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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

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07.捕獲のスネイ vs 救世主ベアゴー


「あ、でも……」


何かを付け足すように、スネイが口を開いた。


「モデルって言っても、このお店の奥で開く内輪の会なの。ブティックやアクセサリーの仕入れ担当を数人ほど招く、本当に小さなお披露目会よ」


少し申し訳なさそうに、スネイが目を伏せる。


「ナナミーちゃんには、次のシーズンの一番推しの新商品を着て、立っていてもらうだけなの。……期待させちゃって、ごめんなさいね」


「いえ!そのくらいで十分です!」


スネイに申し訳なさそうに謝られて、ナナミーは思わず返事をして――ハッとする。


「本当に小さな」という言葉で一瞬安堵しかけたが、「お披露目会のモデル」という時点で、ナナミーが安心できる要素はどこにもない。

人前に立つだけで緊張するのに、ブティックの仕入れ担当者などという、オシャレ上級者の前に立てるはずがない。


(やっぱりここで断らないと……!)


「あの……」


「この余裕、さすがね。どんな小さなチャンスも逃さない余裕を感じるわね……」


「ふふ。ナナミー、相変わらず仕事に貪欲ね。『捕獲のナナミー』の名に相応しいわ」


「どのデザインの服にしようかしら?やっぱり……大人しそうに見える外見を活かして、仕入れ担当者を捕獲するべきよね。ラニカはどう思う?」


「そうね。清楚系女子路線はいいかも。種族を問わずに、広い種族にターゲット層を広げられるわ。ふふ。世界の『ブティック・スネイ』も、夢じゃないわね」


「ナナミー、なんて恐ろしい子……!」


キャッキャッと、ラニカとスネイが話を弾ませていた。

ナナミーは、『やっぱりモデルは無理です』と言おうと上げかけた手を、ゆるゆると下ろす。


(……諦めよう)


所詮ナナミーは、最弱種族のナマケモノ族だ。

他の種族に逆らう勇気など、ナナミーにはない。


このお店の奥で開かれるお披露目会の、「本当に小さな」という言葉にかけるしかない。


――諦めるしかなかった。


盛り上がる二人を、ナナミーはただぼんやりと眺めていた。




* *




「待ってたわよ、ナナミーちゃん」


終業時間を終えて会社を出ると、柱の陰からスッとスネイが姿を現した。

突然の姿に、ベアゴーの背中でナナミーはヒュッと息を吸いこむ。


「さあ、打ち合わせの時間よ。ラニカももうすぐ来るから、近くのカフェで、ゆで卵でも食べながらお話ししましょう?」


「え……」


――ゆで卵。


無理だ。ゆで卵は食べられない。

それに今日は、ユキがいちごジュースを用意してくれると言っていた。

早く帰って、おやつのジュースを飲みたかった。


『今日はちょっと予定があるんです』


そう返事をしようとしたが、スネイの冷んやりとした瞳にとらわれた。


返すつもりの声は喉元で凍りつき、ナナミーはコクリと頷くしかない。

どうやら今日も、ナナミーはいつの間にかスネイに捕獲されていたらしい。



「ナナミーちゃん、この子誰?さっきヒヨク様が、絶対寄り道するなって言ってたでしょう?僕も怒られちゃうんだから、寄り道はダメだよ」


(ベアゴーくん……!)


――救・生・主!

ベアゴーが、ナナミーを守るかのように救いの言葉をかけてくれた。


(助かった……)


そうだ。

ついさっき部屋を出るとき、ヒヨクに念押しされたばかりだった。


『ナナミーの両親に、安全な送り迎えを約束してんだから、一人で寄り道するなよ。刺繍店もダメだ。絶対にだ』


さらにベアゴーにも、『ベアゴー、お前も分かってんだろうな』と、鋭い声をかけていた。


ナナミーはもう、仕事帰りに寄り道することはできない。

寄り道をすれば、最強種族のアザ持ちの男に怒られる。弱小種族として選んではいけない道だ。


ナナミーはベアゴーの言葉に、大きく頷く。


「ベアゴーくん。この方はスネイさんって言って、『ブティック・スネイ』の店長さんなの。ラニカさんの友達なんだよ。

――でもそうだね。ヒヨク様の言いつけを破ったら、きっとすごく怒られちゃうね。ベアゴーくん、今日は残業で帰れなくなっちゃうかも」


背中から、ベアゴーにそう伝えた。


「スネイさん、ごめんなさい。ヒヨク様に、寄り道はダメだって言われてるんです。残念ですが、ラニカさんにもそう伝えてください」


ペコリと頭を下げながら、ナナミーはほっとしていた。

ベアゴーは、困ったときにはちゃんと助けてくれる、頼りになるナナミーの友達なのだ。



「え、スネイさんって、ラニカさんの友達なの?ラニカさん、久しぶりだな〜。ナナミーちゃん、一人の寄り道はダメだけど、僕が一緒の寄り道なら大丈夫だよ。ゆで卵食べに行こうよ」


「え……」


救世主だったはずのベアゴーが、ナナミーを裏切ってきた。


「え、でもベアゴーくん……」

「僕、ベアゴーって言うんだ。僕も一緒に行っていい?」


ナナミーの声が、ベアゴーの元気な声に重なった。


『でも早く会社に戻らないと、残業終わらないよ?』

――そう言ったつもりの言葉は、誰も聞いていない。


「もちろんよ。よろしくね、ベアゴーくん。今からいくお店、はちみつたっぷりのホットケーキもあるわよ。さあ、行きましょう?」


「わ〜はちみつたっぷりのホットケーキ、楽しみだな〜。行こう行こう!」


あっという間に仲良くなったスネイとベアゴーが、並んで歩き出す。

ベアゴーの背中に背負われたナナミーも、当たり前のように運ばれていく。


――諦めよう。


所詮ナナミーは、弱小種族のナマケモノ族だ。

強い種族のクマ族やヘビ族なんかに、声の大きさでさえ敵わないのだ。


ウキウキとスキップするベアゴーの背中で、ナナミーは揺られていた。


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