番外編5 絵描きの少女
絵描きの少女となっていますが、実際は幼い王女のお話です。
続編の予告兼プロローグを投稿いたしました。題名は「緑豊かな大地へ」です。よろしければこちらもご覧下さい。
「まぁ!その子はそんなに絵が上手なの?」
「はい!とっても上手でした」
王女は母である王妃に言った。王妃も娘がこんなに楽しそうに話をするのは久しぶりなので聞いているだけで嬉しくなった。
「王城内にわざわざ部屋を用意されているのだから、女王陛下も目をかけてらっしゃるのかしらねぇ?」
王太后も孫娘の話を楽しそうに聞いている。
「そう言えば、部屋には軍服を着た女性がいました」
「…お世話係だったら侍女よねぇ」
王太后は頬に手を当て首を傾げる。その手には指輪が光っている。
「何か事情がおありなのかしら?」
「えっと、マリアというのも子ども達が勝手に呼んでいる名前なのだそうです」
「え?本当の名前は分からないの?」
王妃は驚いて王女に聞き返すと王女は小さく頷いた。
「ええっと、皆さんも詳しくは分からないそうですが、お母さんと別れて暮らす事になったのだそうです」
「それでお城に住んでいるの?ますます事情が分からなくなってきたわねぇ…」
王太后は最近うっすらと目立ってきた皺がより際立った。
「マリアさんはなんと言っていたの?」
王妃は王女を見つめて尋ねた。王女もしっかりと王妃を見ている。
「いいえ、なんにも。彼女はいつも絵を描いているだけなんですって」
「喋れないのかしら?耳が聞こえないとか?」
王太后は再び首を傾げて言った。
「皆さんと挨拶したら、ちょっとだけこちらを気にしたので音は聞こえるのだと思います」
「人と交流するのが苦手なのでしょうね。絵で自己を表現しているのでしょうか」
王妃は考えながら言葉を発した。少女が母親と別れて暮らさねばならぬ原因がぼんやりと分かった気がした。
「そうだわ。どんな絵を描いていたの?」
「色々です。あっ、でも夜空の絵は陛下のためなんですって。毎日は描かないのだけれど、陛下に来て欲しい時には描くんじゃないかって、皆さんが言ってました」
「夜空…」
「?」
王女は祖母が意味深に言った言葉に首を傾げた。
「娘が迷子になったおりに、子ども達に助けてもらったと聞きました。ありがとうございます」
国に帰る前に女王が見送りの挨拶に来た。王妃は女王に一昨日の出来事に対する礼を言った。
「いえ、こちらこそ管理が行き届きませんで、王女には不安な気持ちにさせてしまい申し訳ございませんでした」
若い女王が言った。実によく整った容姿をしているが、どこか儚げで可憐、太陽よりも月の光が似合いそうな女性だ。芝居の役に一番人気よりも入団して間もない新人、しかもその中でも二、三番手の役者を抜擢した理由がよく分かる。
「そんな!私がこっそり抜け出したからです。ごめんなさい」
王女は多くの大人の目を盗んで、一人で王城の探索をしようとして迷子になってしまった。憧れの物語の舞台をどうしても自分の目で見ておきたい、その好奇心を抑えきれなかった。
「…子ども達もお姫様に会えたと大変喜んでいたそうですよ。今日も嬉しそうに話をしていたと聞きました」
「どっ、どなたが?!」
王女が大きな声を出して勢いよく立ち上がった。女王だけでなく、王太后と王妃も驚いていた。
「えっ?将軍ですけど…」
女王はそれまでお行儀良く座っていた王女の豹変に驚いていた。
「ほっ、本当ですか?!」
王女はさらに大きな声を出し、女王に近づいて手を握った。王女は目を輝かせ、頬も色づかせている。
「なんと、なんと言っていましたか?!」
王女はかなり興奮しているようだ。かなり前のめりになっている。
「え…ごめんなさい。そこまでは聞いていないのです。…テオドロに何か伝えておきますか?」
女王は困惑しながらも王女の気持ちを察したようだ。
「えっ!あ、あの…。また会いたいと…」
「分かりました。伝えておきます」
女王は微笑んだ。王女は小さくお願いしますと呟いた。
王太后は王女をどうするか悩み、王妃は王女の応援を決めたのだった。
「おほんっ。そうですわ、この子から聞いたのですけど絵が得意な子がいるそうですね」
王太后は一度咳払いをし、話を切り替えた。
「はい。おります」
「もしよろしければ、その子を我が国に留学させてみませんか?…その子と同じような子達が絵の勉強など、それぞれに合った学びが出来るようになっているのです。学費などはこちらで負担いたします」
王妃は王太后に代わって、にこやかに言った。
「そんな…すでに十分なほど沢山のお祝いの品をいただいております。これ以上甘えるわけにはいきません。諸官と相談してから返事をさせていただきます」
王太后は遠慮深いのだなと思いながら女王と王妃の話を聞いている。
「実は我が国では芸術家育成のために数年おきに各国から数人の留学生を募ってもいるのですよ。この留学生には奨学金が給付されます。ケレース王国からはまだ一人も留学生が来ておりません。せっかく才能がある子がいるのですから、是非とも前向きに考えてみてください」
絵描きの少女は二つの項目で該当するようだ。
女王は大きな国は色んな仕組みがあるのだなと感心した。少し意思の疎通が苦手な子のための教育があったり、それも自国民のためでなく他国から留学生を募っているのだ。
「そうだったのですね。感謝いたします。本人に確認してから決めますね」
王妃からの説明に女王は納得したようだ。
ここで侍女から時間が告げられた。
「今度は陛下とアレクセイ殿下との結婚式にお邪魔致しますわね」
王太后は今日一番の笑顔で言った。王太后はもっと色々と聞きたかったが後がつかえてはいけないので、この言葉で女王がどんな反応をするのかだけ見たかった。
「え、ええ…」
女王は恥じらい、頬を赤くした。今までは凜々しさと涼やかさを持った女王の顔をしていたが、急に恋する乙女の顔になり、もじもじしだした。
王太后と王妃はしっかりとその様子を目に焼き付けた。あまりからかうのは得策でないので二人は笑顔のままでいた。
台風にお気をつけ下さい。では、次回の更新で!




