番外編4 帰国後のイワン
サブタイトルの通りイワンの視点です。本編終了後より結構先の話です。
タチアナの次の候補の犬鷲を調教していたら逃げられた。とんだお転婆娘だ。こんな失態を演じるなんて今までなかった。
「あっ!あんな所にいやがった」
犬鷲は高い木のに上にいた。俺が笛を吹いても戻って来ない。そうこうしているうちに、またどこかに飛んで行ってしまった。雨が降りそうなのでさっさと帰りたいのだが。
「ああ、くそっ!」
俺が必死に追いかけると犬鷲は墓地近くの大木の枝に留まった。
「ほら、降りてこい」
犬鷲は言葉を理解したのか枝から飛び一周だけ旋回して俺の腕に留まった。
「まったく…とんだじゃじゃ馬だな。まぁ、鷲だけどな」
犬鷲の足にしっかりと紐をつける。さっきもつけたはずなのに、何故か外れていた。不思議な事もあるもんだと思った。
「はぁ、帰るか…」
捕獲した安堵からどっと疲れが出た。そう、決して年齢のせいではない。普段から鍛えているからそれはあり得ない。
日は傾き始めていた。墓地内を見てみると、俺と同じく帰路につくであろう人が何人かまばらにいた。しかし、一人だけじっと動かずしゃがみ込んだままの人物の後ろ姿が見えた。服装からして女性だろう。話しかける義理もないのでその日はそのまま帰った。
数日後、またお転婆娘が脱走した。あんなに厳重にしているのに逃げ出すとは知能犯なのだろうか。だが、しっかりと調教すればかなり優秀な犬鷲になるだろう。そう思い期待してしまう俺がいる。
犬鷲はまた墓地の方向に飛んでいったので早足で行くと、やはり同じ大木の木の枝に留まっていた。よっぽどここが気に入ったのだろうか。
「ほら、こっち来い」
俺がそう言うと素直に腕に留まった。犬鷲の顔を見ると何の悪びれもせずにすまし顔だった。
「追いかけて欲しいのか?嫌いじゃないが…」
嫌いじゃないが好きでもない。いや、人によるというのが正しい。まぁ、鷲だが。
俺が大きなため息をつき、ふと墓地内を見ると見覚えがある後ろ姿が見えた。
「あれは何日か前の…」
話しかけるか悩んだが、悩むのだったら話しかけようと思い近づいた。思いついたら即行動だ。
何歩か歩いたら晴れているのにポツリポツリと雨が降ってきた。
「うわっ…なんだよ……」
俺が雨に悪態をつくと、しゃがみ込んでいた女性がはっと顔を上げて、俺を振り返って見てきた。
「ああ、すみません。驚かせてしまったようですね」
「い、いえ、私の方こそ驚いてしまって……」
女性は一度俺の顔を見たが、すぐに下を向いてしまった。一瞬見えた女性の顔は着ている洋服等からするととても若く見えた。おそらく俺と同年代だろう。
女性の後ろの墓を見る。墓の主の生年を見ると八十歳近くで亡くなったようだ。父でなくはないだろうが一応可能性が高い方を言う。
「おじい様のお墓参りですか?」
「……いいえ、主人のお墓です」
女性は困ったように笑った。その顔はあまり生気を感じられなかった。
俺は予想外の答えに驚いたが、後妻かもしれないと考えた。貴族なら良くある話だ。
「…そうでしたか。それは失礼いたしました」
「いえ、そう思われても仕方ありません。私もはじめは驚きました。ですが、私の実家の借金を肩代わりしてくださると申し出てくださったので、結婚いたしました。おかげで実家は持ち直すことが出来たのです」
「そう、でしたか…」
俺は墓の主の名前を見る。そこには同性愛者か無性愛者なのではないかと噂されていた人物の名前が彫ってあった。誰かと特別親しくしているとの噂は聞かなかったので後者だと思う。
墓の主は年老いるまで結婚しなかったが、親戚らが一度は結婚したと体面を保つために彼女と結婚させたのではないかと勝手に推測した。
「…私は子を授かれなかったので、甥の方が家を継ぐそうです。すみません。初対面の方にお話していい内容ではなかったですね…」
「いえ、それで貴女の気持ちが軽くなるのでしたら、いくらでも聞きますよ」
俺がそう言うと、女性は一度目を開いて驚いた顔になったがすぐに微笑んだ。血色も僅かだが良くなってきたようだ。
「ありがとうございます。…ところでそちらのお連れの方は?」
女性は俺の腕に留まっている犬鷲を興味深そうに見てきた。犬鷲は相変わらずすまし顔だ。
「ああ、これは訓練中の犬鷲です。そうだ、こいつにはまだ名前を付けていないので、ここで会ったのも何かの縁です。貴女の名前をいただいてもよろしいでしょうか?」
「え?ええ、私の名前でよければ…」
「おっと、申し遅れました。私の名前はイワンです」
自分から名乗るのが礼儀だ。危ないところだった。
「ええ、イワンさんですね。私はタチアナと言います」
「…タチアナさんですか。あー、今の犬鷲もタチアナなんですよ」
「ああ、そうなんですね。ではエフゲニアではどうでしょうか。私の母の名前なのですけど」
「エフゲニアよかったな。今日からお前はエフゲニアだ」
エフゲニーだったら長兄の名前と同じだったなとちらりと思った。
「うふふっ、可愛いですね」
「そうでしょう。なかなかのお転婆で手を焼いているのですけど、そのおかげでタチアナさんに会えたので、よしとしましょう」
「まぁ!面白い方」
タチアナは小さく声を上げて笑った。頬は赤くなっている。
つかみは良いようだ。後はどうしようか。年が近すぎる。最近の相手からすると十歳以上は年下だろうか。
(いや、若かった頃はこのくらいの年の女性と付き合っていたか…)
たまには趣向を変えるのもいいだろう。未亡人には違いないのだから。
予定している番外編は後二話です。
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