、ヒヨクの胸が弾んだ。


店の服を買い占めたレオードに、内心(イかれた野郎だ)と呆れていた。

だがそれからというもの、コフィと楽しそうに着替えて遊ぶナナミーを見てるうちに、(買い占めも案外悪くねえな)と思い直した。


――もっとも。

今日コフィが選んだ服はあり得ない。

ショートパンツから、白く華奢な足が見えていた。


「ナナミー、ちょっと足出し過ぎじゃねえか?その格好で外歩くつもりか?」


(他の奴らが見たらどうすんだよ)


そんな思いでつい口をついて出た言葉だった。


『お前が着ろよ』なんて、ただの皮肉だ。

なのに親父は本気で受け取ったらしい。

『コフィはもっとダメだろ』などと余計な口を挟んできた。


ショートパンツ姿のコフィを誰にも見せたくないなら、余計なことを言う前に、見てくる奴の目なんか、物理的に見えなくしてしまえばいい。

散々やらかした若い頃のレオードの噂は、ヒヨクも聞いている。今さら常識人ぶったところで遅いだろう。


黙っておけばいいものを、レオードの失言がコフィを怒らせた。



「おい親父。テメエのせいで、オレまで締め出し食らっただろうが」


ヒヨクが文句を言い返そうとした、その瞬間――

レオードに、ガッ!と喉元を締め上げられた。


「ヒヨク……テメエのせいで、コフィに誤解されちまっただろうが」


押し殺した声のまま、レオードはヒヨクを部屋の外へ引きずり出した。

コフィに聞こえないところで殴りかかってくるレオードは、昔の噂と違わず頭のおかしい野郎だ。

当然ヒヨクも殴り返してやった。


ひとしきり殴り合ったあと、レオードが舌打ちする。


「ヒヨク、オレはお前なんかと遊んでる暇なんてねえんだよ。ナナミーちゃんを置いて、お前一人でもう帰れ。当分この屋敷に顔見せんじゃねえぞ」


「は?なに寝言言ってやがる。こんな頭のおかしい野郎の屋敷に、ナナミーを置いとけるわけねえだろ。もう帰るわ」


ハッと鼻で笑い、ナナミーを迎えにヒヨクは部屋に戻った。




「おいナナミー、そろそろ帰んぞ」


シャッとカーテンを開けると――


ビキニ姿のナナミーが立っていた。

しん……と静寂が落ちる。


「その水着……」


考えるより早く、ナナミーの腹へ目が向いた。


だが――

アザが、なかった。


「は……?」


アザひとつない白い腹を、ヒヨクは信じられない思いで見つめた。



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一気読みしました! 抜群に面白かったです! 普段は感想書かないんですが、最新話に批判的な感想がひとつだけで悲しくなったので、応援の意味も込めて感想書きます! まず他の感想について。私的には、物語は引…
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