表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/117

29.運命は——そこにある


「ワニエル、お前からもらった美白クリーム、試してやったぜ。すげえ効果じゃねえか」


「クリフ、マジで使ったのか?」


「あのクリームそんなすげえのか?」


聞こえてきたアザ持ちの男たちの会話に、ナナミーは目の前のお皿から顔を上げた。

モグ……と口を動かしながら、お肉を焼いている方の焚き火台へ視線を向ける。


そこには今日も、アザ持ちの男たちとベアゴーが集まっていた。

大きなお肉が次々と焼かれている。


『この肉、やっぱレアがうめえな』

『滴る肉汁がたまんねえな』

『この、トロッとしたとこ、最高じゃねえか?』


盛り上がる男たちの会話が怖くて、あまり向こうを見ないようにしていた。

けれど今日は珍しく、美容の話をしている。


なんとなく気になって視線を向けると、男たちに混じってラニカたちの姿があった。

今日はワニエルだけではなく、ラニカとスネイもお肉バーベキューに参加しているらしい。



「クリフ様、使っていただけたんですね!あの美白クリーム、うちのコスメ部門で新しく開発したクリームなんです!パールエキスから美白成分を取り出した、究極のクリームなんですよ。日焼けの予防はもちろん、できてしまったシミや怪我の跡まで、数日でなかったことにしてくれるんです!」


ワニエルが感激したように、熱心にクリームの説明をしていた。

どうやらワニエルは仕事で開発した美白クリームを、アザ持ちの男たちに贈ったらしい。


「前に『そんな怪しいクリーム、ウララに渡せるわけねえだろ?』なんて言って悪かったな。正直、半信半疑だったが、古傷に塗ってみたらよ、跡が消えたんだよ。あれはいいな。ウララも喜びそうだから、屋敷に届けてくれ」


「毎度ありがとうございます!」


クリフの言葉に、ワニエルが顔を輝かせていた。


「クリフが言うなら、信用できそうだな。オレも母さんに渡してやるか。良さそうだったら、また頼むわ」


「チレッグまでそう言うなら……オレも母さんに渡してやってもいいかもな」


チレッグとヒューも、美白クリームに興味を持ったようだ。


「ワニエルちゃんのクリーム、ほんとすごいよ!だって、いっぱいあったバーベキューの火傷跡、あっという間に治ったもん」


そしてベアゴーまでが、ワニエルのクリームを褒めていた。



(そんなにすごいクリームなのかな……)


ナナミーには古傷も火傷跡もない。

そもそもあまり外に出ないので、日焼けとも縁が薄い。

けれど、それほど皆が褒めるなら、少し気になってしまう。

もしかしたら――最強美白クリームで、少し強そうに見えるかもしれない。



「ナナミー、口止まってんぞ。よそ見してねえで、ちゃんと食えよ」


「あ、はい」


向こうの会話が気になって、いつの間にか食べる手が止まっていた。

ヒヨクの言葉に、食べかけのアスパラガスに急いでかじりつく。

ほんの少し冷めてしまったが、野生のアスパラガスの力強い風味に、軽く付いた炭火の焦げが極上の味わいだった。


目の前の料理に意識が戻ると、またモグ……モグ……と手が止まらなくなる。


「うまいか?」


ヒヨクに尋ねられて、ナナミーはコクリと頷く。

「そうだろ」と答えるヒヨクの声が、とても機嫌が良さそうで、ドキドキと胸が弾んだ。


(帰ったら、ヒヨク様に打ち明けてみようかな……)


10日間の断食修行生活は、明日幕を閉じる。

これまでナナミーは、瞑想修行に打ち込んできた。長い修行生活で、ナナミーの心と体は過去最高に整えられて、強くなっているはずだ。


告白するなら、修行明けしかない。

そう決心しようとするが、胸の奥はまだ落ち着かない。


「ナナミー、りんごも食うか?腹膨れてるんなら、少しだけにするか?」


モグ……と口を動かしながら考えていると、ヒヨクに声をかけられた。

お腹はいっぱいだが、少しだけ食べてみたい。

ナナミーが力強く頷くと、ヒヨクがりんごを小さく切って、ナナミーのお皿に乗せてくれた。


(やっぱり告白しようかな……)


鬼畜な上司じゃない優しいヒヨクは好きだ。

焼きりんごの甘くとろける味わいが、ナナミーの背中を押してくれるようだった。



「ナナミー、食事終わった?ナナミーも、これ使ってみて?」


食事を終えて、お腹をサス……と撫でていると、ワニエルが来て、ナナミーに小瓶を差し出した。


(さっきの話のクリームかな……?)


少しだけ期待してしまう。

受け取った半透明の小瓶の中には、淡く輝く白いクリームが入っていた。


「それね、美白クリームなの。コスメ部門で開発して、もうすぐ発売予定なの。日焼けも傷跡もシミも、肌に残るものは全部なかったことにしてくれるのよ?」


「えっ……」


なんと手渡されたクリームは、『肌に残るものは全部なかったことになる』クリームらしい。


もし、ナナミーの左のお尻にある運命のつがいのアザに、このクリームを塗ったらどうなるのだろう。


傷跡も消えるというのなら――

アザも、なかったことになるのかもしれない。


(アザが消えちゃうの……?)


不安になって、そっとアザのある側のお尻に手を当てた。

このアザが消えてしまうのかもしれない。



「ああ、ナナミーは貝アレルギーだから、不安になるのは分かるわ。でもこのクリームは、アレルギー成分を除去した、誰でも使える物なの。全身に使えるから、気になるところに使ってみてね」


続いたワニエルの言葉に、ナナミーはコクリと小さく頷く。

クリームは全身に使えるらしい。


(気をつけて使わなきゃ……)


クリームの付いた手で、うっかりアザに触ってしまえば、運命のつがいのアザは消えてしまう。

強くなれるクリームには、大きな危険もあるようだ。

ナナミーは、ぎゅっとクリームの入った小瓶を握りしめた。


そこに、いつの間にか来ていたラニカがふふっと笑う。


「ふふ。ナナミーったら、クリームに興味深々ね。そのクリームね、前に話してた日焼け跡に塗ったクリームより、もっと効き目が強いものなの。薄いシミくらいだと、塗った瞬間に消えちゃうわよ」


「えっ……」


ナナミーの左のお尻にあるアザは、はっきりとした濃いアザだ。

塗った瞬間に消えるものではないにしても、一晩くらい経てば消えてしまうかもしれない。


意識しないままに、左のお尻を隠すように腰を引いた。


緊張して、ドキドキと心臓が波打っていた。

気をつけなくては――ナナミーは、ヒヨクの運命のつがいの証を失ってしまうことになる。




* * *




最近ベアゴーが気に入っている女がこっちに歩いてきやがったと思ったら、ナナミーに小瓶を手渡した。


数日前にヒヨクにも手渡そうとしたものだ。


(そんな得体の知れねえもん、使えるわけねえだろ)


そう思い、『要らねえよ』と断ったが、ナナミーはそのクリームに興味を持ったようだ。

手渡された小瓶を、興味深そうに眺めていた。


そして、『肌に残るものは全部なかったことなる』という説明を聞いた瞬間――

ナナミーが、これまでにない速さで左の尻の辺りに手をやった。


(――尻か!!)


おそらく――

いや確実に、ナナミーは左の尻に運命のつがいのアザを持っている。


運命のつがいのアザは、運命の証だ。

シミや傷の跡などとは違う。薬などでは消えるものではないことは、実証されている。 


だが、女の言葉に不安になったのだろう。

ナナミーの瞳が揺れていた。


(尻……は、確かめようがねえな)


『ナナミー、ちょっと尻見せてみろよ』なんて言えるはずがない。

そんなことを言えば、絶対に嫌われる。



――嫌われたくねえ!!


その思いが衝動のように胸を突き上げた。

(嫌われるかもしれない)と考えただけで、心臓が絞りあげられるようだった。



(やっぱり……言わさねえと)


ナナミー自身に「運命のつがいだ」と、名乗り出てもらわなくては、おそらく自分たちの関係はこのまま変わることはない。


『運命のつがいに残業させるなんて嘘だ』

『名乗り出たら、自堕落してもらうつもりだ』

――今すぐそう伝えたい。


だが、これまで散々言ってきた言葉だ。

信用されるどころか、警戒されてしまうかもしれない。

ナナミー自身に「名乗り出よう」と思わせなくてはいけない。



「ナナミー。スモモとぶどうのミックスジュース、作ってやるよ。食後のジュースに飲むか?」


「スモモとぶどう……!」


パァッと顔を明るくしたナナミーに、(まずはここからだな)とヒヨクは手応えを感じた。




そこに、何を勘違いしたのかラニカが口を挟んだ。


「悪いけど、今お腹いっぱいなの。ジュースはいいわ、ヒヨクさん」


「ああ?誰がテメェなんかに作ってやるかよ」


ヒヨクがチッと舌打ちすると、ラニカがこれ見よがしに大きなため息をついた。


「もう……そうやってすぐに拗ねるんだから。ヒヨクさんって、相変わらずね」


「テメェもな」


「しょうがないわね」とでも言いたげに首を振るラニカに苛立つが、今はナナミーのジュースの方が先だ。

ハッと鼻で笑い、ヒヨクはスモモとぶどうを手に取った。



貝アレルギーのお話。

※実は2章の5話目にサラッと書いてるんですよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ナナミーちゃん、瞑想修行で心身リフレッシュ出来て良かったね!ヒヨクにはもう少し色々と考えて欲しいから、告白は、また先でも良いかな〜。
ヒヨク氏はナマケモノ修行が必要なんじゃないですかねー
ナナミー自身に「名乗り出よう」と思わせなくてはいけない。 えっ?今後の展開が気になりすぎる!あと一押しなのにどうなるのてしょう。ヒヨク頑張って~!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ