13.お披露目会後の男たち
お披露目会は、レオードの一言で終わった。
その流れのまま、チレッグたち三人は昼飯を食いに『ニクジウ』へ来ている。
生肉も人気の焼肉店で、昼前だというのに店内は賑わっていた。
「やっぱレオード様、カッコいいよな」
運ばれてきた肉を網へ乗せながら、チレッグは先ほどのレオードの姿を思い出す。
今朝、ヒューとつるんでいたところに、偶然クリフと会った。
『服屋の催し行くんだが、一緒にどうだ?』
そう誘われて顔を出したのが、あの新作お披露目会だった。
モデルは、最近子分にしてやったナナミーらしい。
(なんだそれ。あんな弱い奴がアピールする服なんて、売れねえに決まってんだろ)
そう思ったが、いい服があれば母親に買ってやってもいいかと思い、気まぐれで参加した会だった。
そこで思いがけなく、ヒヨクとレオードに出会ったのだ。
レオードは、ヒョウ族のアザ持ちの男だ。ヒヨクの父親でもある。
チレッグよりひと世代上だが、若い頃のレオードの武勇伝の数々は、親から何度も聞かされている。
当時は、目が合うだけでアザ持ちの男たちさえも黙らせたという。
チーター族のアザ持ちであるチレッグも、周囲にもてはやされることは多い。
だがレオードを前にすると、本能が格の違いを告げるのだ。
憧れずにはいられない。
「俺も思った。格が違うよな。あの店の服、全部買い上げだろ?買い物の仕方が、強えよな」
ヒューも感心したように頷いた。
「俺が頭下げて挨拶しても、レオード様、軽く手ぇ上げるだけだったからな。ウララの服は買えなかったが、俺もあんな風になりてえよな……」
クリフもしみじみといった様子で頷く。
アザ持ちの自分たちを軽くあしらうその姿さえ、眩しいほどだった。
「ヒヨクさんも、さすがって感じだよな」
チレッグは、ヒヨクの様子も思い出す。
「ああ、俺も思った。ナナミーがあんだけトロくせえ動きしてんのに、ヒヨクさん、キレなかったもんな。部下だからって面倒見良すぎんだろ。器が違うよな」
ヒューが感心したように肉を頬張る。
「まあ……確かに、あのトロさはないよな。ナナミーが恩人じゃなきゃ、『ターンすんのにどんだけ時間かかんだよ!遅え!!』って怒鳴ってるとこだったわ」
クリフの言葉に、チレッグは思わず笑う。
チレッグもナナミーが子分じゃなければ、『さっさと回れよ!』くらいは言っていただろう。
ヒューも同じことを思っていたのだろう。頷きながら言葉を続けた。
「確かにな。俺もレオード様とヒヨクさんいなかったら、確実怒鳴ってたな。ナナミーのあのトロさ、ほんと半端ねえよ。化粧して新作の服着て、多少は見れる感じになってたが、相変わらず弱そうだったしな。……あ」
ふと、ヒューが何かに気づいたように顔を上げた。
「待てよ。あの半端ないトロくささ、アイツ誰かの運命のつがいなんじゃねえのか? ……チレッグ、お前だったりしてな」
「はあ?」
ヒューに指を差され、思わず声が出た。
「ナナミーと何でかよく会うんだろ?運命に引き寄せられてんじゃねえのか?」
「それはねえな」
チレッグは即答した。
タチの悪い冗談をバッサリと切り捨てる。
「子分だから目えつぶってやってるが、あのトロくささに合わせられる奴なんか、いるわけねえだろ。ナナミーが運命のつがいだったら、癒しどころか毎日苛々させられんだろ」
「違いねえ」
ヒューが笑う。
そんなチレッグとヒューの様子を見ていたクリフが口を開いた。
「オレ、アザ持ちのお前らがナマケモノ族なんかに構うから、てっきりお前らのどっちかがナナミーの運命のつがいなんじゃねえかって思ってたんだが……」
そこまで言って、クリフは肩をすくめた。
「今日わかったわ。ナナミーは恩人だし悪く言いたかねえが、か弱いウララが普通に見えるくらい、トロくさくて最弱だしな。誰かの運命のつがいにもなれんだろ」
運命のつがいとすでに出会ったクリフの言葉には、妙な説得力があった。
「それを考えると……ヒヨクさん、やっぱりすげえよな。あんなヤツを屋敷に居候させてやってんだから」
ヒューが感心したように呟く。
「あんなヤツだからだろ?弱すぎて気配すらねえし。ナナミーだったら何人屋敷に居候してても同じなんじゃねえか?」
チレッグの言葉に、クリフも吹き出した。
「違いねえ」
しばらく笑ったあと、チレッグは肉をひっくり返す。
まだ早いのか、焦げ目がまだ付いていない。
「俺の子分といえど気の毒なヤツだな」
肉を眺めながら口を開くと、ヒューが苦笑混じりに頷いた。
「礼に厚いとこは認めてやってもいいが、まあ……確かに不憫なヤツだな」
「……チッ。火が弱えな。焼きが中途半端じゃねえか」
網の下では、赤かった炭火が白くくすみ始めていた。
「はは。ナナミーの話なんかしてっから、火まで弱くなっちまったじゃねえか?――おい、そこのお前、早く炭足せよ」
ヒューが店のスタッフを呼びつけた。
ビクビクしながら炭を足す店の男も弱そうなヤツだ。
「テメェ、ちゃんと火ぃ付けれんのか?」
クリフに凄まれ、店の男の肩がビクリと震える。
震える手で炭を足しているが、火の勢いは鈍いままだ。
そんな弱々しい炭火に、チレッグが笑う。
「強え話でもするか?……そういや、最近ヒヨクさんと仕事以外でよく会うよな。もしかして、オレら強え運が付いてきたんじゃねえか?」
「確かに……。こんだけ出会うなら、ヒヨクさんの強え運命に引かれてんのかもしれねえな。……つーか、ナナミーのヤツ、ヒヨクさんのそばにいるくせに全然強くならねえのな。あのトロさでよく生き残ってんな」
クリフが呆れたように笑う。
「ヒヨクさんが気ぃかけてんのも、あそこまで弱えと放っとけねえからだろ。あの森にいたあんなヘビにさえ、食われてたんじゃねえか?」
「……それはあり得るな」
チレッグは、クリフの言葉に頷く。
ナナミーを思い出すと、『あんなヘビなんかに食われるヤツなんているわけねえだろ』とは言えなかった。
「チレッグ、ナナミーはお前の子分だろ?ヒヨクさんに失礼のないよう、もっと気い付けてナナミーを見てやった方がいんじゃねえか?ナナミーは恩人だし、オレも気にかけてやるつもりだが」
クリフの言葉に、ヒューも続けた。
「オレも仲間に入れちまった以上、見てやらねえとな」
「そうだな、ヒヨクさんに迷惑かけるわけにはいかんからな。……トロくせえ子分を持つと苦労すんな」
まったくしょうがねえなとアザ持ちの男たちが首を振る。




