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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

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27.弱そうなあの子


「おい、ポチロー。あれ見ろよ。またあの子だ」


「……だよな。すげえな、あの子。あのチレッグ様に、席譲らせてるじゃん。あの子、ほんと何者なんだ?」


ワンタに言われるまでもない。

ポチローだって、断食道場の窓の向こうから目を離せないでいた。


窓の外には、最強種族の男たちが集っている。

それだけでも滅多に見れない光景なのに、男たちはほぼ全員がアザ持ち様たちだ。


ヒョウ族のヒヨク様に、チーター族のチレッグ様。

ピューマ族のヒュー様に、クマ族のクリフ様。

そして、アザ持ち様たちの舎弟らしい、体の大きな男。


「この道場で初めてヒヨク様見たときも、夢かと思ったけど、すげえ光景だよな……。窓とカーテンがあるおかげで、こうして安全なとこでじっくりアザ持ち様たちを拝めるしさ。うわ〜断食道場来てよかった」


噛み締めるように話すワンタに、ポチローも同意しかない。


アザ持ち様たちは、全国民の憧れの存在だ。

最強種族のオーラを最大限にまとい、圧倒的な存在感を放つ。

――まさに王者の風格だ。

そのひと睨みで、強い種族の男たちをも黙らせる。


「妹のルルがさ、ハリエット刺繍店に行ったとき、たまたまチレッグ様が来たらしいんだよ。それで店中の女の子たちが大騒ぎしちゃってさ、チレッグ様に怒鳴られたんだって。でもめちゃくちゃカッコよかったらしくて、帰ってからその話ばっかしてた」


そもそもポチローがこの断食道場宿泊に参加したのも、ルルが『お兄ちゃん。チレッグ様を見習って、もう少し体絞りなよ』とキャンキャンうるさかったからだ。

お肉断ち断食10日間なんて、一人で耐えられるはずもなく、ワンタやタロウを誘って参加した会だった。


「ルルから聞いた時は、『アザ持ち様に騒ぐなんて、ルルも命知らずだな』って、きつく注意したけど。今ならわかるよ。めちゃくちゃカッコいいもんな」


男たちの憧れが、中庭に集まっていた。

――その中心に、あののんびりした女の子が座っている。



「さっきヒヨク様が誰かの部屋をガタガタしてただろ?僕てっきり、誰かが隠れもせずに見てるのが見つかって、ヒヨク様にシメられるんだと思ったけど……あの子を抱えてたから、すっげえびっくりした」


「ああ。あの化粧の濃いお姉さん、あの子のこと『ヒヨクさんの右腕』って話してだけど、ほんとだったんだな」


ワンタが言っているのは、この前食堂で声をかけた人のことだ。見るからにバリバリのキャリアウーマンといったお姉さんだった。

あのお姉さんがヒヨク様を『ヒヨクさん』と呼んだことにも驚いたし、女の子の意外な正体にも驚いた。


だが、妙に納得もした。

その前日、中庭での様子を見て、ポチローはあの子がただ者ではないと感じていたからだ。

あのヒヨク様に料理を作ってもらっているのだ。普通の女の子のはずがない。


本当は――

ポチローは、(あの子がヒヨク様の運命のつがい様なんじゃないか?)と疑っていた。


実際、同じことを考えた参加者は少なくなかった。


『ヒヨク様があんな弱そうな子に構うなんて、絶対なんかあるだろ。まだ公にされてないけど、近く発表されるんじゃない?』


そんな噂まで流れていたほどだ。


気になっていたのはポチローだけではない。

あのとき食堂にいた者たちも、みなあの子の正体を気にしていた。

誰もがポチローとお姉さんたちの会話に聞き耳を立てている気配がした。


そして実際、あの子はただのんびりしただけの子ではなかった。


ヒヨク様の運命のつがい様ではないようだが――

ヒヨク様の右腕であり、新しくできたブティックの専属モデルらしい。



「『ブティック・スネイ』なんて店、聞いたことなかったからさ。内心疑ってたんだけど、あのレオード様がご贔屓にしてる店なんだもんな〜。それ知ったとき、鳥肌立ったわ」


ワンタが腕をさすった。

ポチローだってそうだ。

『知りたい情報を即日お届け』を謳うスズメ族の情報屋、『チュミゾン』でそれを知った時は鳥肌が立った。


だって、レオード様だ。

ヒヨク様のお父様であり、おじい様のヨウ様と並んで語られる伝説のアザ持ち様だ。

若い頃のレオード様は、他のアザ持ち様たちでさえ、『レオード様に迷惑かけんじゃねえぞ』と周囲をピリつかせたという。


『ブティック・スネイ』は、そのレオード様がお気に召した店だったのだ。


「店の商品全部買い上げだろ?買い物の仕方が王者だよな……」


思わずはあっ……と熱いため息がもれてしまう。


「すっげえ欲しいけど、メンズ服売ってないのが惜しいよな」


悔しそうに話すワンダの言葉にも、同意しかない。

ポチローでも買えるような手軽な価格帯の服だが、今は在庫が品薄の上に、服はレディースものしか扱ってない。


「ルルちゃんに教えてあげたら?絶対喜ぶじゃん。いいなあ、そういう話できる相手。僕も彼女ほしいな〜」


「妹は彼女じゃないだろ。むしろ教えたら、『お兄ちゃん、買ってよ』ってたかられるだけだし」


おかしくなって、あははと笑い合う。


ひとしきり笑ったあと、ワンタがまたカーテンの隙間から窓の外を覗き見た。


「思ったんだけどさ。あんな弱そうな子がモデルだから、逆にいいんじゃない?ほらあの子、なんか赤いやつ食べてるけど、食べ方まで弱そうじゃん?誰かの運命のつがい様みたいに見えなくもないだろ?」


「あ〜……。そうかも」


なんの実かは分からない。

けれど女の子は、小ぶりの赤い実をゆっくり、ゆっくりとかじっている。

普通だったら、周囲を苛立たせそうな食べ方だが、アザ持ち様たちは特に気にしていないようだ。


チレッグ様とヒュー様は呆れたような目を向けているが、ヒヨク様は怒る様子もなく女の子を見てるし、クリフ様は舎弟らしき男と楽しそうに話している。




「ほんとあの子何者なんだろ。ヒヨク様の右腕とかモデルってだけじゃない気がするな……」


「『チュミゾン』にも聞けないもんな……」


アザ持ち様の周囲にいる人物を調べようとするなど、危険の極みだ。

それこそ情報屋に、その愚かな行為をアザ持ち様に届けられてしまうだろう。


そうなれば、ポチローたち個人だけではなく、一族にまで迷惑がかかるかもしれない。そんな危険を冒す気にはなれなかった。


あの子が何者なのか、知りたいけど――知ることはできない。

ただこうして、カーテンの隙間から見つめることしかできない。


ゆっくり、ゆっくりと赤い実をかじる女の子から、ポチローたちは目が離せなかった。



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― 新着の感想 ―
ワンタ、ポチロー、タロウ、由緒正しい日本のパンピー名前!読んだとたん、ニコニコで、仕事やる気出ました!(一部、誤字らしいワンダになってますが、ワンタとワンダ、印象全く違う〜(笑))
面白すぎます!ヒヨクは言ってみれば公爵家嫡男みたいな感じかな?と思っていましたが、恐れられ方とか敬われ方とかもう飛び抜けてますね!アザ持ちさますごい!そして、ナナミーの将来はみんなが憧れるつがい様(笑…
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