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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

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13.お披露目会後の男たち


お披露目会は、レオードの一言で終わった。


その流れのまま、チレッグたち三人は昼飯を食いに『ニクジウ』へ来ている。

生肉も人気の焼肉店で、昼前だというのに店内は賑わっていた。


「やっぱレオード様、カッコいいよな」


運ばれてきた肉を網へ乗せながら、チレッグは先ほどのレオードの姿を思い出す。



今朝、ヒューとつるんでいたところに、偶然クリフと会った。

『服屋の催し行くんだが、一緒にどうだ?』

そう誘われて顔を出したのが、あの新作お披露目会だった。

モデルは、最近子分にしてやったナナミーらしい。


(なんだそれ。あんな弱い奴がアピールする服なんて、売れねえに決まってんだろ)


そう思ったが、いい服があれば母親に買ってやってもいいかと思い、気まぐれで参加した会だった。

そこで思いがけなく、ヒヨクとレオードに出会ったのだ。


レオードは、ヒョウ族のアザ持ちの男だ。ヒヨクの父親でもある。

チレッグよりひと世代上だが、若い頃のレオードの武勇伝の数々は、親から何度も聞かされている。

当時は、目が合うだけでアザ持ちの男たちさえも黙らせたという。


チーター族のアザ持ちであるチレッグも、周囲にもてはやされることは多い。

だがレオードを前にすると、本能が格の違いを告げるのだ。

憧れずにはいられない。


「俺も思った。格が違うよな。あの店の服、全部買い上げだろ?買い物の仕方が、強えよな」


ヒューも感心したように頷いた。


「俺が頭下げて挨拶しても、レオード様、軽く手ぇ上げるだけだったからな。ウララの服は買えなかったが、俺もあんな風になりてえよな……」


クリフもしみじみといった様子で頷く。

アザ持ちの自分たちを軽くあしらうその姿さえ、眩しいほどだった。



「ヒヨクさんも、さすがって感じだよな」


チレッグは、ヒヨクの様子も思い出す。


「ああ、俺も思った。ナナミーがあんだけトロくせえ動きしてんのに、ヒヨクさん、キレなかったもんな。部下だからって面倒見良すぎんだろ。器が違うよな」


ヒューが感心したように肉を頬張る。


「まあ……確かに、あのトロさはないよな。ナナミーが恩人じゃなきゃ、『ターンすんのにどんだけ時間かかんだよ!遅え!!』って怒鳴ってるとこだったわ」


クリフの言葉に、チレッグは思わず笑う。

チレッグもナナミーが子分じゃなければ、『さっさと回れよ!』くらいは言っていただろう。


ヒューも同じことを思っていたのだろう。頷きながら言葉を続けた。


「確かにな。俺もレオード様とヒヨクさんいなかったら、確実怒鳴ってたな。ナナミーのあのトロさ、ほんと半端ねえよ。化粧して新作の服着て、多少は見れる感じになってたが、相変わらず弱そうだったしな。……あ」


ふと、ヒューが何かに気づいたように顔を上げた。


「待てよ。あの半端ないトロくささ、アイツ誰かの運命のつがいなんじゃねえのか? ……チレッグ、お前だったりしてな」


「はあ?」


ヒューに指を差され、思わず声が出た。


「ナナミーと何でかよく会うんだろ?運命に引き寄せられてんじゃねえのか?」


「それはねえな」


チレッグは即答した。

タチの悪い冗談をバッサリと切り捨てる。


「子分だから目えつぶってやってるが、あのトロくささに合わせられる奴なんか、いるわけねえだろ。ナナミーが運命のつがいだったら、癒しどころか毎日苛々させられんだろ」


「違いねえ」


ヒューが笑う。


そんなチレッグとヒューの様子を見ていたクリフが口を開いた。


「オレ、アザ持ちのお前らがナマケモノ族なんかに構うから、てっきりお前らのどっちかがナナミーの運命のつがいなんじゃねえかって思ってたんだが……」


そこまで言って、クリフは肩をすくめた。


「今日わかったわ。ナナミーは恩人だし悪く言いたかねえが、か弱いウララが普通に見えるくらい、トロくさくて最弱だしな。誰かの運命のつがいにもなれんだろ」


運命のつがいとすでに出会ったクリフの言葉には、妙な説得力があった。


「それを考えると……ヒヨクさん、やっぱりすげえよな。あんなヤツを屋敷に居候させてやってんだから」


ヒューが感心したように呟く。


「あんなヤツだからだろ?弱すぎて気配すらねえし。ナナミーだったら何人屋敷に居候してても同じなんじゃねえか?」


チレッグの言葉に、クリフも吹き出した。


「違いねえ」

 

しばらく笑ったあと、チレッグは肉をひっくり返す。

まだ早いのか、焦げ目がまだ付いていない。


「俺の子分といえど気の毒なヤツだな」


肉を眺めながら口を開くと、ヒューが苦笑混じりに頷いた。


「礼に厚いとこは認めてやってもいいが、まあ……確かに不憫なヤツだな」




「……チッ。火が弱えな。焼きが中途半端じゃねえか」


網の下では、赤かった炭火が白くくすみ始めていた。


「はは。ナナミーの話なんかしてっから、火まで弱くなっちまったじゃねえか?――おい、そこのお前、早く炭足せよ」


ヒューが店のスタッフを呼びつけた。

ビクビクしながら炭を足す店の男も弱そうなヤツだ。


「テメェ、ちゃんと火ぃ付けれんのか?」


クリフに凄まれ、店の男の肩がビクリと震える。

震える手で炭を足しているが、火の勢いは鈍いままだ。

そんな弱々しい炭火に、チレッグが笑う。


「強え話でもするか?……そういや、最近ヒヨクさんと仕事以外でよく会うよな。もしかして、オレら強え運が付いてきたんじゃねえか?」


「確かに……。こんだけ出会うなら、ヒヨクさんの強え運命に引かれてんのかもしれねえな。……つーか、ナナミーのヤツ、ヒヨクさんのそばにいるくせに全然強くならねえのな。あのトロさでよく生き残ってんな」


クリフが呆れたように笑う。


「ヒヨクさんが気ぃかけてんのも、あそこまで弱えと放っとけねえからだろ。あの森にいたあんなヘビにさえ、食われてたんじゃねえか?」


「……それはあり得るな」


チレッグは、クリフの言葉に頷く。

ナナミーを思い出すと、『あんなヘビなんかに食われるヤツなんているわけねえだろ』とは言えなかった。


「チレッグ、ナナミーはお前の子分だろ?ヒヨクさんに失礼のないよう、もっと気い付けてナナミーを見てやった方がいんじゃねえか?ナナミーは恩人だし、オレも気にかけてやるつもりだが」


クリフの言葉に、ヒューも続けた。


「オレも仲間に入れちまった以上、見てやらねえとな」


「そうだな、ヒヨクさんに迷惑かけるわけにはいかんからな。……トロくせえ子分を持つと苦労すんな」


まったくしょうがねえなとアザ持ちの男たちが首を振る。



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