番外編6 公爵家と侯爵家
アルトゥールがドキドキしている話です。
※2020/10/03後書きに追記しました。
アルトゥールとリーザはリーザの実家に来ている。長男が生まれてから半年が経ったのでリーザの両親に顔を見せに行ったのだ。
可愛らしい寝台に寝かされた赤子をみんなで覗き込んでいる。
「おーよしよし」
「きゃっきゃっ!」
「まぁ!笑ったわ!可愛いのねぇ」
アルトゥールとリーザの長男ベルナルトはリーザの両親にあやされて笑った。アルトゥールは長男が泣き出さないか心配していたが、杞憂に終わり安心した。
「よく笑う子ねぇ。私も楽しくなってきたわ」
リーザの母がにこにこしながら言った。
「ええ、いつも楽しそうに笑うんですよ」
「ユーリャはよく笑うけど、ドミトリーはニヤリと笑うくらいなのよねぇ。ええ、ドナートがそうだったみたいに」
リーザの母は頬に手を当てて困ったように首を傾げた。
ドナートとキーラの所にもアルトゥールとリーザの長男ベルナルトが生まれた一ヶ月後にドナートの長男ドミトリーが生まれた。
「私もそうだったらしいからなぁ…」
リーザの父親がぽつりと言った。
「リーザはよく笑う子だったわね」
アルトゥールはあははと笑っておいた。義両親と会うのは未だに緊張する。二人とも笑顔だが目が笑っていないように感じていた。特にアルトゥールに向けられる笑顔は背筋が寒くなる。
「ああ、ベルナルトがよく笑うのはリーザに似たんだな」
義父が笑顔で言ったが、どこかトゲがあるように聞こえた。ベルナルトの見た目はアルトゥールにそっくりなのだ。そのせいだろうと思う。
「あら、アルトゥールも含め、あちらの方は皆さんよく笑う子だったそうよ」
リーザの発言にアルトゥールは僅かに体が反応した。これ以上余計な事を言わないでほしいと願った。
「なっ、何を言ってるんだ。笑顔はリーザによく似ているじゃないか」
「え、そう?似ているのは目の色ぐらいじゃない?」
アルトゥールは信じられないといった感じで目を見開いた。確かにベルナルトの目は茶色でリーザと同じ色をしている。
「ええ、そうね。目の色はリーザそっくりだわぁ」
「ああ、とてもよく似ているな」
義理の両親達はにっこりとした笑顔だった。
「そうですよね!リーザにとてもよく似ていますよね!ま、眉毛の形も似ていませんか?」
ベルナルトの眉毛はリーザに似て凜々しかった。アルトゥールは必死でリーザに似ている部分を探したのだ。
「おおっ!確かによく似ているなぁ~。ほら、よく見せておくれ」
「きゃははっ!」
「まぁ!やっぱり笑顔はリーザそっくりねぇ」
アルトゥールは早く自分の家に帰りたかった。もちろん彼の実家ではなく、彼の新しい家族と暮らす家だ。と言っても日替わりで彼の家族が訪問するので気が休まらないのだが、それでもそちらの方がましだと思えてしまう。
「そう言えば、兄上も来るのよね?」
アルトゥールはまたも驚いた。聞かされていなかったのだ。
さらに厳しい戦いになりそうだ。
「ええ、もうじき到着するのではないかしら?」
「お前もいとこに会いたいよな~」
「んふふっ!」
ベルナルトがずっと笑顔でいてくれるのが救いである。
「アルトゥールさんも友人に会えるのは楽しみでしょう?」
「ええ、とても楽しみです…」
アルトゥールは汗が止まらなかった。
「父上、母上お久しぶりです」
ドナート達がやって来た。ドナートはユーリャをキーラはドミトリーを抱いている。
「おお!よく来てくれたな!」
「キーラさんも疲れたでしょう?早くこちらに来て座って!」
義両親達は長男家族の訪問に大喜びのようだ。
「アルトゥールとリーザも久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです」
ドナートの笑顔は普通だった。今の所はだが。
アルトゥールは警戒しつつも、笑顔で挨拶した。
「こんにちはっ!」
「ええ、ユーリャも久しぶりね」
元気よくユーリャが挨拶した。ユーリャの性格はキーラに似たようだ。少なくともアルトゥールがドナートと出会った頃はすでにこんなに元気よく喋ってはいなかった。
ドナートはユーリャをそっと降ろした。
「ほら、ユーリャしっかりご挨拶なさい」
「おじいさま、おばあさま、こんにちは!ほんじつは、おまねきいただき、ありがとうございますっ!」
キーラに言われてユーリャは挨拶した。あまりにも可愛らしいので、この部屋にいる全員を笑顔にした。
「ほら、ベルナルトいとこ達が来たぞ~」
義父が話しかけるとベルナルトは目をパチパチさせた。
「わぁ!」
ユーリャがベルナルトに駆け寄った。彼女は興奮しているらしく耳まで真っ赤で、目もキラキラさせていた。やはり性格はキーラに似たようだ。見た目はどちらにも似ている気がする。
「かわいいねぇ。あなたベルナルトっていうの?」
ベルナルトは大人以外の人間を初めて見たので驚いているようだ。
「わたしはユリヤっていうの!あなたのおねえさんよ!あそこにいるのは、おとうとのドミトリーよ!」
ベルナルトはユーリャを興味深げに見ている。何者なのか探っているのだろうか。
アルトゥールは彼女が来てくれてよかったと心底思った。皆が彼女の幼児特有の可愛らしい言動に釘付けだ。
「従弟にお姉さんと名乗るのか。アレクセイ殿下に兄と名乗るキリル様のようだ…」
ドナートのつぶやきが聞こえてしまった。
「そうですねぇ…」
アルトゥールは無視出来ずに返答した。
「キリル様といえば、芝居の書籍化は大成功だったらしい。我が家にもある。ユーリャが読んでくれとせがむが読み聞かせていいのだろうか」
「…芝居はご家族で見に行ったのですよね?」
そんなに嫌なのだろうか。長編らしいから読むのが大変なのだろうか。だが、何日かに分ければいいだけなので、そんなに悩む話じゃないだろう。
「ああ、だがユーリャは途中で寝ていたりしたから、所々抜けているんだ。主に泥沼の部分だ。子どもにはつまらなかったようだ」
「泥沼って…そこを上手い具合に飛ばすとかどうでしょう?」
「はぁ、そうするしかないのか。しかし、自分で読めるようになった時に私に読んであげたのと違うと言われたらどうしようかと思ってな…」
悩める父親ドナートがいた。
「…ああ、なるほど。ユーリャは賢い子だから分かってくれますよ。なんなら、キリル様に子ども向けに編集した本を出していただくとかはどうでしょう?」
「いい案だな…。帰ったら手紙を出そう。ありがとう。義弟よ」
ドナートは怖い笑顔になった。
「ひぃっ!」
ドナートの顔を見てアルトゥールが怯えた。
「まだ怯えるのか。義弟よ」
「そりゃ、まぁ…。いえ、そんな事はありません」
「一生、この関係は変わらないから諦めろ」
「はい、義兄上……」
アルトゥールは男兄弟に憧れていたが、まさか友人が義兄になるなんて思っていなかった。
「まだ公式に発表されていないが、王太子妃の妊娠が判明したようだ。アレクサンドル殿下から直接聞いたから間違いない」
「おおっ!おめでたいですね」
おそらく、というか確実に王太子の子どもとアルトゥールとドナートの子ども達は友人になるのだろう。一緒に遊んで、喧嘩して、怒られて…沢山勉強をするのだろう。アルトゥールがそうだったように。今は滅多に会えなくなってしまったが、隣の国だから会いに行こうと思えばすぐにでも行ける。
「アレクセイ殿下に会いたくなってきました」
「そうだな」
アルトゥールとドナートは隣の国に婿入りした友人を思い、窓から見える北の山々を見た。
更新はこの話で終わりますが、何か思いついたら書くかもしれません。
続編は9月21日(月)から開始予定です。
続編のタイトルは「緑豊かな大地へ」です。
別作品ですのでこちらには投稿しませんので、ご注意ください。




