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運命のつがいは鬼畜な上司  作者: 白井夢子
第四章

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21.断食道場宿泊のはじまり


「それでは道場からの説明は、ここまでとさせていただきます。何かご質問等はございませんか?」


断食道場のミーティング室で行われた説明に、集められた参加者たちに沈黙が流れた。


「――ではみなさん、ここから10日間の肉断食生活で、心身共に美しく健やかな体を手に入れましょう」


道場スタッフの説明が終わると、室内にざわめきが広がる。


部屋のあちこちにいるグループには、ナナミーよりずっと体格のいい種族が多かった。

男子グループも女子グループも、みんなしっかりした体つきをしている。


「昨日は、しっかりお肉を食べ溜めたわ」

「成功したら、帰りは焼肉でお祝いしようよ」

「もう腹減ってきたぜ……」


皆がそれぞれに話していた。



係員の説明によると、この断食道場での基本ルールはひとつ。

それは『施設内では絶対に肉を食さないこと』だ。


肉への誘惑を断ち、それぞれが心穏やかに過ごすこと。それが、この断食道場の推奨する修行らしい。


食事は四回。

朝と昼とおやつと夕食。

バイキング形式で、それぞれの体格に合わせて好きに食べていいという。


ざっくりプランでストレスなく修行をすることが、この断食道場の売りのようだった。


ナナミーはこの肉断食生活で、心身共に疲れを癒し、美しく健やかなお腹を手に入れるつもりだ。




「要は道場でお肉さえ食べなかったら、あとは好きに過ごしていいってことよね?」


「それが難しいんじゃない」


ラニカの言葉にワニエルがため息をつく。


「ふふ。ワニエルちゃん、知ってるわよ。そんなこと言いながら、今日の夕食の後で、早速ベアゴーくんが差し入れ持ってきてくれるんでしょう」


「まあ……ね」


スネイが笑うと、ワニエルが満更でもない顔で頷く。

どうやら今日、ベアゴーがこの道場に立ち寄るらしい。


「ワニエル。差し入れ食べるなら、道場の外にしなさいよ」


「もう、ラニカったら分かってるわよ。私だって道場の規則は守るつもりよ?この修行で、もっと美しくなりたいもの」


ワニエルが艶やかな唇を尖らせた。


「ねえ、それより夕食までどうする?森を散歩でもする?」


スネイがみんなに尋ねる。


昼過ぎに始まった説明会は、すぐに終わった。

夕食までは時間があった。


「そうね……私は道場のジムに行こうかしら。ちょっと走ってくるわ」


「ラニカ、ジム行くの?じゃあ私、エアロビコースに参加してみようかしら」


「それいいかも。私もワニエルちゃんと、エアロビコース選ぶわ。ナナミーちゃんも一緒にどう?」


ナナミーはフル……フル……と首を振る。

好きに過ごしていい時間に運動なんて、罰ゲーム以外の何ものでもない。

それに過ごし方はもう決めている。


「私は部屋で瞑想して過ごそうと思うんです」


道場スタッフも言っていた。

『静かな場所に座り、何も考えずにリラックスする瞑想も推奨します』と。


ナナミーはこの10日間、割り当てられた部屋で瞑想し続ける予定だ。

部屋は1人部屋だし、心置きなく瞑想できる。

何も考えずに、ただぼんやりとして過ごすつもりでいる。



「瞑想?ナナミーちゃん、瞑想なんてするつもり?確かにスタッフさんは推奨してたけど、そんなの呑気な修行で……あっ」


怪訝そうに話していたスネイが、何かに気づいたように目を見開く。


「……さすが『捕獲のナナミー』ね。私ったらまた、あなたに油断させられちゃったわ。……最高よ、ブレがないわね」


ふうっとスネイが感嘆したかのように息をつくと、ラニカが呆れたように口を開く。


「もう。ナナミーったら、どこまで仕事脳なの?瞑想は集中力を高めるものだから、確かに頭脳派のナナミーらしいやり方だけど……仕事のこと考えすぎじゃない?」


ワニエルも軽く両手をあげて首を振る。


「もう、降参。私ったら、ついナナミーの罠にハマって、『呑気な子ね』なんて思っちゃった」


瞑想を選んだナナミーの前で、三人が盛り上がっていた。


「ほんとナナミーちゃんって計算高い女ね」

「でも私、そういうとこ嫌いじゃないわ」

「私も。野心のある女は好きよ」


三人の勢いに入り込むこともできず、ナナミーはただぼんやりと立っていた。


「じゃあナナミー、また夕食にね」と聞こえたと思ったら、気づけばミーティングルームに一人だった。

ノロ……とナナミーは、部屋に向かって歩き出す。




割り当てられた部屋は、ポツンとベッドが置かれた、狭く簡素な一人部屋だ。部屋の奥には大きな窓があり、窓からは道場の中庭が見えた。中庭の先には、生い茂る薮と森の木々が見える。

人の手を加えられていない、自然の森だった。

――どこか故郷の森に似ていた。


窓を開けると、サァ……ッと風が森の匂いを運んできた。新芽と、少し湿った土の香りが混ざり合う、初夏の香りだ。


「わぁ……」


心が落ち着いていく。


鬼畜な上司が君臨しかけた瞬間はあったが、クリーンな上司に生まれ変わったヒヨクは、こうしてナナミーに12日もの休暇をくれた。

しかも有給休暇だ。


ふと思い出して、カバンからゴソ……と小さな缶を取り出す。

『復刻版!非加熱はちみつアメ』と印字された缶から、ひとつアメを取り出して口に入れると、口いっぱいにはちみつ味が広がった。


ナナミーは別にアメ好きではないが、はちみつ色の缶が可愛くて、ついヒヨクとお揃いで買った缶だった。


(ヒヨク様も、はちみつアメ食べてくれてるかな……)


そんなことを考えると、少し恥ずかしくて少し嬉しい。



ベッドの上に座って、はちみつアメを口の中でコロ……と転がしながら、揺れるカーテンを見ていた。


森の香りのする風が気持ちいい。

雲ひとつない空の水色と、風にゆったりと揺れるカーテンが、ナナミーを瞑想の世界へ誘い込む。


(眠たいな……)




何も考えずにリラックスすること。

ナナミーの断食修行はすでに始まっていた。





実はコレ、100話目なんです。

100ものお話のお付き合い、ありがとうございます!

100話でピタリと着地しようと思っていたのですが、宿泊初日じゃん…なところです。

もう少しお付き合いいただけると嬉しいです〜


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― 新着の感想 ―
(ㅅ´ ˘ `)ワァ~♥︎ 100話!!!すごーーい 大好きなお話なのでもう少し続いて欲しいと願いつつ読んでいます ヒヨク様の報われる日が来るのはもうすぐ?? すれ違いつつちょっとずつ近づいていってる…
100話、おめでとうございます! ナナミーちゃんの鼻歌が大好きです。 ヒヨク様の背中で、いつまでも安心して歌っていて欲しいなぁ。 これからも楽しみにしています。
100話! なんちゅ〜話や〜と毎回楽しませてもらってます。 100話もありがとうございます! ナナミーちゃんのシール帳と回遊式の川、口の悪いアザ持ち達に憧れてます! 呼ばれた私〜と、このお話がホントに…
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