表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/117

11.新作お披露目会


カーテンの向こうから、ざわざわと話し声が聞こえてくる。

仕入れ担当者たちが集まり始めたらしい。


「パルル社から独立した子らしいわよ」

「今日のモデル、誰なのかしら」

「営業部長のラニカさんも来てるんですって」


そんな声が聞こえるたび、ナナミーの心臓がドキドキと跳ねた。



「今日は、大口の仕入れ担当者の方々も来てくださっているの。ナナミーちゃん、気合いを入れなさい。ここで捕獲できれば、『ブティック・スネイ』は一気に広がるわ」


いつの間にか背後に立っていたスネイが、冷んやりと囁いた。

ヒュッと、ナナミーの背筋が伸びる。


(大口……!)


そんな恐ろしい存在まで来ているらしい。

失敗したらどうなるのだろう。


「――さあ、狩りの時間よ」


そう囁くと、スネイは音もなくカーテンの向こうへ消えた。




「皆さま、お越しいただきありがとうございます。本日は『ブティック・スネイ』の新作を――」


カーテンの向こうで、スネイが挨拶を始めた、その時だった。


ガタッ――と、椅子が引かれる音が響く。

続けて、ガタガタッ……と慌ただしく人が動く気配がした。


(何……?)


仕入れ担当者たちのざわめきとは違う。

まるで、絶対に逆らってはいけない存在が現れた時みたいな――張り詰めた空気だった。


一瞬だけ、スネイの声も止まる。


(怖い……!)


何か恐ろしいことが起きたのだろうか。

弱小種族としての本能が、危険の予兆を告げていた。

怖くて体が固まった。


けれどすぐに、「……それでは、我が『ブティック・スネイ』の新作をご覧ください」と、何事もなかったかのように、スネイが挨拶を続けた。


その時。

サァッ――とカーテンが開く。




目の前の光景を見た瞬間、頭が真っ白になった。


仕入れ担当者たちが座っているはずの椅子には、アザ持ちの男たちがいた。

最前列にヒヨクとレオードが、その後ろにチレッグとヒューとクリフが足を組んで並んでいる。


仕入れ担当者たちは壁際へ移動し、空気を消すように静まり返っていた。


反射的に、そろ……っと体の向きを変え、そのまま静かに気配を消した。

背中に突き刺さる視線が痛い。

ブルブルと体が小刻みに震える。


(隠れたい……!)


今すぐどこかに隠れたい。

誰もいない遠い所に行きたい。

誰も知らない狭い隙間で、うずくまっていたい。


――ナナミーの本能が叫ぶ。


けれどその時、背後の視線すら霞むような強い気配を横から感じた。


恐る恐る目だけを向けると、冷んやりとしたスネイの目が、カッ!と見開かれていた。

その目が、『失敗は許さないわよ……』とナナミーに警告している。


弱小種族としての本能が、決められていた流れを一気に思い出させた。


まずは、客席を見る。

それから、パールのきらめきが見えるように、ゆっくりとターン。

最後に、みんなに向かって手を振る。

――それだけだ。


ナナミーは、恐る恐る客席へ向き直った。



「この清楚感は、幅広い種族に受けそうね」

「上品にきらめくパールが、年齢を問わないかも」

「メイクと服が合ってるわね」

「これは……いいんじゃない?」


壁際で、空気を消すように話す仕入れ担当者たちの声が聞こえた。

『ブティック・スネイ』の衣装と、ワニエルのメイクはなかなか好評のようだ。


「まあ……悪くないんじゃねえか?」

「ウララにも合いそうだな」


聞き覚えのあるアザ持ちの声も聞こえた。

緊張の中、少しだけ希望の光が見えた気がした。


「しかしアイツ、草みてえなもんしか食わねえから、ほんと細っせえな」

「もっと肉食わせた方がいいんじゃねえか?」

「このあと昼メシに焼肉でも連れてくか」

「焼肉か……いいな。『ニクジウ』行かねえか?」

「あそこ生肉うめえんだよな」


(生肉は無理……!!)


続いて聞こえたアザ持ちの男たちの会話に、ナナミーは震える。


(新作お披露目会を成功させなくちゃ……!!)


お披露目会が成功したら、このあとはバイキングレストランで食べ放題の打ち上げ予定だ。

色々な料理やケーキ、それにフルーツまで食べ放題らしい。


生肉ではなく、甘いフルーツ。

フルーツなら、たくさん食べられる自信がある。


(手を振らなくちゃ……!)


弱小種族としての本能が、激しく警鐘を鳴らしていた。

――最後は、みんなに向かって手を振る。

ナナミーは必死に、決められた流れを思い出した。


震えが止まらない手を上げかけた、そのとき。


「この店の服、気に入ったぜ。全部買い取る。今すぐ俺の屋敷に送ってくれ」


レオードの低い声が、会場に響いた。


「今すぐに、だ」


重ねられた声に、スネイがシュッ!とナナミーの前へ進み出る。


「ただ今、ご用意にかからせていただきます!毎度ありがとうございます!」


シャッ!と頭を下げたスネイが、ニヤリとナナミーを振り返った。


「ヤ」「ル」「ワ」「ネ」


ゆっくりと、声に出さず口が動く。

スネイの瞳が光ったように見えて、ビクッと体が跳ねた。




「――お開きだな。帰るぞ」


ガタッと椅子を立ち上がったヒヨクが、ナナミーをヒョイと抱え上げ、歩き出した。


「ナナミーちゃん、コフィがナナミーちゃんのモデル姿、見てえって言ってるから、うち来てくれよ。ユキもうちに呼んでるから、今ごろシロと特別なご馳走用意してるはずだぜ?」


ヒヨクの横に並んだレオードに声をかけられ、パァッと気持ちが明るくなる。


「コフィお母さんのおうち……!」


「濃厚マンゴープリンにしようかとか、濃厚巨峰ゼリーしようとか、話してたな」


「濃厚マンゴープリン……濃厚巨峰ゼリー……」


特別なメニューを聞いて、ナナミーのお腹がぐうと鳴る。

今日は緊張と気になるお腹に、朝から何も食べていなかった。


「フフ〜ン、フフ〜ン♪」


気分が上がり、思わず鼻歌が漏れる。

その時、ヒヨクの肩越しにチレッグと目が合った。


(生肉は辞退させていただきます!)


ナナミーは、華麗に生肉へ別れを告げるように、バイバイと手を振った。



「外は暑いから、これ被っとけよ」


狭い店内を歩きながら、ヒヨクが近くに飾られていた帽子を、ぽすっとナナミーの頭に乗せた。

つばが深く、前が見えなくなる。


「フフ〜ン、フフ〜ン、プリッ、プリ〜ン♪」


モデルの仕事は大変だったが、お披露目会を無事終えることができた。

生肉の危険も過ぎ去った。


視界は帽子で塞がれているのに、ヒヨクに抱えられていると、不思議と安心できた。


スタスタと歩く揺れが心地よくて、ナナミーはそのまま、まどろみの中へ沈んでいく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
パチパチパチパチ!! 頑張った!ナナミー頑張ったよ!! 美味しいプリンやゼリー、フルーツをた~んと召し上がれ!
わーここにきて(90話!)甘〜い展開の予感が!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ