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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

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09.モデルらしくあるために


(少しだけ腹筋してみようかな……)


夜眠る前。

ベッドに寝転び、天井を眺めながらナナミーは考える。


寝転んだまま、サス……と撫でたお腹は平らだった。

この姿勢でモデルができるなら、完璧かもしれない。


けれどラニカは言っていた。


『動きがないと、パールに当たる照明の反射が限られてしまうと思うの。だから当日は、ゆっくり回転したあとに、みんなに手を振ってほしいわ』


新作お披露目会場は、『ブティック・スネイ』の店内奥にある、小さなスペースだ。

数人の仕入れ担当者しか入れないような場所で、モデルのナナミーは、新作の服を着て立つことになる。

ただ立っているだけでは、服に縫い付けられたパールの輝きが固定されてしまうらしい。


そのため当日は、スネイの挨拶のあと、ナナミーがその場でゆっくりとターンし、仕入れ担当者たちに向かって軽く手を振る流れになっていた。

寝転べば完璧なお腹だが、お披露目会で寝転ぶ予定はない。


新作お披露目会まであと一週間だ。

今から腹筋すれば、少しはお腹が鍛えられるかもしれない。



(よし、これから毎日腹筋しよう!)


ナナミーは決意する。

ヒヨクも当日は見に来てくれると話していた。

緊張が増すだけだが、それでも気にかけてくれている気がして、少し嬉しく感じてしまう。

ヒヨクの前では、完璧なお腹でいたい。


(よし!腹筋だ!)


もう一度、決意する。

十回……いや、五回。……いや、たとえ一回でもいい。

始めることが大事なのだ。


(一回だけでも……!)


また決意する。

今日は一回だ。

一回だけ頑張ればいい。


(でも、今日は打ち合わせ頑張ったし……。明日からでいいかも……)


決意が揺らぐ。

けれど、今日は本当に頑張った。

カフェでの長い打ち合わせで、体はもうクタクタだ。


(……今日は諦めよう)


今日はいつものように、諦めよう。

ナナミーは弱小種族のナマケモノ族だ。

誇り高いナマケモノ族として、これ以上頑張るわけにはいかない。


だから明日だ。

明日腹筋をすればいい。

今日の分と合わせて二回。

――それで完璧だ。


(お布団が気持ちいいな……)


もう手も動かないので、お布団を撫でることはできないが、極上の布の肌触りは肌に感じている。

ナナミーは、ゆらゆらと眠りの中に誘われていった。





(やっぱり、少しだけランニングしようかな……)


仕事から帰り、おやつのジュースを飲みながら、ナナミーは考える。


今日のおやつは、ユキ特製のミックスジュースだった。

バナナやリンゴ、イチゴや桃やマンゴーが、たっぷり入っていた。

特別に甘く、特別においしいジュースだったのだ。

――お代わりまでしてしまった。


サス……とお腹を撫でると、少しポコンと出ているような気がした。

ショート丈のトップスだったら、このお腹ははみ出してしまうだろう。


食べ過ぎにはスポーツだ。

今から少しだけランニングすれば、このお腹はなかったことになる。


(よし、走ろう!)


強く決意して、ナナミーは森に出た。



(ここから……あそこまで走ろうかな)


遠くに見える大きな木に目標を決める。

いざ走り出そうとして――ふと考える。


走るなんて、いつぶりかも思い出せないくらいだ。

急に運動したら、足を痛めてしまうかもしれない。

ランニングの前には、柔軟体操が大事だと聞いたことがある。

先に柔軟体操をしなくては危険だ。


(先にストレッチしようかな)


ナナミーはゴロリと地面に寝転がった。


寝転んで、クイ……クイ……と足先を動かす。

広げた両手の指先を、クイ……クイと動かす。


ストレッチをしながら見上げる空は、夕方の気配を含んでいた。

少し涼しくなった爽やかな風が、サア……ッと優しく頬を撫でる。

地面に敷かれたふんわりとした芝生が、背中に心地よい。


(もう少しストレッチしたら走ろう)


クイ……クイ……と足先を動かす。


(少しだけ。あそこに見える大きな木まで走ろう)


遠くの大きな木を見つめながら、クイ……クイ……と、両手の指先を動かす。


空に向き直ると、ゆっくりと雲が流れていた。


(気持ちいいな……)


お腹はいっぱいだった。

今日のミックスジュースは、特別おいしかった。

いちごと桃が多めの、爽やかな甘みが絶妙だった。


(明日のおやつも、ミックスジュースにしてもらおう。明日はヒヨク様と一緒に飲めるといいな……)


オレンジ色を含む雲が、ゆっくりと形を変えていく。

心地よいまどろみに包まれて、ゆっくりと思考が沈んでいった。





夜。

ベッドに横になりながら、ナナミーは考える。


夕方は、地面に寝転んだまま眠ってしまったようだ。

どうやら、帰ってきたヒヨクが運んでくれたらしい。

目覚めた時には、自室のベッドの上だった。


目覚めて、ナナミーがこの部屋にいる理由をユキから聞いて、お風呂に入って、寝る準備を整えたところだった。


今日はランニングはできなかった。


(でも……)


でも、念入りにストレッチはした。

あれも運動になるはずだ。

今日こそは寝る前に腹筋をしようと思っていたけど、今日は十分に体を動かした。


スポーツは無理をすると続かないものだ。

今日は無理をせず、しっかり休んで、明日から頑張るべきだろう。


新作お披露目会まであと六日。

時間が過ぎるのはあっという間だから、お披露目会までは毎日しっかりと運動しなくてはいけない。


(明日はランニングしよう)


強い決意を持って、布団を首まで引き上げる。

極上の肌触りの布団が、フワ……ッと肌に当たり、ナナミーは静かなまどろみの中に沈んでいく。




――そうして日々はあっという間に過ぎていった。


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― 新着の感想 ―
ダイエッターあるあるで二番目に笑った話でした。
あれ… 自分もナマケモノ族だったみたいだ…。 私も明日からがんばる。 でも明日は永遠に明日なんだよね
私を観察していたの? 私のことが書かれている! きゃ〜ストーカーがいる〜 とニヤニヤしながら読みました。 ナナミーちゃんも明日から頑張ろう!と思ったけど、 もう遅い! ですね
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