2. 死んでまた生き返った私
「アレクサンドル様!どういうことですか!?この娘は一体何なんですか!?」
「煩いぞ、ジャン。そんなに大声を出せば起きてしまうだろう。」
「ああ、すみません……。いや、そうではなくて!なぜここに女性がいるんです?しかもアレクサンドル様の寝台で!」
「だから、大きな声を出すな。まだ身体が馴染んでないだろうから寝かせてやりたいんだ。」
遠くの方で誰か男の人同士で話している声が聞こえてきた。
段々と意識が覚醒してきたのか、声も近くで聞こえてくる。
瞼を瞬かせてゆっくりと持ち上げると、焦茶色の木でできた天井とそこに渡された梁が見える。
「身体が馴染むとはどういうことですか?」
「ジャン、お前の悪いところは何でもかんでもすぐに知りたがるところだ。少しは落ち着け。」
声がする方へゆっくりと頭を動かすと、ズキンと頭が痛んだ。
「っ!痛……い。」
思わず顔を顰めたところで、少し離れた場所で会話をしていた二人のうち黒っぽいローブのような物を羽織った男性が近づいて来る。
「目が覚めたのか。気分はどうだ?痛むところは?」
低い声は確かに男性なのに、腰のあたりまでの長い黒髪を赤いリボンのような布で簡単に縛り、目の色は血のような濃い赤で顔立ちは恐ろしく整っていて美形なので一瞬性別が分からないほどだった。
「頭痛以外は痛むところはないですけど、まだ少し目眩がします。」
突然の周囲の変化に、普通に答えてしまったけれどここはどこなのか、この人たちは誰なのか、疑問に思う気持ちがどうやら顔に出てたらしい。
「そうか。今自分が置かれている状況が知りたいか?」
見たことのない部屋と大きなアンティーク調のベッド、室内も大好きなマンガで見たような洋風の装飾がなされている。
「……はい。」
ベッドからゆるゆると起き上がって上半身を起こすとまだ少しムカムカして気分が悪かった。
「無理せずそのまま聞くといい。」
黒髪ローブ姿の男性は寝台近くの椅子に腰掛けて、先ほど会話をしていたであろうもう一人の男性もいつの間にかベッドの近くに来ていた。
もう一人の方は明るい空色の髪をしていて、少なくともここは日本じゃないのかも知れないとぼんやりと思った。
「お前は元いた世界で死んだ。だが俺がこの世界、つまり元いた世界ではない別世界へと転移させたので今生きている。」
「……へ?」
死んだ?私が?この美形の前ではあるが、思わず間抜けな顔になってしまったと思う。
「死んだって……。でも今は生きている……?」
「そうだ。お前は元の世界で身体に激しい衝撃を受けて死んだ。だが俺がお前の身体と精神をこちらの世界へ引き込んだ。咄嗟のことで全ての身体を引き込むことは無理だったから、あちらの世界では肉体の一部が死に絶えた。」
黒髪美形は真剣な顔で話してくれてるけど、俄には受け入れ難い事実で、頭の中で言われた言葉がグルグルと繰り返し回っていた。
「え?アレクサンドル様?もしかして魔法でそんな大変なことしちゃったんですか?それって大丈夫なんですか?」
驚いた顔の空色の人が、早口で黒髪美形に尋ねている。
「大丈夫かどうかといえば、代償は小さくはなかったな。」
「……ちなみに、どのような代償を払われたんですか?」
恐る恐るといった感じで、空色の人は黒髪美形に上目遣いを向けている。
「俺の寿命の半分。」
「「 寿 命 の 半 分 !?」」
私と空色の人の声が重なって大きく響いた。
「アレクサンドル様。いくら貴方が長寿の一族でも、半分は大きいでしょう、半分は。」
「まあ別にもう必要以上に長生きする必要もなくなったから良い。」
寿命が半分になってしまったというのに平然としている黒髪美形を唖然とした顔で見つめた。
そして、ハッとした私は急いで頭を下げた。
「ごめんなさい!何だか私のせいで大変なことになってしまって。私はこれからどう償いをしたら良いですか?」
多分普通の状況なら受け入れられなかった出来事も、体調もおかしいし聞かされた事実がキャパオーバーで混乱していた私は、意外とすんなり言葉を出すことができた。
元々クヨクヨ悩む性質でもなかったから、元の世界の家族や友達が心配にはなったし自分も寂しいけれど、あの時小学生の男の子を助けて死んでしまったことは変えられない事実で。
それならばまた新たに生を受けたことがあり得ないことではあるけれど、生きているだけでもとても有り難いことだから。
「それでは、新しい一生をかけて償ってもらおう。」
黒髪美形はニヤリとほくそ笑む顔すらも美形だった。




