表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/117

34.いつだってそれは


「ナナミー様。今日のおやつですが……本当にこれでよろしいのですか?」


会社から帰ったナナミーは、ユキから袋を受け取った。


『アニマル海産昆布使用!特選昆布飴』


袋に書かれた文字を見て、ナナミーはコクリと頷く。


最近は薮に行くのが忙しく、ゆっくりおやつを食べる暇もない。そんなナナミーに、今朝ユキが食べたいものを聞いてくれた。


(今日もウミュウさんに会うし、薮に持っていけるおやつがいいかも)


そう考えて、頼んだ昆布飴だった。

ナナミーのリクエストに、ユキは『昆布の飴……ですか?』と戸惑っていたが、ちゃんと用意してくれたらしい。




「ユキさん、ありがとう」


「あの……ナナミー様。一人で危険な場所に行ってはいけませんよ。それから、素性も分からない人ともおしゃべりしてはダメですよ。危ないですからね」


ユキの言葉に、ナナミーはコクリと頷く。

もちろんだ。

ナナミーだって、危険な場所なんて行きたくないし、素性も分からないような怖い人とも話したくもない。


不安げな様子で見送るユキに手を振って、ナナミーは飴を抱えて薮の隠れ家に向かった。


固いトゲトゲに覆われた隠れ家は、危険から守ってくれる安全な場所だ。

それにウミュウは、チレッグの母――モモノー付きの使用人だ。ちゃんとした肩書きを持つ人物である。


(なんの相談かな……)


ウミュウとの約束が気になって、ソワソワした一日だった。


サッ……と周囲を見回す。

誰も見ていないことを確かめてから、ナナミーは薮の隙間に潜り込んだ。

ソッ……と薮の外を覗くと、ウミュウが見えた。


「ウミュウさん、こんにちは。お待たせしました」


そう声をかけて、昆布飴を薮の隙間から差し出した。


「ナナミーさん、来てくれてありがとうございます。それに昆布飴も……。あ、これ、アニマル海産の昆布飴ですね!前にチレッグ様に『ついでに取り寄せてたから』って、いただいたことがあります!すごくおいしいですよね……!」


ユキが用意してくれた昆布飴は、お取り寄せの飴だったらしい。

ナナミーも袋から一つ飴を取り出して、口に含んだ。


(海……!)


口の中に濃厚な昆布の味わいが広がった。

ナナミーは海に潜ったことはないが、確かに海を感じた。


口に入れた瞬間は固かったが、しばらくしてモグ……と噛むと、よよよんと歯にくっついた。


ウミュウも昆布飴を口に入れた。


ナナミーは、よよよん、よよよん、と昆布飴を噛み締める。

ウミュウもまた、あんむあんむと昆布飴を味わっていた。 


二人の間に沈黙が落ちた。



「ふう……昆布飴はこのネッチリ感がクセになりますよね」


しばらくしてかけられた声に、ナナミーは頷く。

そして、もう一つ飴を隙間に差し出した。


「ありがとうございます。……あの、昨日のお話なんですけど……」


受け取った飴を指先でいじりながら、ウミュウが言い淀む。

――やはりとても話しにくい相談のようだ。


「ゆっくりで大丈夫ですよ」


そう声をかけ、ナナミーはウミュウの気持ちが落ち着くのを待った。


やがて決心したように、ウミュウが顔を上げた。


「あの!……実は私、チレッグ様と同じ『走るチーターのアザ』を持っているんです」


「え……」


それは衝撃的な告白だった。


『チレッグと同じアザ』


ナナミーは言葉も返せず、ただウミュウを見つめる。

一度口にしてしまえば楽になったのか、ウミュウが続けて口を開いた。


「私ずっと、現れたアザが『走るチーター模様』なのか、『走るヒョウ模様』なのか、『走るピューマ模様』なのか分からなくて……。

何度もつがい認定協会に行ったんですけど、誰のアザの形かもハッキリとしないまま、扉を開ける勇気もなくて……。

それでも、なんとなくでしかないのですが、チレッグ様のアザに似てるような気がして……!」


ウミュウはそこまで語り、ハッとしたように口を手で押さえた。

いつの間にか声が大きくなっていたことに気がついたようだ。キョロキョロと不安げに周りを見回している。

ナナミーもつられて薮の向こうへ視線を巡らせた。


(ウミュウさんが、チレッグ様の運命のつがいなの……?)


バクバクバクバクと心臓が高鳴っていた。


ウミュウが話すことを躊躇していたのは当然だ。

そんな大事な話、誰にも話せるわけがない。

ナナミーだって、家族にすら打ち明けたことはない。


「あの……どうしてそんな大事なお話を、私に話してくれたのですか……?」


ウミュウはウミガメ族だ。

ナナミーの故郷の森とは遠く離れている。

種族としてもなんの接点もなかった。

なぜ、ナナミーに打ち明けようと考えたのかがわからない。


「ヒヨク様のお屋敷に、ナナミーさんがお住まいだという噂を聞きまして……。それに、ナナミーさんはヒョウ族ではなく、ナマケモノ族だそうですし……。

もしかしたら私と同じような境遇なのではないかと思ったんです」


「ウミュウさんの……境遇……?」


ナナミーはゴクリと唾をのむ。


「はい。実は私、つがい認定協会に行って、扉を開けられないまま帰る途中、ふと思いついてチレッグ様のお屋敷に向かったんです。『もし一目でもチレッグ様のお顔を見れば、何かわかるかも』って。そう思ったんです。

お屋敷の前で、偶然チレッグ様とお会いしたんですけど、『母さんの使用人募集に応募してきた奴ってお前か』と、そのままモモノー様の使用人になりまして……」


「使用人……」


思わず呟くと、ウミュウがコクリと頷いた。


「はい。モモノー様はお優しいのですが……」


スッとウミュウの顔に影が差した。


「私、とても鈍くさくて……。チレッグ様に『トロくせえんだよ』『早くしろよ』って怒られてばかりで……。あ、もちろん、私のオヤツもお取り寄せしてくれて、優しいところもあるんですよ」


そう言って、ウミュウはスカートのポケットを、上からそっと抑える。

そこに、チレッグが取り寄せたおしゃぶり昆布が入っているのだろう。


「でも私……チレッグ様の運命のつがいを名乗り出る勇気はなくて……

もしかしたらナナミーさんも、お辛い境遇にいるのではないかと、一度お話を伺いたいと思っていたのです……」


「ウミュウさん……」


ウミュウの気持ちが痛いほどわかり、胸が詰まった。

ナナミーは使用人としてヒヨクの屋敷で暮らしているわけではない。

だが、ヒヨクが鬼畜な上司だったとき、『トロくせえんだよ』『早くしろよ』と散々言われてきた。


それどころではない。


『これもやっとけよ』

『それ終わってから帰れよ』


そんな言葉と一緒に、終わらない仕事を延々と渡されてきた。

ナナミーだってずっと、『こんな鬼畜な野郎の運命のつがいだなんて、一生!絶対に!名乗り出たりしない!』と心に固く誓っていた。


もしあの時、同じ境遇の人がいると知ったら、相談せずにはいられなかっただろう。

ナナミーはしみじみと頷く。


「ウミュウさんの、運命のつがいを名乗り出られない気持ちは、とても分かります。……そうですよね。私だって、ヒヨク様の運命のつがいのアザを持っていても、名乗り出られませんから」


「えっ……!!使用人じゃなくて……?」


「え?」


ウミュウが口を押さえて目を見開いた。

信じられないものを見るような目でこちらを見つめている。


(あれ……?)


『同じ境遇』だと言うから、てっきりウミュウはナナミーがヒヨクの運命のつがいだと確信しているのだと思い込んでいた。


だが――どうやら違ったらしい。


ウミュウは、『種族の違うアザ持ちの屋敷に雇われる使用人』として、ナナミーと境遇を重ねていたようだ。


しん……と静寂が広がっていた。



「ウミュウさん。このことは誰にも言わないでくださいね」

――急いでそう声をかけようとした、そのとき。


バリバリ!!バリバリ!!


目にも止まらぬ速さで、ナナミーの目の前の薮が二つに割れた。

サッと明るい日差しが差し込む。


突然の出来事に、ナナミーは「うわあああ!」と叫び声をあげることもできず、ぎゅっと目を閉じた。


しゃがみ込むナナミーの体が、誰かに掴み上げられた。


(諦めよう)


いつだって危険は突然に訪れる。

どんなに安全な場所に隠れていても、避けられない危険は必ずある。


しょせんナナミーは弱小種族のナマケモノ族だ。

捕まってしまったなら、諦めるしかない。


目をつむったまま、力を抜く。

ナナミーは、そのままどこかへ運ばれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
超新たな展開!他のアザ持ちもからんで、この先がドキドキ〜
ヒヨクさまだといいな。 更新時間07:20 ってナナミーかっ!と今気がついて興奮してます
急展開!あー、早く次が読みたいです。 心配したユキさんが報告したでしょうし、ナナミーを連れ去ったのはヒヨクであってほしいですが、まさか違ったらどうしよう(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ