14.お披露目会後の女子会
「ラニカちゃん、ワニエルちゃん、今日はお疲れさま。商品の梱包まで手伝ってくれて、ありがとう。おかげで最速でレオード様のお屋敷にお店の衣装を届けることができたわ。ここは私にご馳走させて?」
今日はスネイが独立して開いた『ブティック・スネイ』の、関係者向けの新作お披露目会だった。
『ブティック・スネイ』は、友達のラニカが勤めるパルル社から、少し形の歪なパールを特別価格で卸してもらい、そのパールを活かした服を作っている。
――それが、『ブティック・スネイ』のコンセプトだ。
本来なら今日は、数人の仕入れ担当者だけを招く、小さな展示会になる予定だった。
だが実際には、皆が憧れるアザ持ち様たちまで集まる騒ぎとなり、会場は異様な緊張感に包まれた。
そして、アザ持ち様らしい豪快な買い物によって、用意していた商品はすべて完売した。
配送手配を終えた三人は、お披露目会の成功を祝って、バイキングレストランで打ち上げをしているところだ。
テーブルには魚介のマリネやロースト料理、色鮮やかなデザートやフルーツまで並んでいる。
「もう、スネイったら、何言ってるの。お礼を言うのは私の方よ?私の方こそ、ここはご馳走させてよ。
スネイのおかげで、パルル社のB級素材の商品があれだけ輝いたんじゃない。私も明日から忙しくなるわ」
ラニカが、艶やかな笑みを浮かべた。
ラニカはパルル社の企画部長だ。
店の商品は完売し、追加生産も決まったことで、ラニカの社内評価も上がるのだろう。
「私からもお礼を言いたいわ。このお披露目会で、憧れのヒヨク様にお会いできたんだもの。それにレオード様にも、チレッグ様とヒュー様とクリフ様にもご挨拶できたわ……!」
ワニエルが、うっとりと夢見るような瞳で宙を見つめる。
確かに素敵なアザ持ちの男性たちだ。
仕事に生きると決めたスネイでさえ、彼らの姿を目にした瞬間、胸が跳ねた。
「もう、ワニエルったら!アザ持ちだからって、男なんかに振り回されてちゃダメって言ってるでしょう?
ワニエルはあんなに丁寧に挨拶したのに、みんなワニエルを見ようともしなかったじゃない」
「そこがいいんじゃない」
ラニカが忠告すると、ワニエルがうっとりした様子のまま答えた。
「まあまあ、ラニカちゃん。アザ持ち様たちが素敵なのは本当のことよ?私もほんの一瞬だけだけど……見惚れちゃったもの。もちろんすぐに『今はお披露目会よ!』って我に返ったけど」
「もう、スネイまで……」
スネイが笑うと、ラニカが呆れたように首を振った。
言い寄る数々の男たちに振り向きもせず、『恋より仕事よ』と言い切る仕事一筋のラニカらしい。
「ふふ。ラニカったら相変わらずなんだから。ラニカ、私は仕事も大事だけど恋も大切にしたいの。恋はメイクのスパイスなのよ?」
パルル社のコスメ部門に勤めるワニエルが、マスカラの効いた瞳を細めて、グラスを持った。
「とにかく、今日は大成功ね。乾杯しましょう?」
「そうね。せっかくのお料理が冷めちゃうわ。じゃあ『ブティック・スネイ』と、私たちの輝かしい未来に――乾杯」
ラニカが音頭を取る。
軽くグラスを合わせると、チン……と軽やかな音が響いた。
それはまるで三人の人生を祝する鐘のようだった。
「でもほんと、ナナミーちゃんには驚かされたわ。まさかあの子が、ラニカちゃんが前に話してた『仕事ができる元部下』だとは思わなかったもの。まあ―― 『ブティック・スネイ』に入ってきた瞬間から、ただ者じゃないわって思ってたけど」
クラッカーに魚卵のペーストを塗りながら、スネイは初めてナナミーと出会った日を思い出す。
初めて見た時から、ナナミーの持つ独特のファッションセンスに目を奪われていた。
「あの子、あんな弱そうな見た目なのに、可愛い帽子に迫力あるヘビの刺繍入れてたのよ?天才的なファッションセンスだわ。――ねえ、この魚卵ペースト、最高よ?」
プチプチと口の中で弾ける魚卵がとても新鮮で香り高い。スネイは、もう一枚クラッカーへ手を伸ばした。
ラニカが、細いパスタをフォークに巻きながら口を開く。
「この、貝柱と香草の冷製パスタも絶品よ?あとでみんなも食べてみてよ。――それで話の続きなんだけど、私、ナナミーのこと少し侮っていたみたい。仕事ができることは知ってたけど……あそこまでだとは思わなかったわ」
ラニカが小さく笑う。
「ほら、お披露目会で立ってるだけじゃ、パールに当たる照明の反射が限られてしまうでしょう?だから『ゆっくり回転したあとに手を振って、動きを見せてほしい』って、確かに言ったけど……」
「ああ……あの演出は確かにすごかったわね」
スネイもお披露目会のナナミーを思い出し、頷いた。
あのとき、客の前に立ったナナミーは、ゆっくりとした動きで、服のデザインを際立たせていた。
少しずつ角度を変えて光を受けるパールが上品な輝きを見せていた。
さらに小さく体を揺らすことで、パールの光はもちろん、シフォン生地のスカートの裾を揺らし、その軽やかさまでも強調し、デザインの魅力を余すことなく伝えていた。
「ヒヨクさん慣れしてるナナミーが、気弱なだけのはずないのに、みんなの前に立ったくらいで震えて見せるんだもの。ナマケモノ族の弱さを逆手に取る演出なんて相当よ?あの子のモデルのセンスは天性のものね……」
ラニカがため息をつきながら貝柱をフォークに刺す。
「あのときのナナミーには、私も鳥肌が立ったわ。私の気弱メイクを最大限に活かしていたもの。体を揺らすことで、まぶたに乗せたハイライトの、小さなきらめきさえもライトに拾わせていたわ……。あんな子初めてよ。――ねえちょっと、このローストビーフのお肉、すごく柔らかいわ。口に入れた瞬間とろけるの。まるで飲み物よ」
ローストビーフを飲み込んだワニエルが、ほうっと息をつく。
「私は強い人が好きだから、最強のヒヨク様推しだったけど……ナナミーのあの強かさ、ちょっと痺れちゃった。あの子ヤバいわ。ちょっと沼りそう」
そんなワニエルに、ラニカが呆れたように笑う。
「ワニエルの心を動かすなんて、ナナミーったらヒヨクさんの上を行くんじゃない?お披露目のときのあの動きだって、『少しゆっくり過ぎない……?』ってハラハラしたけど、結局私までもそんなナナミーの動きに釘付けになっちゃったわけだし」
スネイだって同じだった。
あのときスネイは、もうすぐアザ持ち様たちを怒らせるのではないかと不安で、ナナミーから目が離せなかった。
結局――スネイも見事ナナミーの策略にハマってしまっていたというわけだ。
「ほんとに。あの子、どこまで攻める子なの?アザ持ち様たちを怒らせかねない、ギリギリを突いてくるなんて。
私……ナナミーちゃんに運命を感じるの。ナナミーちゃんとはこれからもタッグを組むつもり。もっと私の服を世の中に広めて、ナナミーちゃんを世界の舞台――アニマルコレクションに立たせたいわ」
「アニコレ?!スネイったら、どこまで強気なの?」
イチジクの生ハム巻きを口に運んだワニエルが、目を細める。
「でも……いいわね。その野望、気に入ったわ。そのときは私、ナナミー専属のメイクアップアーティストになるわ。ナナミーと共に、世界を震えあがらせましょう?」
ワニエルの目がキラリと光る。
どうやらナナミーは、「仕事より恋」派のワニエルさえも、本気にさせたらしい。
「ナナミーちゃん、なんて強かなの!恐ろしい子……!」
スネイは震える。
ナナミーと自分たちとの出会い。
それは、もはや運命だったのかもしれない。
ラニカがウフフと笑う。
「ねえ、もう一回乾杯しましょう?アニコレモデルのナナミーと、私たちの最高の未来に――乾杯」
再びグラスを合わせると、チンと軽やかな音が、ナナミーを含めた四人の未来を祝福するかのように響いた。




